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27・二つの英雄
しおりを挟む「うっしゃー!!見ただろ兄貴っ?俺の魔法が当たったところをさぁ!なぁ!なぁ!」
「あぁ…うん。凄い凄い…」
俺の勝手な期待よりもジョルクの魔法が普通過ぎてちょっとガッカリだったが、そんな俺とは裏腹にジョルクのテンションは高めだ。
(【ためる】で攻撃力二倍とかじゃないんだ…単純に詠唱遅いだけならデメリットしかねぇな)
いや、でもそうか…もしかしてジョルクは今まで戦闘訓練で魔法を相手に当てた事が無いのかもしれない。聞く所によれば、ジョルクはいつも馬鹿正直に正面から敵に挑んでいるようだし…それであの詠唱なら…きっといつも撃つ前にやられてたんだろう。
ところが今回は盾役タンクが居る事で初めて詠唱が成功して魔法がまともに当たった!で、喜んでるって所か。
「あれ?…じゃあ何であの魔法、威力普通なのに視認出来るくらい圧縮したんだよ」
「何言ってんだ兄貴、見えなきゃカッコ悪いだろう、なぁ?」
「いや、風魔法の利点っ!?」
不可視の攻撃だから怖ェーんだろうがっ!
まぁ、相手からの攻撃は目に見えて減っている。結果を見れば戦力を間引く事には成功したって事だ。ただ、回復魔法士が居るからな…軽症ならすぐに復帰してくる可能性もある。
「なぁ、各分隊には必ず回復魔法使えるヤツが居るのか?」
「・・・さぁ? 分かんねぇから取り敢えず全員ぶっ飛ばせばいいだろ?」
脳筋かっ!? 筋肉無い癖に脳筋なのかお前はっ!
誤解の無い様言っておくが、世間では「脳筋=マッチョ」のイメージが強いけど、マッチョは意外と色々考えてるからな。
1日に摂取するカロリー計算やPFCバランス[P(タンパク質)F(脂質)C(炭水化物)]どのトレーニングがどこの筋肉に効くのか…その考察はフィジカルからメンタルまで幅広い。
人によっては英文で書かれた最新の研究結果や論文にまで目を通してるヤツもいるからな。
意外に思うかも知れないがインテリなんだよマッチョは…。
(まぁ、結局は色々考えてくうちに、『筋トレしとけば大抵の問題は解決する』って結果になるんだけどな)
「流石に全分隊には居ないよ、回復魔法士は貴重だからね」
いつの間にか後にヨイチョが来ている、どうやらほふく前進で隠れながら這って来たらしい。
「ただ、回復魔法士が居ない分隊も、大抵は応急手当てくらい出来るよ」
「そうか、じゃあすぐに行動しなきゃ復活しちまうな」
無事合流出来たのは良いが、流石にシールド一枚で三人を庇うのは無理がある。早いとこ林に逃げないと。
「いいか二人共、作戦が変わった。俺が囮になるから二人は林を進んで簡易拠点まで戻ってくれ。後は作戦の詳細をヘルムから聞いて準備を頼む」
「じゃあ兄貴、林の中に居る二人は俺がやっつけて良いんだな?」
「何だって?」
「林の方から敵が二人こっちに向かって来てるからなぁ、拠点に戻るまでに丁度鉢合う感じだぜ!」
「ちょっ、ちょっと待ってジョルク!?それ本当?僕の捜索魔法には何も…」
「い~や、間違い無い!距離はまだあるからな、検知出来てねぇんじゃねぇか?なぁ」
ヨイチョの捜索魔法はヨイチョ中心に500mくらいの範囲と言っていた。ジョルクの話が本当なら500m以上先から二人が来てる事になるな。
「へー、お前も捜索魔法使えるんだな」
「いや、兄貴。俺は捜索魔法は使えねぇよ、ただ…」
ジョルクは難しそうな顔をして腕を組む。
「何というか、上から見えんだよ…まるで鳥になったみたいに色んな物がなぁ」
「ん?鳥になったみたいにって、空から周りを見れるって事か?それって凄くない!?」
上空からから見下ろす様に周りを観察する、これは物凄い事だ。山や海で遭難者が出た時に必ずヘリを飛ばすのは、空から捜索する方が圧倒的に有利だからだ。地形は勿論、位置や距離が遮蔽物関係無く分かるのだから。
森の中や建物の内部は分からないだろうが屋外でのアドバンテージは無茶苦茶高い!その能力を個人が持ってるとか凄過ぎだろっ!
「そ、それって鳥瞰視点ちょうかんしてん魔法!上位索敵魔法じゃないか!? 一体どうやって…」
「これやっぱ魔法だったのか。うーん、敵をず~っと探し続けてるうちに…なんとなく?」
「あっ、もしかしてジョルクが敵と遭遇率高いのって…」
「あぁ、俺は敵の居場所が見えるからなぁ!」
つまり、ジョルクは今まで不運だった訳じゃなくて自分から敵を探してそこに一人で突っ込んでたのか…英雄志望と自殺願望は紙一重なのか?やべぇな、この考え方はまずい…。
「なぁジョルク、お前の目指す『英雄』ってのはどんなんだ?」
「あぁ?そりゃ誰かのピンチの時に颯爽と現れてバーっと解決しちまうカッコイイ漢さなぁ!」
「そうか…いいかジョルク、『英雄』はお前が言う様に前線で無双するタイプと後方で大局を操り味方を勝利へと導くタイプが居るんだ。お前は後者の『英雄』の素質がある、間違い無い!」
「でも…俺は、俺の見た『英雄』は一人で何十人もの敵を打ち倒す力を持ってるんだ!俺はそんな力が欲しい、後方でふんぞり返ってるだけの嫌なヤツにはなりたくない!」
あぁ、その気持ちは何となく分かる。権力を笠に威張る上司は何処にでもいるもんだ。自身は大した能力も無い癖に口先だけで無理難題を下に押し付ける…だがそんな奴らは決して周りから『英雄』なんて呼ばれ無いんだよ。
「ジョルク…ビエル団長は後方でふんぞり返って威張ってるのか?」
「・・・・・っ!?」
「確かにお前が言うようなヤツも中にはいるだろう、だが、そんなヤツは前線だろうが後方だろうが何処に居たって偉そうに威張り散らしてるさ」
「一人で何十人もの敵を打ち倒す、確かにそれは『英雄』だ。だけど後方で何千もの騎士を動かし何万もの人を救うのも『英雄』だと思わないか?」
「・・・・そ、それは…」
「ジョルク!どうせ目指すなら十人倒せる『英雄』じゃなく万人を助ける『英雄』を目指そうぜ!」
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