171 / 276
171・道案内
しおりを挟む「あの入り口に青い布が掛かってるのが飲み屋、あっちの黄色いのは道具屋やな。大したもんは無いが偶に掘り出しもんが出る事もあるんや」
似た様な建物ばかりだが、表に出ている布の色で何屋か判別出来るらしい。そして布の色は日によって変わるそうだ。
そんな貧民街豆知識を鳥獣人は腕代わりに付いている大きな翼をあちらこちらへと向けながら甲高い声で教えてくれる。
「それじゃあ、毎回店探さなきゃならないじゃん。何でそんな面倒な仕様にしたんだろ?」
「仕入れた物次第で売るもんが変わるからやで兄さん。酒樽が手に入れば酒屋になるし、胸当てを拾えば防具屋になる。まぁあの辺は個人店やさかいそんな感じやけど、繁華街にはちゃんとした飲み屋もあるから安心してや」
「バルッフ、バルッフ」
あの後、獣人と話が通じる事が分かった俺は彼等と取引をしたーー串肉をやる代わりに貧民街の案内を頼んだのだ。
最初はタダで寄越せと理不尽な事を言っていた二人だが、首根っこを掴んで地面に押し倒しながら丁寧に頼んだら快く承諾してくれたーー獣人にも俺の交渉術がちゃんと通じるのが分かった瞬間だ。
(まぁ、もう脂の固まった冷たい串肉だし、味にも飽きてきたからそのままやっても良かったんだけどな)
だがもしも俺が二人に言われるが儘に串肉を差し出していたならば、周りで見ている奴等はどう思っただろう? きっと、脅せば直ぐに差し出すチョロい奴だと思ったに違いない。
しかし、仕事の対価として報酬を渡す事でこれは取引となった、片方による一方的な搾取では無く対等な関係にだ。
これが俺をカモろうとしている他の住民達への牽制になっていれば良いのだが……。
それに、逃亡者となった俺にとってこの辺りの地理の把握は必須。どのみち散策は必要だった事である。串肉何本かで地元の者に案内をして貰えるなら安い物だ。
「しっかし、兄さんは幸運やで? なにせ鳥獣人であるワイが案内するんやからなあ」
翼で抱えた紙袋に鳥特有の鉤爪が付いた足を突っ込み、器用に串肉を取り出した鳥獣人は肉を啄みながら俺を見上げた。
「幸運って……何で? あ、もしかして君、飛べるの?」
「当たり前や、この翼を見てみい! 立派やろ? ワイはいつもこの街を空から眺めとるんや。貧民街をワイより詳しく案内出来る奴はおらんやろなぁ」
俺の腰程の背丈しか無い鳥獣人が鶏冠を前後へ振りながら自慢げに踊る姿はミミズを啄む鶏そのものなんだけどーー鶏のくせに飛べるんだ……。
ーー俺は鳥獣人の姿を改めて良く見る。
嘴と鶏冠が付いてるが、どちらかと言えば顔立ちは人寄り。反面、大きな翼にスラリとした鉤爪が付いた細足ーー身体は随分と鳥に寄っている。今は革のベストを身に付けている為分からないが、空を飛ぶ程に翼をはためかせるのであれば彼の胸筋はかなり発達しているんだろうな。異様に小柄な体型もきっと飛ぶ事に特化した結果に違いない。
一方、馬面男の外見は不思議と馬面以外に特に変わった所が無いーー馬の被り物をした普通の人の可能性を疑うレベルだ。街中にはケンタウロスの様な獣人も居たので、一口に馬獣人と言っても色々な種類があるのかもしれない。
「バルッフ、オブルッファ」
クッチャクッチャと実に幸せそうに肉を噛む馬面男が、まだ遠くに見える赤い屋根を指差し喉を鳴らす。
「そうそう、あれが兄さんが探しとる教会や」
「あれか、結構外れにあるんだな」
貧民街に入ってからそれなりの時間を歩いた筈だが、見えた目印はまだ随分先だ。
「せやな、ここから20分ってとこかーーおっと、これは兄さんが空を飛べたならの話やで? 飛べない兄さんなら倍は時間掛かるやろうなぁー残念!」
空飛んでーーって、直線距離で20分って事か。あの時みたいに壁壊しながらなら俺もそれくらいで行けそうだな。
「そうそう、反対側にはさっき言った繁華街があるんやけど今から見に行こか?」
「いや、暗くなる前には教会へ着きたいし……繁華街はまた今度でいいや」
いくら慈悲深いイメージがある教会だって、あまり遅い時間に訪問するのは心象が悪い。多分、これからお世話になる予定なのだ、第一印象は良いに越した事無い。
「そうか~、繁華街にはギルドとか娼館とか他にもオモロい店があったんやけどなぁ。まぁ兄さんがそう言うならーー」
「…………ちょっと待て、娼館だって?」
娼館ーー綺麗なお姉さんが多彩なサービスで盛り上げてくれちゃうっていう……あの娼館か!
そういや異世界に来てからと言うものそっち関係はすっかりご無沙汰である。
思わずポケットの中のお金を確かめる。
(ーーまだそれ程減ってない様な気がする)
いや分かってるーーこれはカイルから貰った大事なお金だ。これから先どうなるかが分からないのだからこんな事に使うのは間違っている。もっと良く考えて有意義に使うべきだ!
(ーーだが待てよ? 俺がこれから訪ねるのはどこだ? そうだ、教会だ。「神の御前に立つ前には身体を清め、不浄を落とすのが礼儀」って何かで見た気もする……)
だったらーーだったら、俺の中の不浄もきちんと落としてから行くべきではないだろうか!
「ーー鳥君! 空を見ればまだ日が暮れるまで余裕がありそうだ。さぁ、繁華街まで案内してくれたまえ!」
「鳥君って……ワイにはピリルって名前があるんやけどな……まぁええわ! じゃあ今から行くっちゅう事でええな!」
「ブルッフ、バルボ! フォルムバルボ!」
「そうそう、こっちはバルボ言うねん」
「ピリルにバルボね? よーし、時間が勿体無いから駆け足してこうぜ! 俺、何か楽しくなってきたわ!」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる