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25・弱者のルサンチマン
しおりを挟むジョルクを止める事が出来なかったヨイチョは草場に伏せ途方に暮れていた。目の先では既に戦闘が始まってしまっている。
(あ~、どうしよう?、折角逃げて来たのに…)
攻撃魔法も回復魔法も使え無いヨイチョが騎士団試験に合格出来たのは、平均を大きく超えた魔力量に将来性を期待されたからだ。
ヨイチョ自身は物騒な争い事を生業とする騎士には全く興味が無く、団の詰所で働く使用人になれたらとの思いで試験をうけた。しかし、ヨイチョを慕って同じく試験を受けた幼馴染のナルの魔法適性が割と貴重な属性だと判明し、使用人では無く騎士団への入団が決まってしまった。
人見知りで怖がりのナルを一人で騎士団へ入れる事に不安を感じたヨイチョは、仕方なくナルの後を追って騎士団へと入団する事にしたのだ。
入団してから攻撃魔法の座学をいくつか受けてはみたものの、どうにも攻撃のイメージが固まらず未だに攻撃魔法は実践レベルには達していない。
「くそっ、僕にも攻撃魔法が使えたらっ!」
ヨイチョの少し先ではジョルクが驚異的な反射神経で魔法を躱し続けている。成績は悪いジョルクだが、身体能力のポテンシャルだけで言えば正騎士に匹敵する。考え無く突っ込む性格と詠唱の癖さえ直せば間違い無く成績上位に入る筈なのだ。
だが、あんなに動き回ってる状態では詠唱は無理だ。かと言って生活魔法しか使えないヨイチョには何も出来ない。さっきの様に竜巻を使えば逃げる事も出来るかもしれないが…
ーーーブォンッ!ブォンッ!
ジョルクが躱した風魔法に草が薙ぎ倒されていく。そのせいで、辺りは徐々に見通しが良い広場の様になってきている。もうこれ以上この辺りに隠れ続けるのは無理だろう、そして逃げる事も…。
こうなったらいっそ、ジョルクの側で一緒に攻撃を躱し続ようか?一人より二人の方が的を絞らせず躱し続けられるかもしれない…。
(でもその後は?躱し続け、疲れ、やられるだけじゃないか…)
ーーーそもそも…勝てるわけが無いんだ。
この分隊に編成されてから勝った事があっただろうか。能力が劣り、他者と上手くいかない溢れた者が集まった分隊だ、弱小は当然の事だと思っている。かと言って今更他の分隊へ入っても、足手纏いと嫌忌され自分の無能さを再確認するのは精神的に辛い。
ーーー集団の中に居る限り、必ず最下位は存在する。
『誰かが必ずなってしまう最下位、それを僕が、僕達が請け負っているだけさ』
自分に言い訳し、負ける事を正当化しながら訓練をこなして行くうちにヨイチョにはすっかり負け癖がついてしまっていた。
「どうせ、いつもの事だし・・・あっ…」
ジョルクの膝がガクンと落ちた。成人男性の腰ほどの高さまで育った草々は、倒れた跡もまるで砂地を歩くかの様に足へと絡み付き体力を奪ってゆく。
時間にして数分という僅かな間だが、ジョルクはたった一人で集中砲火を躱し続けていたのだ。とっくに体力は限界だった、寧ろ今まで躱せた事が驚きだった。
「ジョルクのクセに俺達の攻撃を散々躱してくれやがって!いい加減くたばれっ!」
格下と思っていたジョルクに思う様に攻撃が当たらず苛ついていた相手は、ここぞとばかりに魔法を乱発する。
ーーー青白く輝いた氷柱、直線的に向かって来る石礫、圧縮された空気の塊・・・・
どの魔法も当たれば只では済まない。いくら腕輪で魔力を抑えていても、尖った氷柱が目に刺さればどうなるかぐらいは想像がつく。石礫だって辺り所が悪ければ深刻なダメージが残るだろう。圧縮された空気は形状によって「かまいたち」を発生させ指くらいは簡単に落としてしまう。
どれもすぐに回復魔法を使えば後遺症無く治す事の出来る程度の怪我ではあるが、完治には時間もかかる上に受けた時の痛みは記憶からは消せない。
自分を傷付ける為だけに迫り来る無慈悲な魔法。疲れて避ける事の出来ないジョルクにはどう見えているだろう?助ける手段が無く見ている事しか出来ないヨイチョにはどう見えているのだろう?
ーーー焦燥、悲観、屈辱、無念、そして諦め…
物理的な痛みよりも速く、負の感情が心に襲いかかる。
ーーーズガンッ!
だが、それらは突如現れた銀色の壁に阻まれた!
唐突にジョルクの目前に突き刺さった銀色のシールド、迫り来る無数の絶望はぶち当たり弾けた!
ーーー氷撃に!空撃に!石礫!
その全ての絶望を受けても揺らぐ事のないシールドを支えるのは、太く逞しい彼の腕だった。
「悪いっ、待たせた」
それはまるで待ち合わせに五分遅れた事を詫びるくらいの、そんな軽い口調だった。
この危機的状況を、心底何でも無い事の様に言う彼の言葉に二人の焦燥感が薄れていく。
諦めの中に現れた鍛えられた大きな背中はジョルクを庇う様に立ち上がる。全ての攻撃を受け切ったシールドをドンッと前に構え直し、真っ直ぐに敵を見定める彼の目には自信が溢れていた。精神的にも物理的にも折れる事無い圧倒的な存在感がそこにはあった。
それはまさに、ジョルクが幼い頃から憧れ追い続けた『英雄』の姿だった。
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