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190・召喚魔法
しおりを挟む「俺は召喚魔法士だったのか……」
火照った掌と炎の奥に鎮座する獣を交互に見比べるーー異世界に来て初めて発動した魔法が生活魔法飛び越しての召喚魔法とは……興奮で胸が高鳴る。
(……悪くない、悪くないぞ、寧ろ格好良い!)
多彩な魔法の才能を持つエリート達が集う第三騎士団の中でも召喚魔法士だと言う者を聞いた事が無かった。それどころか調教士なんて職業も一切話題には上がった事が無いーーつまりこれはきっとレア魔法だ。
そもそも、獣人がいる世界でそれに近い種の召喚や調教が可能ならば、とっくに改良されて獣人を奴隷化する魔法が生まれてたっておかしくない。しかしそんな話は聞いた事が無いし、仮にそんな魔法があるならば人族と獣人の戦争など起こってはいないだろう。
つまり、この世界には動物や魔物を使役する魔法自体が無い可能性が有る。そうだなーー寧ろ無いからこそ、誰も俺の召喚魔法士としての才能や可能性を考えつかなかったんじゃないだろうか。
もしかしたら俺は、この世界での初の召喚魔法士かもしれない。と言う事はこの魔法、レアどころかURも有り得るな!
件の召喚獣と言えば頭を低くして怯えた様にずっと唸っている。
まぁ初めて召喚されたのだから戸惑うのも仕方ないけれど、いつまでも召喚主である俺への警戒心を解こうとはしないのは何故だろう?
「おかしいな? 俺は動物からは割と好かれるタイプなのに……そうか! これは主人公と召喚獣が初めて契約を結ぶシーンだ!」
きっと召喚した後に契約をしなければならないんだ。「君に決めた!」と宣言するのか、血でも飲ますのかーー手順が分からないが、先ずは触れ合いだろう、取り敢えず近付いてみるか。
「うーん、今日は天気が良くないなぁー」(棒)
そっと立ち上がり、まるでそちらに興味の無いかの様に振る舞いながらゆっくりと足を進める。この際、成るべく相手の目を見ないのがポイントだ。動物界の中では、目を合わせることが敵意のあらわれであると考えられているらしいからな。
軽く目を合わせただけで敵意って、田舎でイキがる不良みたいだな。いや、この場合は不良が動物的だと言うべきか。
「グォォオオ」
俺がこれだけ気を遣っているってのに、近付いて行くに連れ召喚獣の唸り声は大きくなって行く。
もしかしたら「我を従えたくば、汝の力を示せ!」みたいな、一度屈服させなきゃ眷属しないタイプかもしれない。その時はボディに一発良いのを入れてやろうーー左フックだ。
(意思疎通が出来る気がしないけど、大丈夫かな?)
チラリと見た召喚獣の目はなんだか虚だ。犬でも猫でも目を見れば何となく喜怒哀楽が読めるものだが、コイツは何だろう……全く感情が読めない。魚類ーーそう、まるで深海に住む鮫みたいに表情の無い目だ。
「まぁ、見た目はあまり良くないけど、初めての召喚獣だと思えばその内可愛く見えて……ん? お前、一体何を抱えてーー」
良く見ると召喚獣は何かを俺から隠す様に抱えこんでいるーー身を捩る召喚獣の腕に潰され、それは小さな呻き声を漏らした。
「う…うぅ……」
「グゥ、グオガァァアア!!」
その声を掻き消す様に召喚獣が突然大きく吠えた。ビリビリと辺りが震える程の咆哮に思わず両手で耳を塞ぐ。その声が洞窟内まで届いたのだろう、ヘイズが槍を片手に血相を変え飛び出してきた。
「どうした兄弟!」
「グオッ! ーーグガウッ? 」
その声に驚いたのか、召喚獣は素早く洞窟へと向きを変え飛び掛かろうと構えるが、ヘイズの持つ槍に怯んだのか一瞬動きを止める。そして次の瞬間、まるでゴリラみたいに片手を地面に付きながら俺の横を駆け抜けて奥の森へと猛然と走り去って行った。
「えっ、おい! 何処に行くんだ俺の召喚獣!?」
咄嗟に追いかけようとした俺に慌ててヘイズが声を掛け止める。
「駄目だ兄弟、深追いは不味い!」
「あ~…………別に取ったりしないのに」
きっと召喚獣が大事そうに抱えていたのは獲物か何かだったのだろう。俺に取られるとでも思ったのだろうか? 少し前の俺なら兎も角、これから兎肉食べ放題が確定している今、横取りなんて下品な事はしないのに。
召喚獣が去った森へと名残惜しそうに手を伸ばす俺に向かって、ヘイズは額に滲む汗を払いながら驚きの声を上げる。
「ありゃあ魔獣人だ。まさか本当に出るとは……」
「……えっ? いやいや、魔獣人って、あれは俺が召喚した召喚獣さ」
「兄弟が? 召喚??」
「ちょっと見てて、今もう一度呼んでみるからーー出でよ、俺の召喚獣!」
俺は先程と同じ様に両手を翳して何度も呼吸方を試すが……再び召喚獣が現れる事は無かった。
「…………召喚に……応じない……か。うん、成る程、やっぱりね。つまりあれは、確かに魔獣人だったって事だ……間違いない」
バツの悪くなった俺はそれっぽい事を呟きながら、腕を組んで大きく頷いた。
「?? あ、ああーーそうだよな。それにしても流石兄弟だ、あっさり追っ払っちまうんだからよ」
よし、上手く誤魔化せた様だ。召喚魔法とか夢見ちゃった自分が恥ずかしい。
それにしても、俺が召喚したんじゃ無いなら単純にアイツが崖上から飛んで来たって事か? 絶妙なタイミングで現れやがって、紛らわしい!
「おい、何だよ今の咆哮は?」
恐る恐る洞窟の入り口から顔を覗かせるシェリーは鼻をひくつかせて怪訝な顔をする。
「ーーうっぷ、凄ぇ獣臭だな! それに血の匂い? 熊でも出たのかよ、でも……何だか嗅ぎ慣れた臭いも混じってる様な……」
「あん? 言われてみりゃ確かにーー」
ヘイズは召喚獣……もとい、魔獣人が居た辺りの臭いを丁寧に嗅ぎ分けてゆく。
鼻が良いならもっとパッと分かりそうな気もするのだが、俺には感じられない色々な匂いが複雑に絡み合っているので紐解くにはある程度の時間は必要との事。
視覚的感覚で例えるなら、それこそ俺の得意である「大勢の中からウォーリーを探す」みたいな単純なものでは無く、何度も重ね塗りされた油絵の元の色味を探ぐる様なーー割と繊細で大変な作業らしい。
「犬が鼻が付くんじゃないかってくらい至近距離でオシッコの匂いを嗅ぐのはそう言う訳があったのか!」
「……アンタ、嫌な例え方すんのな」
「シェリーは嗅がないのか?」
「はぁ!? 嗅ぐわけねぇし! ばっかじゃねーの!」
しまった、「ヘイズ一人で臭いの調査やらせて良いのか?」って意味だったんだけど……言い方間違えたな。
顔を赤らめたシェリーが憤慨している中、ヘイズは何度も何度も確かめる様に地面の臭いを嗅いでいたのだが、急に「ーー信じられない」とガックリと項垂れて、呻く様に天を仰いだ。
「……嘘だろ? この臭いは……ガウル……だ……」
「あんの馬鹿っ!! きっとアタイ達の跡を付けて来たんだ!」
「ーーえっ? じゃあ、さっきアイツが抱えてたのって……ガウルだったの!?」
魔獣人が大事そうに抱え去って行ったのは、此処に居る筈の無い狼獣人ガウルだった。
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