筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

文字の大きさ
上 下
99 / 286

99・二次関数

しおりを挟む

 ーー巧遅拙速こうちせっそく! 

 俺がよだれ地帯を三歩で飛び抜けナルから人形を奪うのを見るや否や、ヨイチョは直ぐに水球ウォーターボールを解除する。

 ナルはまるで操り人形の糸が切れる様にその場にガクンと膝から崩れ落ちた。

 「ナルっ! 聞こえるかい? 僕だ、ヨイチョだよ!」

 急ぎ駆けつけたヨイチョはナルを起こすと背中を摩り水を吐き出させる。

「ーーげぼっごほっ…………うぅ……」

 俺の迅速な行動が功を奏したのか、ナルは肺に少し水が入った程度で済んだ様だ。

(きっと幅跳びじゃ届かなかった……流石三段跳び、学生時代に授業で習っておいて良かった……)

 あの頃は「こんな変な飛び方、将来何に使えるんだよ! 陸上選手になる訳でも無いのにっ!」と辟易していたが……全く、世の中何が役に立つか分からないものである。

 例えば、俺の苦手だった数学の「二次関数」ーー俺の人生には一切必要なさげなものであったが……実は魔法を撃つ時の演算に必要なスキルだと判明した。

 カイルが俺に魔法の説明していた時に書いた図が、二次関数のグラフそのものだった時は驚いたものだ。
 二次関数のグラフは放物線を現している。つまり空中を動くものには常にこの放物線の理論が当てはまるらしいーー放出系の魔法然りだ。
 そういえば、大砲の砲弾の動きを計算する際に、この二次関数が研究されたとか数学の先生が言ってたような……。

 兎に角、「こんなチャラい奴が二次関数をサラッと出来るとか腹立つわー」と軽く殺意が芽生えたのと共に、魔法の勉強が俺の想像していたものよりも現実的リアルだった事にガッカリしたのを覚えてるーーもっとファンタジー的なノリだと思ってたのに……。

 まぁつまり、どんな事でも学べる時に学んでおいた方が良いって事だ。
 将来何が必要になるかは、その時になってみなきゃ分からないのだからーー。



 さて、人形マペットは倒したが、まだナルの意識はハッキリしないーーまぁ、あれだけの魔力を消費したのだ、魔力枯渇症状が出て意識が混濁していてもおかしくない……あと、寸前まで溺れてたしな、元気な方がおかしい。

 ヨイチョは洗脳が解けてないのではと酷く心配している様だが、もし解けて無かったとしても大丈夫! 
 俺の頭の中には既に「ナル洗脳解除トレーニングメニュー」が構築されているーー何も心配は要らない。

「ヨイチョ! 取り敢えず集落を出よう、外にはジョルク達も居る。合流してなるべく速くナルをヘルムの所へ連れて行こうーーそれに」

 俺は先程と変わらない光を放つ雷球が浮かぶ空を見上げて言った。

「ナルの魔法が消えない……落ちて来る前に遠くに避難した方が良い気がする……」




 先程ナルを追いかけて学校の敷地程の広さがあるこの村内を走り回ったのだが、集落にしては人の気配が極端に少なかった。押し入った民家の殆どがもぬけの殻で生活感は皆無だったしーー恐らく、ここにはもう先程見た少数のパカレー兵くらいしか居ないのであろう。
 以前の住人がどうなったかのかは考えるまでも無いーー。

 そして、その少数のパカレー兵達は今、ジョルク達が居る集落正門付近を堅めている筈だ!

「正門じゃなく裏門を探してみよう、何処かにあると思うんだーー」

 ーーヨイチョの提案で俺達は正門と反対側、倉庫に程近い壁を隈無く捜索したが裏門らしき物は見当たらなかった。辺鄙な場所にある集落だ、守る門を一つに絞る事で利便性よりも高い警備力を求めたのかも知れない。

「ご、ごめんーーまさか裏門が無いなんて……急いで正門の方へ戻ろう!」
「いや、どうせ正門はパカレー兵だらけで抜ける事は難しいと思うーー大丈夫だ、今からそこの壁を壊すから少し下がっててくれ」

「ーー壁を……壊す? 待って! ここの壁は何重にも防御魔法が付与されていて簡単にはーー」

 俺は背負っていたナルをゴチャゴチャ言ってるヨイチョへ預けると壁に向かって思い切り蹴りを入れる。

「ふんっ!!」

ーードカッツ バキバキッ!!

 何重にも付与された防御魔法? 俺に取ってはただの板切れだ、踏み抜くのは雑作もない。
 両手で壁の隙間を広げながら集落の外へ出ると俺は素早く辺りを見回し見張りの兵が居ないかを確認する。

「良いぞ! ヨイチョ、周りに人は居ない!」
 
 集落の裏側には開拓途中だったのか、所々伐採された大木があちこちに積まれ、そのまま放置されていた。
 人の手が入らぬまま数ヶ月は経過しているのか、倒木の表面には苔やキノコが生い茂り、耕した畑らしき場所も雑草だらけだーーそんな荒れた耕地の少し先には深い森が広がっている。

「おっ、あの森の中を移動すればパカレー兵に見つからずに正門辺りまで行けるな」

 小柄なナルを背負った移動など俺にしてみれば大した負荷では無いのだが、バーベルと違って乱暴には扱えない分どうしたって移動速度は落ちる。
 勿論、俺はバーベルだって普段は乱暴には扱わないけどね!

「……何でこんな簡単に壁を壊せるのか謎なんだけどーー」

 ナルを背負いヨロヨロと壁の隙間から出てきたヨイチョが壁の穴を眺めながら呆れた様に呟いた。

「そりゃあ、俺が魔法無効レジスト持ちだからさ」

「……君の中の常識がどうなってるか分からないけれどーー例え防御魔法が付与されていなくても、壁を蹴り壊す事なんて普通は出来ないからね?」

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...