筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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75・被害報告

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「う~ん……これはちょっと、私だけじゃ手に負えないかも」

 救難信号を受けて駆け付けたクリミアはヘルムからの現場報告を受け考え込む。

 謎の襲撃者により見習い団員の三名が死亡、その他負傷者多数。その上一人が攫われ、それを奪還する為に現在三名が追跡中ーーどれをとっても重大事故である。

 王国直轄である騎士団の訓練は厳しい。時に運悪く赤熊や大猪に遭遇してしまったり、崖からの滑落など、例え見習いの訓練であっても死者は毎年一定数存在する。
 しかしそれが他者からの襲撃によるものなんてのは前代未聞である。
 一体誰が何の目的で騎士団を襲撃するのか? 見習い達はまだ経験が浅い上に衰退の腕輪のせいでまともな戦闘が行える状態では無い。それなのにそんな詳細不明な襲撃者を追跡するだなんて危険過ぎる! しかも追跡には彼も参加していると……。

(もうっ! まだ禄に魔法も発動出来ないクセに!)

 思えば最初に出会った時もそうだったーーあの時は魔法はおろか言葉すら分からないのに彼はパカレー軍に突っ込んで行ったのだった。それも一度逃げたのにわざわざ戻って来てまで……。
 無謀な彼の命が今もあるのは大猪が乱入してきたおかげだ、幸運だったとしか言いようがない。

 彼を一方的に弟扱いしているクリミアとしては今すぐ追いかけたい気持ちで一杯だが、正騎士としてこの場も放ってはおけない。

「いい? 私にどーーんと任せとけば大丈夫だからねっ! 怪我している人はそのままジュババッと治療を続けてね! え~と、そこの君達は亡くなった団員の名札をわーっと回収してきてくれるかな?」

 見習い達を安心させる為にクリミアは出来るだけ明るく元気に指示を出す。そして指示通り動き出した彼等を確認するとコッソリ後を向き、緊急用に持たされた通信魔道具を取り出した。

『クリミアかーー何があった?』
「ビ、ビエル団長、大変ですっ! 見習いの子達が誰かにガーっとやられちゃって、そのうち一人がワーっと攫われましたっ! それを彼がビューンって追って行っちゃったみたいなんですっ!」

 見習い達に動揺させない様にとコッソリ通信する筈が、話してるうちに徐々に声が大きくなり周りには丸聞こえである。

「……クリミアさん、だいぶ焦ってるな」
「そりゃそうだろう? クックッこの惨状だ」
「あ、焦ってる姿も可愛いな!」
「……貴方、治ったなら退いて下さいよ。怪我人はまだ他にもいるんですから」

 慌てるクリミアを見ないふりをする気遣いが出来る程度には、見習い達も落ち着きを取り戻していた。


『……落ちつけクリミア、情報は正確にと日頃から教えているだろう。お前の報告は擬音が多すぎる』
「は、はいっ! すいません……でも、でもっ彼が襲撃してきた人を追って行ったって!」

『ーーつまり、何者かに襲われたと言う事か? で、彼がそれを追っていったと?』
「そうです、そうです! すぐに誰か他の人を此処に寄越して下さいっ! そしたら私が彼をぎゅーんって追いかけますからっ!」

『ーー分かった、直ぐに手配する。それでそちらの被害状況は?』
「……え? えっと、それが………」

『クリミア? どうした、被害状況はどうなってる?』
「……負傷者多数……あと、その……三人の死亡を確認しました……」

ーーッバキン!!

「ーーーっ!?」

 何かを砕く様な音と共に、魔道具越しなのに膨れ上がる冷たい魔力を感じたクリミアは思わず魔道具から耳を離す。
 暫くの無言の後、魔道具から聞こえてきたビエルの声は硬く、有無を言わせぬ口調でこう言った。

『ーーガガガー俺が行く…で待機…ろーガガッーそこ…動くな。ーガガッーこ……は団…命令ガーーーブッ」

「…………き、切れちゃた。ーービエル団長、何て言ってたんだろう?」





 いくらか立ち直ったバクスとヨイチョはクリミアの指示で戦死した仲間の名札を回収しに焚き火の跡へ、その他の貴族組とユニスは治療を続けていた。

「ーーおい、痛むのか?」
「だ、大丈夫です、私よりサイラス様の方が……」

 サイラスの腕を気遣うユニスの顔が歪んだ。先程の戦闘での緊張感が解けた今、話すだけでも砕けた顎が傷むのだ。

「ッチ、無理するなーーフリードが掛けた治療麻酔が切れてきたのだろう? すぐにアイツを此処に呼んでやる」
「そ、そんな、サイラス様やヘルム様のお手を煩わせる訳にはいきません。大丈夫です、私ちょっとヘルム様の所へ行ってきます」

 貴族主義者ではないが、ヘルムもれっきとした貴族である。平民であるユニスが貴族を呼び付けるなど、どうして出来ようか。
 ヨロヨロと立ち上がり歩き出すユニスだが、黒い棘に刺された左足は自らの氷魔法で長時間凍らせた事と処置が遅れた為に上手く動かす事が出来ない。

「ーーあっ!」
「ッチ、ほら掴まれ」

 よろける姿を見ていられなくなったサイラスはユニスに手を貸し共にゆっくりと歩き出した。

「……す、すいません! …………私、きっともうここ騎士団には居られないですね……まともに歩く事も、きっとこの顎じゃ魔法も上手く詠唱できない……グスッ」

 ボロボロ頬を伝う涙が止まらない、戦力にならない自分が騎士団に留まる事は許されないだろう。そして、小さな商家である実家にも恐らくユニスの居場所はもう無い。こんな状態の自分が帰っても迷惑になるだけだろう。

「……だから俺達は言っているのだ、平民は平民らしく生きろとな。ーーお前も今回の事で身の程を……」
「グスッーーでも、サイラス様の言う平民らしく生きれない人も居るんです……居場所が無い人だって居るんですぅーーうわ~ん!!」

 遂には泣き出したユニスにサイラスは狼狽する、貴族の男性として女性を泣かせるのは恥ずべき事なのだ!

「な、泣くな! 悪かった、そうだな、お前にも事情があるのだな? よ、よし、俺に任せろーー悪い様にはしない。だから、もう泣くなっ」
「ほ、ホントですか!? あ、ありがとうございますぅ! うわ~~ん!!」

 まさかの言葉に感極まるユニス、泣き止むどころか大号泣だ。

「ッチ、だから泣くなと言ってるだろうがっ! ほらこれで涙を拭け!」
「ーーほんどに、ありばどうございばすぅ~ グスンッ ぶーッ!」

「……よ、良い、その鼻噛んだハンカチはお前にやる……」


 サイラスの実家であるノルジット家に左足を少し引き摺って歩くメイドが増えたのは、これより少し後の話である。

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