筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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48・救難要請

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「ーーギュスタンの容体は?」

 仰向けに倒れ、未だ目の覚め無いギュスタンの周りを囲み容体を伺う。暫く診断していたマルベルドはテキパキと回復魔法を施しながら感心した様に言う。

「ククッ流石ベイルード家、中に着込んでいる高価な服に付与された防御魔法のお陰で内臓には大したダメージは無い、落下時の衝撃で気を失っただけだろう。」
「そ、そうか…随分と派手に飛んできたが、その程度で済んで良かった…」

 ミードはほっと胸を撫で下ろす。ギュスタンはうちの主力だ、彼を欠いたまま訓練を継続するのは正直難しい。

「まぁそうは言っても、肋骨にはヒビが入っているし、左肩は爆発の衝撃で脱臼している。直ぐに復帰とはいかないが…ククッなぁに心配はいらない、何せこのマルベルドが処置するのだからな!」

 マルベルドは性格に問題があるが腕は確かだ、彼に任せておけば問題無いだろう。
 全く、分隊長であるギュスタンがやられたおかげで士気は最悪だ。完全に順番を間違えた、いやあの時点でギュスタンが負けるなど誰が想像出来ようか…。次に対戦予定のアルバは現在放心中、大口叩いたのは良いが対抗策が全く思いつかない様だ。

(あの男…まさかここまでやるとはな…)

 ギュスタンが負けるまでは心の何処かで男の活躍を、可能性を見たいと思っていた…。
ーーしかしこうなると話は別だ。

(我々が負ける訳にはいかないのだ…)

 貴族主義である我々が平民に負ける、一対一の決闘とはいえ実質五対一だ。これはまずい、家名に傷が付くのは勿論の事、同じ貴族主義の同胞達に何を言われるか分かったものじゃない。

 ギュスタンの夢である第一騎士団は貴族主義者の集まりだ、このままだと確実にギュスタンの夢は閉ざされるだろう。だからこそ何が何でも勝たねばならなかった、それが多少強引な手段だとしても。

「む?…な、何だか腹の具合が…と、特別に誰か別の者に手柄を譲ってやっても良いのだが?…」
「ーーはぁ、見え透いた嘘を…」
「ミ、ミード!? ち、違うぞ?俺は本当に!」

 アルバが必死の形相で言い訳を始めるが、自分の都合の悪い時にだけ腹具合が悪くなるのは昔から変わってない。一体いつまであの様な言い訳が通用すると思っているのか…だが気持ちは分からんでも無い。

「で、サイラス…結局あの男に魔法は効かないと言う事なのか?」
「ーーまだ判らん。が、次も負ける様な事は絶対に避けたい所だな」

 あの男、土を投げ爆破の位置をずらしてはいたが、距離的に爆発の衝撃を一切喰らわなかったーーなんて事は無い筈だ。広範囲に広がる爆風は時間でも止めなければ躱せる様な物ではない。
 だが男の身体に傷は見受けられ無いし、ダメージも無さそうに見えるーーとなれば「全ての魔法を魔法無効レジストする」との噂は本当だったと考えるべきか…。

(しかし、それならば何故わざわざ爆破の位置をずらす様な真似を? )

 もし魔法が効かぬなら、マルベルドが言っていた様に悠々と歩いて直接攻撃しに来れば良い筈。
 つまり、魔法無効レジストするには何か条件が有るのか?ーーその条件さえ分かれば対抗策も練れるのだが…それまでは慎重にならざる得ない。

(もっとあの男を観察する時間が欲しい所だ)

「み、見ろ!奴ら何か食っているぞ!」
「チッ、随分と舐められた物だ…」

 見ると…万年最下位のジョルクが何やら魚を頬張っているのが見える。ギュスタンが倒されたのを見て余裕が出たか…今に見ていろ、その余裕もすぐに焦りに変えてやるっ!

 ーーそうか、何もあの男を攻略する事に固執する必要は無いではないか!

(後方から来ているバクス分隊にあの男の仲間を拘束させよう!仲間を人質に取り、此方に手出し出来ぬ様にすれば…)

 後々、フリード家が何か言って来る様であれば…バクス達が勝手にやった事だと言えばよい。
我々は正々堂々と決闘を行ってはいるが、これは戦闘訓練だ。他の分隊が乱入して来る事だってあるだろう。そんな事にまで責任は取れないと突っぱねてやれば良いのだ。

 よしっ、そうと決まれば、直ぐに行動を移さねばならない。サイラスは通信魔道具に魔力を込める、制限的にこれが今日最後の通信だ。


「ーーバクス、今何処にいる? 予定が変わった…おいっ聞いているのか?」

『サ、サイラス坊ちゃん!ーーがっ…たーー襲撃ガーードンッ!ゴァッ!ーーた…助けーーガァーーー』

「どうした…何だその音は?おいっ、バクスっ!」


ーーーくそッ、切れた!

 全くッ!何だと言うのだ? もうこれで今日は魔道具を使用する事が出来ないというのにっ!これでは作戦の指示が出せないでは無いかっ。
 どうする…何とか夜まで時間を伸ばして通信の回復を待つか?

(……それにしても何があったのだ?随分と切羽詰まった様子ではあったな…)

「どうしたサイラス、バクスは何と?」
「ーー分からん…。シュウゲキがどうとか言っていたがーー切れてしまった」

「シュウゲキ? もしや、他の分隊に襲撃されているって事じゃないか?」
「…そうかもしれんな」

 まだこの辺りを彷徨うろついている分隊が居るのか? バクスからは二分隊程、怪我人の回復で足留めされているとの報告は聞いたがそいつらだろうか?

「助けに行かなくて良いのか?」
「必要無い、肝心な時に役に立た無いヤツなど…いや、そうだな…」

 バクス分隊から緊急の援助要請があったと言えば時間を稼ぐ事が出来るかもしれん。直接出向いて指示を出すのは避けたかったが、通信魔道具が使えぬこの状態ではやむ得まい。

「ーーマルベルド!ギュスタンの回復を急いでくれ、ここから俺達は別行動をとる」
「ククッ、任せておけ」

 テーブルの前にツカツカと歩み寄ったサイラスは、乱雑に並ぶ食器を一瞥するや白いテーブルクロスを無造作に引き剥がした。

 宴会芸などで行われるテーブルクロス引き。乗っている食器や水の入ったグラスなどをそのままに布だけを引き抜く技であるが、サイラスがやったのはそんな物ではない。

 飲んでいた茶の入ったカップやポットはおろか、テーブル自体が一瞬で消えたのだ。地面に着いた4つの丸い跡だけが、テーブルがそこに確かに存在あった事を証明していた。

「…奴らに停戦を申し込み、バクス分隊の救援に向うぞ!」

 そう言ったサイラスの背後には、もう先程まで座っていた椅子すら消えていた。
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