筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

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22・見習い騎士団の実力

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 訓練開始の合図が鳴ってから三時間、草原に残る何かを引きずった跡はすぐに見つかった。勿論、オイラ達にはこれがアイツの分隊が通った跡だって事はすぐに分かったっス!多分これはあのデカいシールドを引きずった跡っスね、間違いないっス!そして、あんな重い装備持ってるのは・・・・アイツしか居ないっス!

 オイラ達の分隊は、アイツの分隊が森へ入ったのを見てから少し遅れて森へ入った。事前にアイツがどの方向へ向かうのかを確認しておよその場所を把握したって訳っスよ、オイラ達賢い!
 今回の訓練はウービンさんとの賭け狙いの連中がほとんどっスからね、序盤にさっさと倒さないと横取りされるっス。

「見つけたっス!あそこ!あそこに向かって有りったけの魔法を撃つっス!」
「何だあれ?もうキャンプの準備してんのか?」
「ははは、勝負捨ててんだろ」

 草むらの中に現れた円形にひらけた場所、彼奴らは此処でキャンプをするつもりっスね。準備が早すぎる気はするけど、あんな重そうな装備を持ち歩いてるんだから体力無くなるのは当然っスね。
 一応、穴を掘って隠れてるみたいだけどバレバレっス、あそこの分隊はカスばっかりだから力押しで行くっスよー!!

「これでクリミアさんに晩酌して貰えるっ」
「数は力っスよ!押せ押せで行くっス!」
「石弾丸ストーンパレット!石弾丸ストーンパレット!」
「俺、この訓練が終わったらウルトさんに告白するんだ…俺を・・・・叩いて下さいって!」

『ーーーっぇえ!?』



 俺達が付けた目立つ痕跡をノコノコと辿ってきた相手分隊は、簡易的に作られた拠点に向かってすぐに攻撃を仕掛けてきた。土魔法で出来た無数の小さな石粒…点では無く面での全体攻撃だ。

 つまり、それは相手分隊には塹壕の中が良く見えてない事を示している。もしも俺達が見えているなら、一点集中で狙って攻撃した方が効率も良いし精神的な圧もかけられるはずだからだ。バラバラと此方を探る様に放たれる土魔法の威力は俺が持つシールドで十分に防げるものだった。

「ん、こんなもんか…えーと二人共、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だもん!ナルは大丈夫…大丈夫だもん!」
「タンク盾役ですか…微妙に使いづらいですね貴方…団長は何を考えてるのでしょう?土魔法で壁作った方が効率的でしょうに…」

 ナルは頭上を飛び交う石粒に頭を抱え涙目になっているが、俺は投石を板に受ける程度の衝撃をシールドに感じながら拍子抜けしていた。
 正直クリミアやカイルが放つ魔法に比べるとかなりショボい。腕の太さ程ある氷柱を急に顔面目掛けて撃ってくるウルトの魔法の方が何倍も怖い!

(ハッ!?まさかウルトはコレを見越して?)

 ウルトは俺が魔法で攻撃される事に慣れさせる為に…いや、そんなわけ無いな。アイツは面白がってやってたわ、純粋に暴力を楽しめるタイプだ絶対!

 しかし、こうして見習い団員の魔法を受けてみると正規の騎士団やパカレー軍の凄さが良く分かるな。何というか…当たり前だが見習い団員には殺気がまるで感じられない。

 大猪とパカレー軍、短期間に意図せぬ死線を二度も越えて来た俺には精神的な余裕があった。一撃一撃が必殺の威力があったあの時の攻撃の緊張感に比べるとこっちはまるでお遊びだ。

「おいナル、そろそろコッチも反撃しないと怪しまれるぞ?」

 拠点には俺とナルとヘルムしか居ない。ヘルムが立てた作戦は分隊を二つに分け、拠点に敵の注意を引き付け、その隙に背後へ回り込んだジョルクとヨイチョが敵を無力化する作戦だ。

 本来なら拠点を防衛しながら、向こうの魔力を消耗させつつ攻撃の機会を窺うのが定石らしいのだが、こちらには攻撃魔法を使えるのがジョルクとナルしか居ない。

 手数が圧倒的に足りなく決定打に欠ける為、囮組みと奇襲組みの二組に別れたのだ。

「こ、怖いっ!やっぱり無理だもんっ!」
「はぁ?最悪だ…囮の意味無いじゃないですかっ!」
「ま、まぁまぁ、ほらっ俺が石でも投げるからさっ?意外とコントロール良いんだぜ?」

半べそかきだしたナルをオロオロしながら宥める、やっぱりヨイチョ居なきゃ駄目じゃないこの子?ヘルムは癇癪起こしてるし…何だここは、保育園か!?

 その時、向こう側からジョルクの大声が聞こえてきた。ここからでも木の枝から相手分隊を見下ろしながらポーズを決めるジョルクが見える。

「さぁ俺に任せろっ!なぁ!」

 ジョルクは相手分隊を目視するとすぐに芝居がかった詠唱を始めた。

『我が手に 集いし 大気の鼓動ォ! 風の刃となりて 我が宿敵にィ・・・・』

「ちょっ、馬鹿ですか!?見つかってないアドバンテージが無駄にぃ!?」
「ま、まぁ確かに目立ってはいるけど…先手打てるならいいんじゃないの?」

 隣のヘルムが地団駄踏んでイラついてる。・・・おいおい大丈夫か、顔真っ赤だぞ?
確かにさ、見つからない様に一気に制圧するのが理想だろうけど。

「大丈夫だよ、『喧嘩は先手必勝』って言うしさっ」
「普通ならそうですよっ、普通ならっ!彼…ジョルクの場合は違うんですよっ!あぁ、最悪だ!やはり私は周りに恵まれ無い!」

「どわぁぁ!」

ーーージョルクの足元の木が弾け飛ぶ!

ナルは物凄く申し訳なさそうな顔で俺を見上げて言った。

「・・・ジョルク、詠唱が物凄く遅いんだもん…」
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