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171・道案内

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「あの入り口に青い布が掛かってるのが飲み屋、あっちの黄色いのは道具屋やな。大したもんは無いが偶に掘り出しもんが出る事もあるんや」

 似た様な建物ばかりだが、表に出ている布の色で何屋か判別出来るらしい。そして布の色は日によって変わるそうだ。
 そんなを鳥獣人は腕代わりに付いている大きな翼をあちらこちらへと向けながら甲高い声で教えてくれる。

「それじゃあ、毎回店探さなきゃならないじゃん。何でそんな面倒な仕様にしたんだろ?」
「仕入れた物次第で売るもんが変わるからやで兄さん。酒樽が手に入れば酒屋になるし、胸当てを拾えば防具屋になる。まぁあの辺は個人店やさかいそんな感じやけど、繁華街にはちゃんとした飲み屋もあるから安心してや」
「バルッフ、バルッフ」

 あの後、獣人と話が通じる事が分かった俺は彼等と取引をしたーー串肉をやる代わりに貧民街の案内を頼んだのだ。

 最初はタダで寄越せと理不尽な事を言っていた二人だが、首根っこを掴んで地面に押し倒しながら丁寧に頼んだら快く承諾してくれたーー獣人にも俺の交渉術がちゃんと通じるのが分かった瞬間だ。

(まぁ、もう脂の固まった冷たい串肉だし、味にも飽きてきたからそのままやっても良かったんだけどな)

 だがもしも俺が二人に言われるが儘に串肉を差し出していたならば、周りで見ている奴等はどう思っただろう? きっと、だと思ったに違いない。

 しかし、仕事の対価として報酬串肉を渡す事でこれは取引となった、片方による一方的な搾取では無く対等な関係にだ。
 これが俺をカモろうとしている他の住民達への牽制になっていれば良いのだが……。

 それに、逃亡者となった俺にとってこの辺りの地理の把握は必須。どのみち散策は必要だった事である。串肉何本かで地元の者に案内をして貰えるなら安い物だ。

「しっかし、兄さんは幸運やで? なにせ鳥獣人であるワイが案内するんやからなあ」

 翼で抱えた紙袋に鳥特有の鉤爪が付いた足を突っ込み、器用に串肉を取り出した鳥獣人は肉をついばみながら俺を見上げた。

「幸運って……何で? あ、もしかして君、飛べるの?」 
「当たり前や、この翼を見てみい! 立派やろ? ワイはいつもこの街を空から眺めとるんや。貧民街をワイより詳しく案内出来る奴はおらんやろなぁ」

 俺の腰程の背丈しか無い鳥獣人が鶏冠トサカを前後へ振りながら自慢げに踊る姿はミミズを啄むニワトリそのものなんだけどーーニワトリのくせに飛べるんだ……。

 ーー俺は鳥獣人の姿を改めて良く見る。

 クチバシ鶏冠とさかが付いてるが、どちらかと言えば顔立ちは人寄り。反面、大きな翼にスラリとした鉤爪が付いた細足ーー身体は随分と鳥に寄っている。今は革のベストを身に付けている為分からないが、空を飛ぶ程に翼をはためかせるのであれば彼の胸筋はかなり発達しているんだろうな。異様に小柄な体型もきっと飛ぶ事に特化した結果に違いない。

 一方、馬面男の外見は不思議と馬面以外に特に変わった所が無いーー馬の被り物をした普通の人の可能性を疑うレベルだ。街中にはケンタウロスの様な獣人も居たので、一口に馬獣人と言っても色々な種類があるのかもしれない。

「バルッフ、オブルッファ」

 クッチャクッチャと実に幸せそうに肉を噛む馬面男が、まだ遠くに見える赤い屋根を指差し喉を鳴らす。

「そうそう、あれが兄さんが探しとる教会や」
「あれか、結構外れにあるんだな」

 貧民街に入ってからそれなりの時間を歩いた筈だが、見えた目印はまだ随分先だ。

「せやな、ここから20分ってとこかーーおっと、これは兄さんが空を飛べたならの話やで? 飛べない兄さんなら倍は時間掛かるやろうなぁー残念!」

 空飛んでーーって、直線距離で20分って事か。あの時みたいに壁壊しながらなら俺もそれくらいで行けそうだな。

「そうそう、反対側にはさっき言った繁華街があるんやけど今から見に行こか?」
「いや、暗くなる前には教会へ着きたいし……繁華街はまた今度でいいや」

 いくら慈悲深いイメージがある教会だって、あまり遅い時間に訪問するのは心象が悪い。多分、これからお世話になる予定なのだ、第一印象は良いに越した事無い。

「そうか~、繁華街にはギルドとか娼館とか他にもオモロい店があったんやけどなぁ。まぁ兄さんがそう言うならーー」
「…………ちょっと待て、娼館だって?」

 娼館ーー綺麗なお姉さんが多彩なサービスで盛り上げてくれちゃうっていう……あの娼館か! 
 そういや異世界に来てからと言うものそっち関係はすっかりご無沙汰である。

 思わずポケットの中のお金を確かめる。

(ーーまだそれ程減ってない様な気がする)

 いや分かってるーーこれはカイルから貰った大事なお金だ。これから先どうなるかが分からないのだからこんな事に使うのは間違っている。もっと良く考えて有意義に使うべきだ!

(ーーだが待てよ? 俺がこれから訪ねるのはどこだ? そうだ、教会だ。「神の御前に立つ前には身体を清め、不浄を落とすのが礼儀」って何かで見た気もする……)

 だったらーーだったら、俺の中の不浄もきちんと落としてから行くべきではないだろうか!

「ーー鳥君! 空を見ればまだ日が暮れるまで余裕がありそうだ。さぁ、繁華街まで案内してくれたまえ!」
「鳥君って……ワイにはピリルって名前があるんやけどな……まぁええわ! じゃあ今から行くっちゅう事でええな!」

「ブルッフ、バルボ! フォルムバルボ!」
「そうそう、こっちはバルボ言うねん」
「ピリルにバルボね? よーし、時間が勿体無いから駆け足してこうぜ! 俺、何か楽しくなってきたわ!」

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