上 下
47 / 276

47・筋肉魔法

しおりを挟む


 まるで爆発など無かったかの様にそこに佇む男、確かにその背中には傷一つ付いていない。先程まで興奮気味に互いの意見を言い合っていた面々は一斉に言葉を失った。

「ギュ、ギュスタンの爆破魔法が効かないだと?腕輪を二つもしているのに??」
「クッ、化け物だな」
「ほ、本当に効いて無いのか?で、では、あの男を倒すには…いったいどうすれば良いのだ!?」

 あまりの出来事に動揺を隠せないアルバ。そりゃそうだ、次は自分が貴族の決闘の見本を見せると豪語したのだから狼狽えるのは当然だろう。
 各言う俺だって、との闘い方など教わった覚えは無い。あの場に立たされたとして俺に何が出来たか…恐らく何も出来無いであろう。

ーーだが、ギュスタンは違った。

『連続で当てるまでよッ!』

 直ぐに起き上がると両手に魔法を展開する。そうだ、一度で効かぬなら効くまで当てれば良いのだ、ギュスタンには二連撃がある。

「腕輪を装備しながら魔法無効レジストなどあり得ん!…もしや、身体に防御魔法を付与しているのでは?」
「ククッ、確かに身体に魔法陣を彫ほる方法が無い訳じゃないからな?」
「成る程、直接かっ!…しかし、たかが訓練でそんな事するか?」

 遥か昔、身体に直接魔法陣を彫って戦った者が居たとの話も聞く。だが魔法陣はとても繊細で、傷一つ付いただけでもその効果は無くなってしまう。
 初撃は耐える事が出来ても、その衝撃で魔法陣に少しでも傷が入れば終わりだ。その為、通称魔法陣は鎧の裏など傷が付きづらい所に描くのが一般的だが、それでも激しい戦闘で陣が壊れる事も少なくは無い。
 そんな事から一般的には、防御系魔法陣は永続的な物では無く使い捨てと言う考えだ。そんな使い捨ての陣を身体に彫るなど正気の沙汰では無い!

 兎に角、どんなカラクリが有ろうとあの爆発に何度も耐えられるとは思えない。
 ギュスタンの纏う魔力に気付いた男は、爆破魔法が直撃しない様に姿勢を低くグネグネと曲がりながら走り出す。

「ククッ、やはり動いたな。魔法無効レジスト出来るならば悠々と歩いて来れば良いのだ、つまりもうタネは尽きたって事だ」
「ほ、ほう!そうか…そうであろうよ! あんな事が何度も出来ては困るからな!」
「アルバ、良かったな…」


『いくぞ、爆破連撃ッ!!』


 今度はしっかりと適切な距離を見定めて爆破魔法が放たれた。あの男は何とか距離を詰めようとしていたが、もうギュスタンに不意打ちは効かない。

「例え一撃目を耐えたとしても、ほぼノータイムで放たれる次弾までは耐えれまい!」

 ところが男は魔法が放たれたのと同時に、急にグルグルと横に回転したかと思うと何かをギュスタンに向かって投げ付ける!


『筋肉魔法トルネードッ!』


「筋肉魔法?何だそれはーー」
「何か投げたぞ?あれは土…目潰しか?」
「クククッ、今更目潰しとは!タイミングという物があるだろうに!」

 そうだ、魔法が放たれてしまってからでは意味が無い。目潰しは魔法が放たれる前に相手の目から逃れる為に行う戦法だ、何故このタイミングで…


ーーードォガズガンッ!!


 物凄い爆音に空気がビリビリと震える中、四人の目の前には爆風に人形の様に吹き飛ばされて動かなくなったギュスタンの姿があった。





「マ、マルベルド!」
「分かっている!おい、ギュスタン?聞こえか!」

 ギュスタンは完全に気絶している、しかし四肢の破損や大きな出血は無い。恐らく咄嗟に魔力を分散したのだ!
 一点収縮では無く多面的展開にした事と、自身に装備した衰退の腕輪のおかげで重傷を免れたのだろう。

 男は先程と同じ様に爆煙の中で平然と佇みこちらを睨み付けていた。

「ど、どういう事だ?な、何故ギュスタンが飛んでくる?」
「ーーそ、そうかッ! そういう事かッ!?」

 最初の爆発からおかしいとは思っていたのだ!…幼馴染の俺は知っている、爆破魔法を覚えてからのギュスタンが影でどれ程の修練を積み重ねていたのかを。

 「いつか第一騎士団へと入団する日まで、俺は努力を怠る事はしない。道は遥か遠いかもしれぬが、俺はこの夢を諦める事は出来んのだ!」

 雨の日も、雪の日も、毎日魔法の修練を続け、遂には使い手の少ない連撃まで独学で習得したギュスタンが…あのギュスタンが! いくら不意打ちとはいえ自分が使う魔法の射程距離を間違える訳が無いのだっ!


「爆破魔法は対象に当たった時点で爆発するのは知っているな? あの男…爆破の位置をずらしたのだっ!」
「な、爆破の位置を?……一体どうやって?」

「土だよ…」
「何だ?土がどうしたと言うのだ!」

「あの男が投げた土は、目潰しが目的じゃなかったと言う事だ!」

 爆破魔法が放たれた瞬間を狙って土を術者に向かって投げる。土は術者に近い場所で魔法と衝突し爆破を誘発させる、その術者をも巻き込んで…。
 それは恐ろしく単純でいて最も効果的な方法だった。

(勿論これは、放たれた魔法よりも速い速度で土を投げ付ける事が出来るなら…と言う条件付きでは有るがーー)

 それを可能にしたのが、筋肉魔法トルネードか…恐らく一時的な身体能力の向上、能力強化バフである可能性が高い。聞いた事も無い系統の魔法だが、実際にこの目で見たからには信じるしかあるまい。

ーーもしかして、俺達が平民だと侮っているあの男は、想像以上に恐ろしい相手なのではないだろうか…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...