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168・カンダタSTYLE
しおりを挟む【カンダタ】とは?
ビキニパンツ一丁の裸に緑のブーツと手袋を着用し、頭から目出しマントをかぶるという格好で右手に斧を持ったマッチョなキャラクター。言わずと知れた某有名RPGに出てくる盗賊の親分である。
(お、俺はこんな格好で街を歩いていたのか……そりゃあ皆んなこっちを見る訳だ)
意図せず街中でカンダタSTYLEを披露していた事に気付いた俺は、今更ながら人目を避ける様に店の軒先を覆う天幕を支える柱に身を縮める。
不審な目で此方を見ている店主に俺はニカッと愛想笑い返しながらイソイソと被ったマントを外した。
(寝起きに急に連れ出されたから格好の事をすっかり忘れてたわ)
第三の食堂には冷暖房が完備しているのだが「タダじゃねぇんだぞ!」とウービンさんは店を閉める時には止めてしまうーー防犯上窓も開けられない。
その為、俺は比較的涼しい食糧庫近くに寝床を作る事と薄着(上半身裸とウルトが切り過ぎたズボン)で寝る事で暑い夜を切り抜けてきたのだーーまさかそれが仇になろうとは思わなかった!
(ーーカイルが急かすからだ! 今度会ったらひん剥いて同じ格好させてやる)
荷物の中にちゃとしたズボンも有るはずだが、こんな往来で着替えては益々目を引いてしまう。
取り敢えずマントを肩から羽織り直して前ボタンを留める事で筋肉を隠す。腰までしか無いマントの丈がまるで「ほ~ら、見てごらん?」の変質者の様だが……こっちにこの手の変質者が居ない事を祈ろう。
(さっさと食って、裏行って着替えよう……)
ーーゴホンッ さてさて、これはかなり大きな串肉だがどんな味かは予想が付かない。食えないって事は無いだろうが、沢山買って不味かったら大変だから取り敢えずの一本だ。
(見た目はゴツイ焼き鳥っぽいな、緑色のタレが気になるけど……)
未だ不審者に警戒の目を向ける店主の前で、俺は他意は無いと示す様にガブリと勢い良く串肉に齧り付く。
ハグハグ、うん! 鳥モモ肉の様な弾力と豚肉みたいなジューシーな肉汁!
想像してたより美味いな、何の肉かは知らないがコイツは当たりだ! 懸念していた緑のタレは山葵の様な爽やかさが有り、肉の脂で塗れた口の中をサッパリさせてくれる。
「おじさん、美味いよこれ! 後10本ちょうだい!」
「お、おう、そうか? 今焼くからちょっと待ってな!」
絶賛したからか、はたまた追加で10本頼んだからなのか、店主の態度が少し緩んだ気がする。
この調子で不信感を排除する様、先に店主に金を渡し串肉の残りを咀嚼しながら肉が焼けるのを待つ。
「うちの串肉は他店とはタレが違うのよ、分かるか? 舌先にピリっとサッパリした酸味が広がるだろ? コイツはアボルガの実を砕いた物に……おーっと、これ以上は企業秘密だ」
他店との違いなど此処が初めての俺にはサッパリ分からないが、取り敢えずウンウンと愛想良く頷いておくーーどうやら店主は肉を焼きながら世間話をするぐらいには警戒心を解いてくれた様だーーチャンス到来!
「そうそうーーおじさん、これ何て書いてるか読める?」
シュババと店主との距離を詰めメモを広げる。この世界の誤字率がどれくらいかは分からないが、壁にメニューらしき物も貼ってある事だし、商売を営む店主であれば多分読めるだろう。
「ん~~?」
店主はメモを見ながら俺を一通りジロジロ眺めると不機嫌そうにメモを乱暴に突き返す。
「なんだお前、貧民街のヤツか! ほら、これ持ってさっさと行ってくれ!」
店主はまだ焼いている途中の串肉を紙袋へ詰め込み俺へと押しやるとプイッとそっぽを向いてしまった。
「と、と、と……何?ーー急に態度変わるじゃん!」
先程の打ち解けた態度は何処へやら、突然の店主の変わり様に面を食らう。
「お前らとは関わりたくないんだよ、早く行っちまえ!」
「いやいや、行くよ? 行くけどもーーその行き先を知りたいんだよ! 何て書いてあったかだけでも教えてよ。ほら、串肉だって沢山買ったろ?」
「……ッチ、教会だーーそこの裏通って暫く行ったら右へ曲がれ、そのうち赤い尖った屋根が見えてくる。貧民街にある教会はそこ一つだけだ」
吐き捨てる様に言った後、店主は顰めっ面でシッシッと俺に向けて手を払う。
「裏通って右ね……分かった、ありがと!」
急な塩対応が気になるが、腹拵えと行き先を聞くって言う当初の目的は果たしたので素直に俺は店を後にした。
それにしても貧民街か、良いイメージが全く湧かないんだが……。
「カイルの奴、一体俺をどんな場所に行かせる気なんだ?」
◇
「おい串屋よ、さっきの客は一体何だ?」
一部始終を見ていた隣の店主が串肉屋の店主を揶揄う様に聞いてきた。長屋である為、隣の出来事は大抵筒抜けなのだ。
「全く、朝一で変な客引いちまった」
「でも結構買って行ったんだろう? 羨ましい話じゃねぇか」
「そりゃまぁ……な。だが、格好も、挙動も、全部が怪しいったらありゃしねぇ! この金だってどっから持って来たんだか分かったもんじゃねぇや」
「いいじゃねぇの、真っ当だろうが無かろうが金は金だ。で、何聞いてきたんでぇ?」
「字が読めねぇのか、コレ読んでくれってメモ渡されたんだよ」
「ーー何て書いてあった?」
「ーー教会へ行け、それだけだ」
「へぇ、教会?」
ーー隣の店主は「はて?」と頭を捻る。平日の、しかもこんな早朝から教会に行くのは教会関係者と熱心な信者、後は金の持っている怪我人くらいなものだ。
教会関係者や信者であれば大聖堂教会の場所くらい知っているだろうし、何よりあの格好で女神フレイレル様の前へ出ようなど考えもしないだろうーー不敬を通り越して死刑になるんじゃないだろうか?
「怪我してる様には見えなかったがなぁ……教会ねぇ~。でもよ、教会なら道が違うんじゃねぇか?」
「あのナリだぞ? 街の立派な教会になんか入れてくれやしねぇよ。ありゃ絶対貧民街のヤツだ、間違い無い!」
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