157 / 286
157・応援到着
しおりを挟む「大丈夫だ、俺に考えがある!」
魔道具の可能性は大いに有るが、高性能になればなるだけその値は跳ね上がる。こんな所に来る奴が持つ道具とは思えない。それに、そんな魔道具を戦時中の帝国が国外へ出す訳がない。
「所詮王国に流れてくるのは劣化版か紛い物だ、二つの異なる魔法をほぼ同時に相殺する事は出来ないだろう」
「そうか、ならあの自信はハッタリって事か! 危うく騙される処だった」
(当たり前だ、ハッタリ以外にあってたまるか!)
瞬時に同量の魔力を相反する属性で放出する魔道具。それだけで十分凄い物だが、立て続けに別の魔法の対処まで出来るならそれはもうアーティファクト級だ。
「お前の氷結束縛に合わせて俺が火球を撃つ。躱せば餓鬼が焼け、防げばあの男がやられる。背後の奴等も状況は理解している、きっと直ぐに追撃してくれる筈だーーよし、いくぞ!」
「分かった、氷結ーー」
その時だ、背後から駆け付ける衛兵達の中から見慣れぬ一人の男が飛び出し掠れた大声で叫んだ!
「おい待て! 待ってくれ!」
次いで、仲間の衛兵達も口々に叫び出すのが聞こえてくる。
「ストッーープッ!」
「止めろ、撃つな!」
唯ならぬその声に、慌てて手のひらで熱くなった発動寸前の魔法をキャンセル、何事かと振り返る。
「ーー誰だアレは?」
駆け寄る衛兵達に混ざり、ゼェゼェと息を切らしながら先頭を走るのは年配の男性だ。軽装とはいえ、日頃訓練で鍛えている衛兵達と同じ速度で走って来くるとは只者では無い。
その男性は我々の前で立ち止まる事無く、そのまま横を駆け抜けて行く。
「お、おいっ! 貴様、何処へ行く!」
咄嗟に男性を止めようと振り向くとーー
「ーーななっ!?」
何と、直ぐ目の前にあの男の顔があったのだ! それも後数センチも無い距離だ!
思わずその場を飛び退き距離を取る、ワタワタと慌てて構える仕草は随分と不恰好に見えたに違い無い。
男は動揺激しい此方を一瞥すると男性を追って戻っていった。
(ーーい、いつの間に?)
見れば男が居た足下にブレーキ跡がある、さっき振り向いた一瞬でこの距離を詰めたというのか!
恐ろしい速さだ、あのまま男と戦闘していたらどうなっていたのか考えると、収まりかけていた動悸がまた激しくなっていった。
◇
戻ってゆく男の背中を見ながら速まる鼓動を抑えていると、衛兵同士の口論らしきものが聞こえてくる。どうやら揉めているのは俺と共に居た新入りと班のリーダーだ。
「ーー犯人は別の奴だ、今日は帰るぞ」
「何だって今更! じゃあ他の餓鬼共は? 夫人には何と報告を?」
新入りがリーダーに食ってかかる。
「餓鬼共はもう放した、夫人にはこれから報告する」
「餓鬼共を放した!? 冗談じゃ無い、これじゃあ苦労した甲斐が無い!」
それはそうだろう、あれだけ走り回ったんだ「はい、お終い」では俺も納得がいかない。
「何故いつもの様に犯人をでっち上げ無いんだ?」
途端、リーダーは新入りの頭を片手で掴んで乱暴に胸元へと引き寄せる。そして低い声で脅す様に言った。
「おい、言葉には気を付けろ……」
耳元で凄まれた新入りはそれ以上文句を言う事は無かった。
「あの男性は緑燕亭って宿屋の主人でな……俺達と同じ元衛兵で、うちの上司とは顔見知りらしい。あの少女達は店の従業員で身元もはっきりしている。カーポレギアの連中とは偶々此処で出会しただけみたいだ。夫人の件とは関係無い」
気を取り直す様にリーダーが経緯を説明する。
宿屋の主人が買い物に行かせた従業員の帰りが遅いと探しに来たところ、貧民街の餓鬼と一緒に拘束されているのを見つけたらしい。
よくよく餓鬼共に話を聞けば、今回の事件は別の者が犯人で、俺達が追っていた少女を尋問しても夫人の財布の中身は取り戻せないだろうとーー。
(はぁ、仕方ないかーーこんな日もある)
確かに新入りが言う通り、適当に犯人をでっち上げて報告すれば「財布の中身は使っちまったらしいです」とかーーまぁ、何とでも誤魔化せただろうし、それなりの御礼も夫人からせしめる事が出来たかもしれない。
しかし、そのでっち上げる犯人が上司の顔見知り関係者ではそうはいかない。
「夫人への報告は俺が上手くやっておくから心配するな、さぁ帰るぞ!」
表通りへと通じる道へ向かい、俺達はぞろぞろと歩き出す。ふと見れば、屋根にあの時の餓鬼共が此方に向かって歯を剥いているのが見えた。
戯ける様に肩を大袈裟に竦め、道端に向かって唾を吐く。
俺の斜め前を不貞腐れながら歩いていた新入りは、餓鬼共を見るなり魔法をぶっ放そうとしている。
「やめとけ、やめとけ」
「しかし! このまま舐められっぱなしじゃーー」
激る新入りの肩に手を回し、俺は小声で囁いた。
「……まだあの男が見ている」
背後から突き刺す様な視線をずっと感じている。あの男はまだ警戒を解いてない。
(やはり、相当な修羅場を潜っているな……)
新入りも先程の男の踏み込みの速さを見ていたんだろう、直ぐに魔力を散らすとビクビクと背後を気にし出した。
(はぁ、後で慰めてやるか……)
新入りのメンタル管理も先輩の役目だ、酒の一杯でも奢って話して聞かせよう。
今回は『骨折り損のくたびれ儲け』ではあったが、運は良かった。
なにせ、あの男と戦う前に終わったんだからーーと。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる