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64・怨念
しおりを挟むサイラスが人形創作者と対峙していた頃、ミードとアルバは人数的に有利な筈のこの戦いに予想以上の苦戦を強いられていた。
「ぐはぁっ!」
バチーンと飛来した脛当てがミードの肩に打ち当たる!
ズルズルと地面を這う様に此方へと迫る鎧は、一定の距離まで近づくと急速にそのスピードを上げ飛んでくる。
男が言う様に鎧に憑いた怨念のせいなのか、いくら逃げても躱しても鎧は軌道を修正して必ず当たり、そして張り付く。
燃えて中身が無くなったとはいえ、その重量と衝撃は決して楽観視出来る物では無い。
王国直属である騎士団から支給される訓練用軽鎧には見習い用であっても上位の防御魔法が付与されている。しかし、衝撃は軽減出来ても重量は軽減出来ない。攻撃を受ける度ミードの動きは目に見えて悪くなってゆく。
「うぅお!?ど、どうなっているのだ!?」
先程の様に一度に飛んで来ないだけマシだが、何故か張り付いた鎧はどうやっても体から離れない。アルバの体にも既に小手が一つへばり付いている。
「はっはっ、逃げなきゃどんどん張り付くぜぇ?いや逃げてもだけどなぁ!ーー嬲り殺しは趣味じゃ無いんだが…おや?」
男はふと川沿いに顔を向けると何かを察したのか残念そうな表情で二人に凶報を告げる。
「あー、お前さん方のお仲間はやられたみたいだぜ、あっちも俺がやりたかったんだが…残念だ」
「お、お前、サ、サイラスに何を?」
「おいおい、人の心配してる場合かよ…そうか、俺を舐めてんだな?」
男はまだ近くにあった鎧をガンッとアルバに向かって蹴り出した。
ーーアルバと鎧の距離が縮まる!
一番重量がある胴部分がグンッと急激に速度を上げアルバの頭目掛けて飛んで来た!
(あ、あんな物が当たれば首がもげてしまうっ!?)
アルバは反射的に使い慣れた魔法を放つ!
「う、うわぁぁあ!?炎竜巻!!」
「ば、馬鹿、アルバよせっ!」
ミードは咄嗟に止めたが時すでに遅し、迫る鎧に向かってアルバ渾身の火魔法が放たれた!
死霊魔法士が使役する死体で有れば先程の様に燃えるだろう…しかし鉄と革で出来た鎧は違う。
真っ赤に熱せられた鎧はーー物凄い高温となってアルバに襲いかかるのだ!
「間に合え!氷柱ッ!!」
ミードは熱だけでも何とか相殺出来ればと灼熱の鎧目掛けて氷魔法を放った!
ーーが、間に合わないっ!
「う、うわぁ!!ミード何とかしてくれぇ!」
例え腕や足などで飛んでくる鎧の衝撃を防げたとしても、張り付くのが問題だ。
自らの魔法で熱した鎧は高温を保ってアルバの体を焼くだろう。生きながら焼かれるなどあのアルバに耐えられるわけがない。
これから起こる凄惨な光景を想像し、ミードは思わず顔を背けた。
ーーガランゴロンッ
しかしミードの予想とは裏腹に、しゃがみ込み頭を抱えたアルバの目の前で赤く焼け爛れた鎧はその勢いを無くして転がり落ちた。
「ーーはえっ!?…い、生きてる!」
男は神妙な顔付きでアルバを見ながら盛大に溜息を吐いた。
「はぁ……稀に居るんだよなぁ、無自覚に物事の核心に触れちまう奴ってのがよぉ…全くやり辛いったらありゃしねぇ…」
◇
「か、核心……俺が??」
「そうなのか? アルバ、お前凄いなっ!一体あの男が言う核心とは何なのだ?」
男の言葉に混乱するアルバ、何しろサッパリ心当たりが無いのだ。しかし、ここは何か分かったフリをするのがカッコイイだろう。
「そ、そうだな…あ、アイツは死霊魔法士なんかじゃない!」(…多分)
「何だって!?」
アルバはビシッと男を指差し言い放つ!心無しか男の顔が少し引き攣った様に見えた。
「よ、良く考えてみろミード。アイツは怨念が鎧を動かしてるって言ったけど…そ、そんなのおかしいだろっ!」
「確かに…死体を動かすとは聞くが怨念を使うなど聞いた事がない」
数が少ない死霊魔法士ネクロマンサーだが、彼らのほとんどは国に管理されている。
死霊魔法も彼らの協力の元、日々研究されているが「怨念を使った」なんて話は聞いた事は無い。そもそも魔法学上、未だ「怨念」が本当に存在するかどうかも解明されていないのだ。
「お、俺は最初からおかしいと思ったんだ…な、何で味方の怨念が俺達を襲うんだ?お、襲うならアイツの筈だろ!あ、アイツが殺ったんだから!」
「……うん、うん?ーーそう…か??」
アルバが言いたいのは、殺された人の「怨念」が有るとして、それが味方へと向くのはおかしい。襲うなら恨んでいるヤツだろうという事だ。
ーー死霊魔法士ネクロマンサーは死体を操る。
そこには敵味方は関係ない、敵を殺しても味方が死んでも相手に死霊魔法士ネクロマンサーが居るだけで全てが敵となる。殺っても殺られても敵が増える、混戦においてこれ程厄介な相手は居ない。
しかし、アルバの考えだと死霊魔法士が操るのは自分の味方の死体だけになってしまうのでこれは全くの見当違いである。
ミードとしても、何故死体でも無い鎧が襲って来るのか。そして炎が効いたのは何故なのかを知りたかったのだが…。
「お前さん方よぉ…俺は無自覚にって言ったろ?炎使いの兄ちゃんはまだ何も分かっちゃいねぇよ」
「えっ、ち、違うのか?」
(ーーくっ、ミードから物凄い視線を感じる!)
「ーーまぁ全く違うと言えない所がお前さんの怖い所だな…こういう奴が何故か戦況を変えちまう事があるんだ。ってな事でーー遊びはマジで終わりだ」
男が詠唱を始めるーー地面が騒つき黒く染まる。それはまるで夥しい数の蟻が蠢く様に…。
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