筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

文字の大きさ
上 下
145 / 285

145・戦友

しおりを挟む

「ふん、騎士より余程似合ってるんじゃないか?」
「おっ? 来たんだギュスタン」

 周りの喧騒がひと段落した頃にギュスタン達が顔を出したーーこんな小汚い食堂に来るなんて意外だな。

「チッ、馴れ馴れしいぞ。お前如きがギュスタンに声を掛けるなど本来はーー」
「あっ、丁度良い! お前って収納魔法使いだよな? あそこのテーブル下げてきてくんない?」

「な、何だと!? お前、一体誰にーー」
「片付けなきゃお前らの席が無いから言ってるんだぜ、なぁ兄貴?」
「○×!△∃★¢!!」
「まぁまぁ、一杯奢るからさ(ウービンさんが)」

 顔を真っ赤にしたサイラスはドカドカと足音を立てながらもテーブルを片付けに行った。

 「収納魔法じゃ無く空間魔法だ!」とかグチグチ言いながらもやってくれるんだから、根は良いヤツなんだよなーー多分。

 ギュスタンはカウンターで酔い潰れているウービンさんの横に座ると出されたコップにゆっくりと口を付けた。

「あっ、ギュスタン! 支援承諾してくれてありがとう、お陰でナルの義手を作ってくれる創作者クリエイターがもうすぐ見つかりそうなんだ!」
「あ、あ、あり、あり、ありがとうなんだもん……」

 厨房で皿洗いをしているヨイチョとナルがギュスタンにお礼を言った。

「ふん、礼などいらん。負けたのだからにだ」

 あの最後の決闘で獲得した名札四枚ーーそのお陰で俺達は及第点の150ポイントにギリギリ到達する事が出来た。それはギュスタンが俺との賭けに負ける事を意味する。

 ギュスタンは宣言通りナルの義手の支援を引き受けた、これで資金の面での心配は無くなった。

 しかし、あの決闘は本当に貴族の面子の為だけに再開したのだろうか? サイラスとヨイチョの戦いはまだ分かるが、その後の三人は不戦勝だ。
 こうなると、必死に戦ったヨイチョには悪いが、わざと負けたのではと勘繰ってしまう。

「なぁ、あの決闘を再開したのって、もしかしてーー」
 
 ギュスタンはコップに残った酒を一気に煽ると俺の質問を鼻で笑う。

「ふん、くだらん……」

ーーどうやら話す気は無いらしい。

「何だか変わったよね、ギュスタン達……」

 ヨイチョが周りに聞こえぬ様に小声で呟いた。確かに出会った当初の彼等はここまで友好的ではなかった。今でも表向きには尊大な態度を取ってはいるが、以前の彼等なら平民と同じカウンターになど座る事すら嫌がっただろう。

(あの戦いが、彼等にも何かしらの影響を与えたって事なんだろうな……)

 訓練では体験する事が出来ない本物の戦闘を経験したのだ、そして俺達は所謂いわゆるだからなーー少し距離が縮まったのかもしれない。

「ここは僕達が持つから、どんどん飲んでよ!」

 ギュスタンのコップが空いたのを見たヨイチョはヘルムが作った魚の燻製と酒が入った新しいコップカウンターへと並べてゆく。

「ほぉ? 勿論俺達の分もあるんだろうな?」

 テーブルを片付けて戻ってきたサイラスが下げた皿を収納魔法から取り出しながらヨイチョを睨みつけた。

「あはは、も、勿論だよ……」

「よしよし、今日は飲み明かすぞミード!」
「いいや、程々にだ。飲み過ぎるとアルバはすぐに吐くからな」
「クククッ、平民に奢られる日がくるとはな」

 それでは早速と、片付けたばかりのテーブルに飲み切れぬ程の酒やツマミを持ち込むアルバ他三名。



ーーヨイチョ、お金足りるんだろうか?




「だから、俺はお前達の可能性をだなーーおいっ! 聞いているのかオマエはーー」

 さっきまでの態度は何処へ行ったのやら、背骨が無くなったのかと思う程ぐにゃりとカウンターに突っ伏しながらも燻製に伸ばす手は止まらない。

 すっかりと出来上がったギュスタンは物凄い絡み酒だった……。

「ちょっと勘弁してよーー誰だよこんなになるまで呑ませたの?」
「ご、ごめん。でもまだ三杯目なんだけどね」

「えっ、三杯目でこれ? ギュスタン酒弱っ!!」 

 さっきまで、あれ程格好付けていたってのに……今じゃ自分からあの決闘の事を話し出す始末だーーしかもこれ3回目だぜ?

「良いから聞けぇっ、俺は平民の~~~」
「分かった! 分かったって! その話はもういいよ!」

 要約すると、ギュスタンは一緒に戦ったジョルクが平民にも関わらず有能だった事に気付いて『貴族主義』自体に疑問を持ってしまったという事らしい。
 で、自分じゃよく分からないから頭の良いサイラスに決闘を通して平民でも戦力となり得るのかを試してくれとーー。

「ーーで? 何でヨイチョを認めたんだ?」 

 酔ったギュスタンを心配したのか、カウンターへと移動してチビチビ飲んでるサイラスに尋ねる。

「チッ、別に認めた訳では無い。 只……まぁ、使え無くは無いかもしれぬと思っただけだ……」
「ーー使える?」

「……俺の様に戦略を考える役割を担うとな、色々と思うところがあったという事だ」

 戦場を泥沼化しての大幅な足止めに加え、手に付着した泥を硬質化する事により相手の魔法をも封じる事も出来るかもしれない、しかも攻撃魔法より魔力消費の少ない生活魔法でだーー新たな戦略として興味が湧いたというところか。

「だが自惚れるなよ? 俺の様に空間魔法を使えば簡単に逃れる事が出来るし、事前に分かっていればいくらでも対処可能なレベルの話だ」

 確かに魔法の相性や使い所は限定されてしまうだろうが、サポートとしては優秀だと思う。今回の訓練でヨイチョの生活魔法に大分助けられたのは事実だからな。

「しかしだ、それは我らが掲げる『貴族主義』が間違ってるという事では断じて無いからな!」
「サイラスの言う通り! 俺達貴族がもっと強くなれば良いだけの事! 俺は……強くなるぞ…………お前達平民の手など借りなくとも良い程にだーーだからっ! それを見せ付けるまではお前達には……特にお前っ、此処第三騎士団に居てもらうからな!」
「ーーお、俺?」

 急にギュスタンに名指しされ驚くーーそんなに気に入られる様な事したっけ?

「そうだ、お前だ。勝ち逃げなど許さん!」

 何だ、まだ決闘の事を引きずってんのか! そういや「ご自分を吹っ飛ばす程の威力に感服致しましたー!!」ってフォローすんの忘れてたわ……今からでも間に合うかな?

「いやいや、ほらっ、アレはギュスタンの爆破魔法の威力がさ、凄すぎてーー」
「ーー兄貴が逃げるなんてあり得ねぇし、ギュスタンに負ける事もあり得ねぇなぁ!」

 馬っ鹿、ジョルクお前!? あんまり挑発するなよ、毒や謎の事故で死ぬかもしれないだろ!

「ふんっ、どうだかな? 兎に角、いずれ時期を見て再戦を申し込むつもりだーーそれまでここから逃すつもりは無いからな!」
「はぁ……分かったよ。俺だって此処以外に行く宛なんて無いんだ、言われなくても居座るつもりーーって寝てんのかいっ!?」

 カウンターに突っ伏してイビキをかき始めたギュスタン、サイラスは大きな溜息を吐くとテーブルで飲んでいる他の者達を呼び寄せると席を立った。

「……良いか、ギュスタンは必ずお前を倒すーー逃げるなよ?」

 ふらつくギュスタンを抱えながら出口の扉へと向かってゆくギュスタン分隊戦友達

 向こうにそう言う意図は無いのかもしれないが、何だか第三騎士団ここに居ろと言われた気がして嬉しかったーー俺は少しニヤけながら彼等の背中を見送った。







 ーー俺が宿舎から追い出されたのは、日も登りきらぬその日の明け方だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...