筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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77・言い訳

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「ーーで、命令無視して遠出した挙句、勝手に戦闘、しかもボロボロにやられて女一人攫い連れ帰って来たと……そういう事か?」

 集落で一番大きな村長宅ーーと言っても平屋ひらやで質素な邸宅の一番奥の部屋。元々あったであろう家具は全て取り払われ、今は無骨で大きな机が一つと数脚の椅子しか無い執務室。
 そこでパカレー軍第六工兵部隊長のネルビスは見慣れぬ女性を引き連れた見慣れた男の報告……もとい言い訳を聞いていた。

「まぁ、街の方ばっかり偵察するのも飽きたーーじゃなくて、偶には背後に気を遣った方が良いかと思ってよぉ?」
「そうそう! そしたらビンゴっ! 敵兵獲物が居たんだよね、凄いでしょ! 凄いよね?」
「デキルオトコ! スゴイ! オトコ?」

「…………ふざけるなっ! お前達の任務は拠点の護衛だろうがっ! 勝手に遠出などして、もしその間に帝国の襲撃があったらどうするつもりだったんだ? ーーいいか、今回の事は傭兵ギルドにきっちり報告しておくぞ……それなりの金は渡してるんだ、仕事はしっかりやって欲しいものだな!」

 ゾレイとネビロスーー彼らはパカレー軍の正規兵では無い、傭兵ギルドから派遣された傭兵達だ。ネルビス率いる工兵部隊は、本隊に先行して足掛かりとなる拠点を作る事が任務である。土木作業が主である工兵部隊には攻撃魔法士が少ない為、護衛として傭兵を雇っているのだ。

 「捨て駒に近い最前線に派遣するのは、金でどうとでもなる傭兵で良かろう」との上層部の決定に文句は無いが、せめて人選は厳選して欲しいものだとネルビスは内心溜息を吐く。
 
「待てよ、そりゃないぜ! そりゃ、ちーっとは命令よりも遠くにいっちまったけどよぉ? ほら、ちゃんと仕事はしてきただろう?」
「そうだよ! 僕らが見つけなきゃいずれここがコイツらにバレちゃってたかもしれなかったんだよ、これって護衛任務の内に入るんじゃない?」
「テキ! ソウキ! ハッケン!」

 傭兵は腕がある分一般犯罪者からなる囚人部隊よりはマシなのだが、なにせ人格に癖がある者が多すぎる。特に今回傭兵ギルドから派遣されたこのゾレイとネビロスは戦闘狂でその残忍さには軍人であるネルビスも引く程だ。この村を制圧する時に四十人近い村人を殺害したのもほぼこの二人である。

「それに気になる情報だってちゃーんと持って来たんだぜ?」
「……情報だとーー何だ? 言ってみろ」

「連中、自分達の事をだって言ってやがったんだ。おかしいだろう? 帝国の野郎が貴族なんてよ!」
「……そうだな、お前達が意気揚々と攫って来たその女は確かに帝国の人間では無さそうだ。ーー気付かなかったのか? その女の着ている軽鎧の刻印……それはサーシゥ王国の紋章だ」

「あ? マジかよーーサーシゥ王国の鎧は青で統一されてた筈だろ? こいつらは黒だぜ?」
「そうだよ、それにここは帝国領でしょっ? 王国の兵が国境をどうやって越えたっての?」
「オカシイ! フシギ! ドウヤッテ!」

 ゾレイ達が知らなかったのも無理は無い、実践に駆り出される事の無い騎士団見習いが着用する黒い軽鎧の事など他国の兵が知る訳も無いのだから。

「ーーそんな事は知らん、だが間違いなくその女は王国の兵だーー」

 実はネルビスには思い当たる事があったーー個人の保有魔力が比較的少ない獣人や亜人達が多く暮らすナルボヌ帝国では魔法の代わりに魔道具が発達している。

 彼らは様々な魔道具の力を借りなければ生きていけない貧弱で穢れた者達なのだが、この村を制圧する時に最後まで抵抗していた村長らしき隻腕の男が使う魔法は見事なものだったし、魔道具らしき物も使っていなかった。
 更に、村人の中には獣人や亜人は一人も居らずネルビスは自軍が本当に帝国領へと進軍しているのか困惑したものだ。

 だが、生粋の軍人であるネルビスには上層部へ意を唱える事は出来ない、只粛々と任務を全うする事がネルビスの使命なのだから。

「じゃぁ、僕達が殺ったのはサーシゥ王国のやつらだって事? うける!」
「ーー大した魔力も無ぇし、魔道具みたいな腕輪してたから当たりだと思ったんだけどなぁ」
「ーーその腕輪の事か? デザインは我が共和国と異なる様だが魔力抑制の魔道具みたいだな……兎に角、お前達が面白半分に殺してくれたのは帝国じゃなく王国の兵士だったってわけだ……全く、やってくれたなっ!」

「だけどよぉーー」

ーーダァンッ!! 

「ーーいいか、これは国際問題だぞ……」
「……………」
「……………」
 
 ネルビスが拳を思い切り机に叩き付けるのを見たゾレイは両手を上げ、言い掛けた言葉を飲み込む。赤くなった拳を摩りながらネルビスは椅子をクルリと回転させ、背後の壁に掲げた紅きライオンの紋章旗をジッと見つめ考える。

 今回の戦争、何も相手の領地を奪う事が目的では無い。魔力が少ない穢れた者達を大陸から駆逐する思想、信仰からくる所謂いわゆる「聖戦」である。

 ナルボヌ帝国との開戦前に、同じ思想を持つサーシゥ王国に共闘を打診した事は軍事関係者なら周知の事実だ。その時は中立の立場を示した王国ではあるが、交渉は今も水面下で行われていると聞いている。
 つまりこのタイミングでサーシゥ王国とのトラブルは絶対に避けなければならない!

「……逃げ帰って来たと言う事は他にもお前達二人の存在を知っている者が居ると言う事か……」
「あ? あぁ……あの場に居たのは確か6人だな」

「ーーならば仕方ない、今王国側とのトラブルは不味い……そのサーシゥ王国の兵士達の所へ行く、お前達も腹を決めろっ」
「ーーえっまさか謝るの!? ってかさ、……この人形人質も返さなきゃ……駄目って事?」
「イヤダヨー! コレハ! カエサナイヨ!」

(あ~こりゃ不味いかも知れねぇな)

 このネルビスと言う男、国の為であれば如何なる犠牲も問わない愛国者である。ましてやゾレイ達は自軍の兵では無く所詮雇われの身だ、例え居なくなっても共和国的には痛くも痒くもない。
 恐らくネルビスは「傭兵が命令無視して勝手にやった」と、自分達を向こうへ引き渡すつもりだろう……。

ーーまぁ、その通りではあるんだが……。

「……しくじったのは俺達だからな、仕方無ぇ。けどよ、あっちに引き渡された後逃げちまうのは良いんだろう? ならせめて逃げ易い様に縄は緩めで頼むわ」

 ゾレイ達の言葉を聞いたネルビスは怪訝そうに振り返る。

「ーー謝る? 一体何を言っている? 我々が向かうのは全てをだ、その為には一人の目撃者も残す訳にはいかんだろう?」
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