筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

文字の大きさ
上 下
168 / 285

168・カンダタSTYLE

しおりを挟む

【カンダタ】とは?
 ビキニパンツ一丁の裸に緑のブーツと手袋を着用し、頭から目出しマントをかぶるという格好で右手に斧を持ったマッチョなキャラクター。言わずと知れた某有名RPGドラクエに出てくる盗賊の親分である。


(お、俺はこんな格好で街を歩いていたのか……そりゃあ皆んなこっちを見る訳だ)

 意図せず街中でカンダタSTYLEを披露していた事に気付いた俺は、今更ながら人目を避ける様に店の軒先を覆う天幕を支える柱に身を縮める。
 不審な目で此方を見ている店主に俺はニカッと愛想笑い返しながらイソイソと被ったマントを外した。

(寝起きに急に連れ出されたから格好の事をすっかり忘れてたわ)

 第三騎士団の食堂には冷暖房が完備しているのだが「タダじゃねぇんだぞ!」とウービンさんは店を閉める時には止めてしまうーー防犯上窓も開けられない。
 その為、俺は比較的涼しい食糧庫近くに寝床を作る事と薄着(上半身裸とウルトが切り過ぎたズボン)で寝る事で暑い夜を切り抜けてきたのだーーまさかそれが仇になろうとは思わなかった!

(ーーカイルが急かすからだ! 今度会ったらひん剥いて同じ格好カンダタSTYLEさせてやる)

 荷物の中にちゃとしたズボンも有るはずだが、こんな往来で着替えては益々目を引いてしまう。
 取り敢えずマントを肩から羽織り直して前ボタンを留める事で筋肉を隠す。腰までしか無いマントの丈がまるで「ほ~ら、見てごらん?」の変質者の様だが……こっち異世界にこの手の変質者が居ない事を祈ろう。

(さっさと食って、裏行って着替えよう……)


 ーーゴホンッ さてさて、これはかなり大きな串肉だがどんな味かは予想が付かない。食えないって事は無いだろうが、沢山買って不味かったら大変だから取り敢えずの一本だ。

(見た目はゴツイ焼き鳥っぽいな、緑色のタレが気になるけど……)

 未だ不審者に警戒の目を向ける店主の前で、俺は他意は無いと示す様にガブリと勢い良く串肉に齧り付く。

 ハグハグ、うん! 鳥モモ肉の様な弾力と豚肉みたいなジューシーな肉汁! 
 想像してたより美味いな、何の肉かは知らないがコイツは当たりだ! 懸念していた緑のタレは山葵ワサビの様な爽やかさが有り、肉の脂で塗れた口の中をサッパリさせてくれる。

「おじさん、美味いよこれ! 後10本ちょうだい!」
「お、おう、そうか? 今焼くからちょっと待ってな!」

 絶賛したからか、はたまた追加で10本頼んだからなのか、店主の態度が少し緩んだ気がする。
 この調子で不信感を排除する様、先に店主に金を渡し串肉の残りを咀嚼しながら肉が焼けるのを待つ。

「うちの串肉は他店とはタレが違うのよ、分かるか? 舌先にピリっとサッパリした酸味が広がるだろ? コイツはアボルガの実を砕いた物に……おーっと、これ以上は企業秘密だ」

 他店との違いなど此処が初めての俺にはサッパリ分からないが、取り敢えずウンウンと愛想良く頷いておくーーどうやら店主は肉を焼きながら世間話をするぐらいには警戒心を解いてくれた様だーーチャンス到来!

「そうそうーーおじさん、これ何て書いてるか読める?」

 シュババと店主との距離を詰めメモを広げる。この世界の誤字率がどれくらいかは分からないが、壁にメニューらしき物も貼ってある事だし、商売を営む店主であれば多分読めるだろう。

「ん~~?」

 店主はメモを見ながら俺を一通りジロジロ眺めると不機嫌そうにメモを乱暴に突き返す。

「なんだお前、貧民街のヤツか! ほら、これ持ってさっさと行ってくれ!」

 店主はまだ焼いている途中の串肉を紙袋へ詰め込み俺へと押しやるとプイッとそっぽを向いてしまった。

「と、と、と……何?ーー急に態度変わるじゃん!」

 先程の打ち解けた態度は何処へやら、突然の店主の変わり様に面を食らう。

「お前らとは関わりたくないんだよ、早く行っちまえ!」
「いやいや、行くよ? 行くけどもーーその行き先を知りたいんだよ! 何て書いてあったかだけでも教えてよ。ほら、串肉だって沢山買ったろ?」

「……ッチ、教会だーーそこの裏通って暫く行ったら右へ曲がれ、そのうち赤い尖った屋根が見えてくる。貧民街にある教会はそこ一つだけだ」

 吐き捨てる様に言った後、店主は顰めっ面でシッシッと俺に向けて手を払う。

「裏通って右ね……分かった、ありがと!」

 急な塩対応が気になるが、腹拵えはらごしらと行き先を聞くって言う当初の目的は果たしたので素直に俺は店を後にした。

 それにしても貧民街か、良いイメージが全く湧かないんだが……。

「カイルの奴、一体俺をどんな場所に行かせる気なんだ?」




「おい串屋よ、さっきの客は一体何だ?」

 一部始終を見ていた隣の店主が串肉屋の店主を揶揄う様に聞いてきた。長屋である為、隣の出来事は大抵筒抜けなのだ。

「全く、朝一で変な客引いちまった」
「でも結構買って行ったんだろう? 羨ましい話じゃねぇか」

「そりゃまぁ……な。だが、格好も、挙動も、全部が怪しいったらありゃしねぇ! この金だってどっから持って来たんだか分かったもんじゃねぇや」
「いいじゃねぇの、真っ当だろうが無かろうが金は金だ。で、何聞いてきたんでぇ?」

「字が読めねぇのか、コレ読んでくれってメモ渡されたんだよ」
「ーー何て書いてあった?」

「ーー教会へ行け、それだけだ」
「へぇ、教会?」

 ーー隣の店主は「はて?」と頭を捻る。平日の、しかもこんな早朝から教会に行くのは教会関係者と熱心な信者、後は金の持っている怪我人くらいなものだ。

 教会関係者や信者であれば大聖堂教会の場所くらい知っているだろうし、何よりあの格好半裸で女神フレイレル様の前へ出ようなど考えもしないだろうーー不敬を通り越して死刑になるんじゃないだろうか?

「怪我してる様には見えなかったがなぁ……教会ねぇ~。でもよ、教会なら道が違うんじゃねぇか?」
「あのナリだぞ? 街の立派な教会になんか入れてくれやしねぇよ。ありゃ絶対貧民街のヤツだ、間違い無い!」

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ある横柄な上官を持った直属下士官の上官並びにその妻観察日記

karon
ファンタジー
色男で女性関係にだらしのない政略結婚なら最悪パターンといわれる上官が電撃結婚。それも十六歳の少女と。下士官ジャックはふとしたことからその少女と知り合い、思いもかけない顔を見る。そして徐々にトラブルの深みにはまっていくが気がついた時には遅かった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...