筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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126・最後の分隊

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「もう一度確認するけどーー拠点に到達ってのは、あのエリアに入ればいいんだな?」

 俺は堀に囲まれた一帯を指差し皆に確認する。
 堀の周りこそ少し小高くなってはいるが、入ってしまえば何の起伏も無い平坦な草原だ。

「その様ですね、あの見張り台が有る建物が拠点なのでしょうーー王国旗が立ってますから」
「前回は洞窟の中だったから、それよりは攻略し易いんじゃないかな?」
「そうそう、あの時は違う洞窟に入っちまったんだよなぁ!」

(毎回同じ場所でやってる訳じゃ無いのか……)
 
 まぁ、それもそうかーー毎回同じ場所だったら効率の良いルートに人が殺到して本来の訓練にそぐわない結果になるんだろう、タイムアタック的な……。

 で、今回は堀を越えた向こう側一帯が拠点エリアって事ね、見張り台が有るあの建物に入らなくても良いのは助かるな。
 因みに一位条件の「拠点の制圧・占拠」する為には、相手の分隊長、もしくは全員を倒すーーもしくは拠点である建物から追い出して文字通り建物を試験終了時まで占拠する事が必要だ。
 今の俺たちの戦力ではとても無理そうだからやらないけど。

「あそこへ行くだけなら何とかなりそうじゃん!」

 別に無理してまで、あの未来視出来ると言うチート分隊とやり合う必要は無い。こっちは端っこの方に少しお邪魔させて貰うだけでいいのだ。

「残念ですが、そう簡単にはいきませんよーージョルク?」
「あぁ、もうこの辺りには俺達しか居ないなぁ」
「あはは、多分、僕らが拠点攻略最後の分隊って事かな」

 そうか、俺達が最後か……時間ギリギリだしそれは仕方無い。あわよくば先程のヒース達みたいに他の分隊と連携ーーもしくはそいつらの戦いに乗じて拠点へと乗り込む手段は使えないって事か。

「それだけじゃありません、相手はあのイリスです。こちらが何処からどうやって来るかぐらい『先見の目』で既に分かってる筈です。黙って到着を許す様な人では有りませんよ」
「でもさ、別に俺達は攻略しようってつもりは無いんだぜ? ちょこっとお邪魔するくらい目を瞑ってくれないもんかね?」
「あはは、それなら良いんだけどーー彼女は容赦しない性格らしいから……」

 全力で兎を狩る獅子スタイルなのか、下手したでに出ていって交渉って手も考えてたけど無理かな? 無理だろうな……。
 それにしても、彼女がそんな性格だって知ってるのに良くあんな事言えたなヨイチョ……。

「絶対、キャーキャー逃げたりしないタイプじゃん」
「いやいや、普段気が強い娘の方が意外とそういうの露出に弱かったりしない?」

 いや、知らんわ!? 何それ、ヨイチョの願望? ってか妄想? そんな不確かな情報で拠点取れるかもとか言ってたのかよ!

ーーいや、違うか。

 きっと、ヨイチョは乗り気じゃ無いヘルムのやる気を上げる為、さも簡単に拠点が落とせそうに言ったんだ。
 その証拠に、拠点を見るヨイチョの目はやる気に満ちているーーあの諦めきった訓練始めの頃とは大違いだ。

 ヘルムをチラリと見ると、何時もの戦略模擬板を広げ駒の配置を試行錯誤している。来てしまったのなら仕方がないって感じなんだろうか? その表情に悲観的な所は見えない。

「ーー恐らくイリスは拠点から出て直接我々を叩きに来るでしょう、人数的にも戦力的にも圧倒しているなら、待ちより攻めの方が手っ取り早いですからね」
「やっぱそうなるかーー俺達を倒せば実質、この訓練も終わった様なものだし……」

 他に拠点攻略する分隊が居ないなら拠点の守りを堅める必要も無いって事ねーーしかも攻めて来る分隊は最下位の分隊だ、さっさと終わらせたいよね? 舐められてるなぁ……。

「なぁ、その『先見の目』ってのは、どれ位先の未来を見通せるんだ?」

 未来視、こちらの行動が読まれるのはかなりの不利だが、強力なスキルにはそれなりの制約が有ると相場が決まっている。見える未来は1日先なのか、それとも1時間先なのかーーそれによっては付け入る隙がきっとある筈だ。

「どれくらい先まで見えるのかは分かりませんが……恐らくは其れ程万能な能力では無いと私は考えます」
「そうだね、イリス分隊はものね」
 
 いつも一位では無いって事は、負ける事もあるって事か……やはり何処かに付け入る隙があるって事だ。

(あの分隊が負けた時の動画でも見れたなら攻略法も解明出来るんだけどなぁ)

「なぁ兄貴……例えば、見えた先が負けた未来ならどうすんだ?」
「はぁ? それを回避する為の未来視なんだろ……勝ってる未来しか無いならわざわざ見る必要も無いだろうが」

 負けた原因を取り除き勝利を確実に出来るのが未来視の強みだろうにーー。

「……いや、待ってください。ジョルクが言ってるのは多分ーーゲームで言う詰み状態の事ですよね?」
「それだヘルム! 多分それっ!」
「あはっ、そう言う事か! その時は諦めるしかないんじゃないかな?」

 あぁそうか、いくら未来視出来るからと言ってリスタートが出来る訳じゃ無い。将棋で言えば王手が掛かった状態から未来を見る様な物だーー負ける結果は変わらない。

 例えば5秒後に世界が大爆発する未来が見えたとしても回避は無理だろう? って話だ。

「ーー面白いけど、イリスがどれほど先の未来まで見えるかによるよね……」

 『先見の目』の詳細はイリス本人が語りたがらない為、誰にも分からないとの事。そりゃそうだ、自分の能力を他人にペラペラ喋るヤツは居ないだろうからな。

「…………先程の戦闘を見ていて幾つか気づいた事が有ります。恐らくイリスの『先見の目』は精々3分程度……多くても10分ってとこでしょう」
「え、そんな事分かるの? ヘルム凄いじゃん!」

 あくまで予想ですが……とヘルムは爪を噛む。

「ーー詰みの未来、どうしようも無い未来ですか…………少し思い付いた事があります。詳細を詰めますので少し時間を下さい」
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