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145・戦友
しおりを挟む「ふん、騎士より余程似合ってるんじゃないか?」
「おっ? 来たんだギュスタン」
周りの喧騒がひと段落した頃にギュスタン達が顔を出したーーこんな小汚い食堂に来るなんて意外だな。
「チッ、馴れ馴れしいぞ。お前如きがギュスタンに声を掛けるなど本来はーー」
「あっ、丁度良い! お前って収納魔法使いだよな? あそこのテーブル下げてきてくんない?」
「な、何だと!? お前、一体誰にーー」
「片付けなきゃお前らの席が無いから言ってるんだぜ、なぁ兄貴?」
「○×!△∃★¢!!」
「まぁまぁ、一杯奢るからさ(ウービンさんが)」
顔を真っ赤にしたサイラスはドカドカと足音を立てながらもテーブルを片付けに行った。
「収納魔法じゃ無く空間魔法だ!」とかグチグチ言いながらもやってくれるんだから、根は良いヤツなんだよなーー多分。
ギュスタンはカウンターで酔い潰れているウービンさんの横に座ると出されたコップにゆっくりと口を付けた。
「あっ、ギュスタン! 支援承諾してくれてありがとう、お陰でナルの義手を作ってくれる創作者がもうすぐ見つかりそうなんだ!」
「あ、あ、あり、あり、ありがとうなんだもん……」
厨房で皿洗いをしているヨイチョとナルがギュスタンにお礼を言った。
「ふん、礼などいらん。負けたのだから仕方無しにだ」
あの最後の決闘で獲得した名札四枚ーーそのお陰で俺達は及第点の150ポイントにギリギリ到達する事が出来た。それはギュスタンが俺との賭けに負ける事を意味する。
ギュスタンは宣言通りナルの義手の支援を引き受けた、これで資金の面での心配は無くなった。
しかし、あの決闘は本当に貴族の面子の為だけに再開したのだろうか? サイラスとヨイチョの戦いはまだ分かるが、その後の三人は不戦勝だ。
こうなると、必死に戦ったヨイチョには悪いが、わざと負けたのではと勘繰ってしまう。
「なぁ、あの決闘を再開したのって、もしかしてーー」
ギュスタンはコップに残った酒を一気に煽ると俺の質問を鼻で笑う。
「ふん、くだらん……」
ーーどうやら話す気は無いらしい。
「何だか変わったよね、ギュスタン達……」
ヨイチョが周りに聞こえぬ様に小声で呟いた。確かに出会った当初の彼等はここまで友好的ではなかった。今でも表向きには尊大な態度を取ってはいるが、以前の彼等なら平民と同じカウンターになど座る事すら嫌がっただろう。
(あの戦いが、彼等にも何かしらの影響を与えたって事なんだろうな……)
訓練では体験する事が出来ない本物の戦闘を経験したのだ、そして俺達は所謂戦友だからなーー少し距離が縮まったのかもしれない。
「ここは僕達が持つから、どんどん飲んでよ!」
ギュスタンのコップが空いたのを見たヨイチョはヘルムが作った魚の燻製と酒が入った新しいコップカウンターへと並べてゆく。
「ほぉ? 勿論俺達の分もあるんだろうな?」
テーブルを片付けて戻ってきたサイラスが下げた皿を収納魔法から取り出しながらヨイチョを睨みつけた。
「あはは、も、勿論だよ……」
「よしよし、今日は飲み明かすぞミード!」
「いいや、程々にだ。飲み過ぎるとアルバはすぐに吐くからな」
「クククッ、平民に奢られる日がくるとはな」
それでは早速と、片付けたばかりのテーブルに飲み切れぬ程の酒やツマミを持ち込むアルバ他三名。
ーーヨイチョ、お金足りるんだろうか?
◇
「だから、俺はお前達の可能性をだなーーおいっ! 聞いているのかオマエはーー」
さっきまでの態度は何処へ行ったのやら、背骨が無くなったのかと思う程ぐにゃりとカウンターに突っ伏しながらも燻製に伸ばす手は止まらない。
すっかりと出来上がったギュスタンは物凄い絡み酒だった……。
「ちょっと勘弁してよーー誰だよこんなになるまで呑ませたの?」
「ご、ごめん。でもまだ三杯目なんだけどね」
「えっ、三杯目でこれ? ギュスタン酒弱っ!!」
さっきまで、あれ程格好付けていたってのに……今じゃ自分からあの決闘の事を話し出す始末だーーしかもこれ3回目だぜ?
「良いから聞けぇっ、俺は平民の~~~」
「分かった! 分かったって! その話はもういいよ!」
要約すると、ギュスタンは一緒に戦ったジョルクが平民にも関わらず有能だった事に気付いて『貴族主義』自体に疑問を持ってしまったという事らしい。
で、自分じゃよく分からないから頭の良いサイラスに決闘を通して平民でも戦力となり得るのかを試してくれとーー。
「ーーで? 何でヨイチョを認めたんだ?」
酔ったギュスタンを心配したのか、カウンターへと移動してチビチビ飲んでるサイラスに尋ねる。
「チッ、別に認めた訳では無い。 只……まぁ、使え無くは無いかもしれぬと思っただけだ……」
「ーー使える?」
「……俺の様に戦略を考える役割を担うとな、色々と思うところがあったという事だ」
戦場を泥沼化しての大幅な足止めに加え、手に付着した泥を硬質化する事により相手の魔法をも封じる事も出来るかもしれない、しかも攻撃魔法より魔力消費の少ない生活魔法でだーー新たな戦略として興味が湧いたというところか。
「だが自惚れるなよ? 俺の様に空間魔法を使えば簡単に逃れる事が出来るし、事前に分かっていればいくらでも対処可能なレベルの話だ」
確かに魔法の相性や使い所は限定されてしまうだろうが、サポートとしては優秀だと思う。今回の訓練でヨイチョの生活魔法に大分助けられたのは事実だからな。
「しかしだ、それは我らが掲げる『貴族主義』が間違ってるという事では断じて無いからな!」
「サイラスの言う通り! 俺達がもっと強くなれば良いだけの事! 俺は……強くなるぞ…………お前達の手など借りなくとも良い程にだーーだからっ! それを見せ付けるまではお前達には……特にお前っ、此処に居てもらうからな!」
「ーーお、俺?」
急にギュスタンに名指しされ驚くーーそんなに気に入られる様な事したっけ?
「そうだ、お前だ。勝ち逃げなど許さん!」
何だ、まだ決闘の事を引きずってんのか! そういや「ご自分を吹っ飛ばす程の威力に感服致しましたー!!」ってフォローすんの忘れてたわ……今からでも間に合うかな?
「いやいや、ほらっ、アレはギュスタンの爆破魔法の威力がさ、凄すぎてーー」
「ーー兄貴が逃げるなんてあり得ねぇし、ギュスタンに負ける事もあり得ねぇなぁ!」
馬っ鹿、ジョルクお前!? あんまり挑発するなよ、毒や謎の事故で死ぬかもしれないだろ!
「ふんっ、どうだかな? 兎に角、いずれ時期を見て再戦を申し込むつもりだーーそれまでここから逃すつもりは無いからな!」
「はぁ……分かったよ。俺だって此処以外に行く宛なんて無いんだ、言われなくても居座るつもりーーって寝てんのかいっ!?」
カウンターに突っ伏してイビキをかき始めたギュスタン、サイラスは大きな溜息を吐くとテーブルで飲んでいる他の者達を呼び寄せると席を立った。
「……良いか、ギュスタンは必ずお前を倒すーー逃げるなよ?」
ふらつくギュスタンを抱えながら出口の扉へと向かってゆくギュスタン分隊。
向こうにそう言う意図は無いのかもしれないが、何だか第三騎士団に居ろと言われた気がして嬉しかったーー俺は少しニヤけながら彼等の背中を見送った。
ーー俺が宿舎から追い出されたのは、日も登りきらぬその日の明け方だった。
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