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138・反則
しおりを挟む「う、腕輪? そういえばーーあの時……」
背中に冷たい汗が流れる、それだけではないーー脇からも首元からも、ダラダラと流れる大量の汗は腰に巻いたマントをベタベタと濡らしその色を深めた。
(ナルを助けに行く時にギュスタンとジョルクの腕輪を外したのは俺だーーそして、自分の腕輪も……)
ーー無効になったのは俺の所為だった。
最初は只の言い掛かりかと思っていたが、言われてみれば尤もだ。
衰退の腕輪を装備した者と、装備していない者では魔力の威力に段違いの差が出るーードーピングして試合をする様なものだ、反則と言われても仕方がない。
「あ、あはは……はぁ・・・どうりでジョルクの魔法、威力が高過ぎると思ったんだ……」
ヨイチョがガックリと項垂れながら言った。
詠唱の速さは努力(?)の結果だが、腕輪を嵌めたジョルク一人では橋を崩落させる程の攻撃力は無かった筈だ。
ヘルムはその事を分かっていた為、手を抜くなと言う意味で「崩落させる勢いでやれ」と言ったのだろうーー実際に橋を落とした時にはヘルムも驚いていたからな。
「理解したか? よって、ジョルク分隊の拠点占拠は無効、イリス分隊が引き続き占拠継続となる」
「ちょ、ちょっと待って下さい。 占拠無効は仕方ないとして、エリア到達ポイントは貰えるですよね?」
ヨイチョは慌ててオランに聞くーーそうだ、拠点エリアには俺とヘルムの二人が入ってる。このポイントがあればギリギリ及第点、ギュスタンとの賭けにも勝ち支援を受ける事が出来る!
「いやいや、腕輪して無いんだから当然そっちも無効だろう」
「そ、そんな……」
「マジかよ! 俺達頑張ったんだぜ、なぁ!」
試験官にはっきりした不正の証拠を突きつけられたこの状況、例えわざとじゃ無かったとしても諦め観念するのが普通だがーー此処で引き退らないのがウチの分隊の頭脳であるヘルムだ。
「ーー意義あり! 確かに拠点を落とす決定打となるあの戦闘を担った彼は衰退の腕輪を装備していませんでした……しかしその際、彼は一切の魔法を使用してません。つまり最後の戦闘に関して言えば、衰退の腕輪の装備云々は関係無いのです!」
「う~ん、確かにあれは魔法とは言え無かったかもしれないが……しかしなぁーー」
そうだ、ヘルムの言う通り、確かにあの時、俺は魔法なんて使ってない。使ったのは己が鍛え上げた肉体だけだ。
「それに、エリアへの侵入に使った照明はそこのヨイチョの魔法です。彼はちゃんと腕輪を装備しているので反則ではありません」
「いや、でもジョルク分隊長が攻撃魔法を使用していたのはちゃんと確認ーー」
「ーーいいえ、ジョルクが関わったのは橋を崩落させた事のみです!ーーですから、その橋を落としたペナルティーを相手方に課するのは諦めましょう」
「諦めましょうって、お前なぁーー」
すげぇ、ハゲ試験官が押されてるぞーー明かに此方が悪いってのにヘルムの屁理屈が止まらない!
まるで某掲示板を作った人が乗り移ったかの様だ、もうすぐ「それって貴方の感想ですよね?」とか言い出しそうだ。
「いや、やはり反則は反則だ…………しかしこの場合は、う~~~む?」
まさかここまで理論立てて反論されると思っていなかったのか、ハゲは悩み出した。ヘルムの主張は多少乱暴ではあるが嘘は言って無い。
「そもそもですよーー何故、腕輪を外す羽目になったのかはご存知ですか? 知らない訳は無いですよね、アレだけの大事件です。ビエル団長から通達がなされて無い訳がありません」
「ーージョルク分隊!……そうか、お前達がーー」
ヘルムの言葉に思い当たる事があったのかーーハゲは急に声を顰めると、頭を寄せ囁くように言った。
「あの件はまだ調査中なんだ。後ほどお前達にも正式に通達が来るだろうが、上の判断があるまでは箝口令が敷かれる手筈だ。あまり大きな声で言って欲しくない……分かるな?」
他国が絡んでる事だ、下手に騒がれては困るんだろう。しかも、パカレー共和国は一応友好国らしいからな……俺にとっては嫌な感情しか無い国だけど。
しかし、ヘルムは相手の都合など知らんとばかりに声を張り上げる。
「はっきり言って、あのパカレー軍とのイザコザは貴方方正騎士の管理不足が招いた結果ですよ! 貴方方が訓練中の安全確保を怠ったお陰で我々が被害にあったのですから! つまり、我々は被害者です!」
「お、お前っ、そんな大きな声で!? 誰かに聞かれたらどうするんだ!」
「つまり、私が言いたいのは、腕輪が外れたのは事故みたいなものであると考えられませんか?」
事故? まぁ、確かに事故っちゃ事故か? パカレーとの戦闘なんて想定外もいいとこだし、外さなきゃナルを助けられなかったのは確かだ。
「ば、馬鹿な、自分で外しておきながら事故だなんてーーそんな言い訳通じるか!」
全く引く気の無いヘルムと妙な前例を作りたく無いハゲ。泥沼の争いになるかと思われたその時ーー二人の間に高く澄んだ、それでいてしっかりと芯の通った女性の声が割って入る。
「私達はそれでも構わないですよ? 多少の条件は付けさせて貰いますけどーー」
声の主は、先程までの俺達の相手ーーイリスだった。
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