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19・団長の配慮
しおりを挟む「あーお前、明日の訓練に参加な?」
「・・・・訓練?」
カイルが俺に今日訓練の事を伝えてきたのは、食堂で大量の皿と格闘している時だった。
イアマ支部には沢山の団員がいる。アレスやクリミアなどの正騎士団員達は街中へ食べに行く事が多いが、給与の少ない見習い達は違う。
騎士団食堂の飯は格安な上に量も多い、団員ならツケも利くとなれば多少の味の良し悪しは大して気にならない。食事時にはこの広い食堂がびっしりと埋まる。
そんな訳で大抵俺はこの時間帯、戦場みたいな食堂に駆り出されている。今は戦闘が終わり残処理中ってとこだ。
「おぅ、カイルじゃねぇか!昼間っから飲みに来るとはいい御身分だな!」
「ちっげーよ!大体、呑みに行くならもっと美味い所に行くってーのっ!」
「ハッ、俺でもそうするわっ!」
ウービンは鼻で笑いながらコップに酒を注ぎカウンターに座るカイルの前に置いた。
「訓練って何するんだ?俺、そういうのやった事ないぞ?」
「大丈夫、大丈夫、訓練ったってお遊びみたいなモンだよ。そもそもこれはお前の為なんだぜ?」
カイルはコップの中の液体を半分程飲み込み渋い顔をする。
「ウービンさん薄め過ぎだろ!」
「うるせぇ、オメェが昼間っから酔わないように薄めたんだよ!気遣いってヤツだ気づけ、馬鹿」
俺は最後の皿を洗い終わると、鍋に残ったスープと黒パンを皿に盛りカイルの隣へと座る。
今日もスープには芋と沢山の肉が入ってる。騎士団は国境沿いの警備を頻繁にしているらしく、ついでにと獣を狩ってくるので肉には当分困らないとウービンさんが言っていたな。
「なんで俺の為?」
硬い黒パンを千切ってスープに浸す、鶏ガラのクリームシチューみたいな味で普通に美味い。
意外にもこっちの世界は調味料が豊富だ。元の世界の料理を作って「こんな美味いのは初めてだっ!?」とか「このマヨネーズってヤツうめぇ!ぜひレシピを売ってくれ!」とはなりそうも無い、残念。
「・・・ほら、お前って・・・・無職じゃん?」
「…えっ!?無職!俺って無職だったの!?」
ーーー衝撃の事実が発覚!
馬小屋の掃除とか厨房の手伝いとか雑草抜きとか色々やらせておいて無職だとっ!?
ちょっと労働監督署に報告してくるわっ!ってこっち異世界に無かったわ、ちくしょうっ!
「お前は一応うち第三に保護された形なんだけどよぉ、普通はどっか働き口を探してやって放り出すんだわ。ただ、今は皆それどころじゃ無くてお前の処遇が宙ぶらりんなんだよなぁ」
確かに雇用契約を結んだ覚えは無いな…勝手に居着いてる感は否めない。
「うち第三もタダ飯食わせる余裕は無いからな、こうして雑用させてるって訳だ。日雇いみたいなもんだな。」
「つまり、仕事休んだら…?」
「そりゃーオメェ、飯抜きで寝るときゃ馬小屋だな!」
ウービンもいつの間にかカウンターに座り酒を飲んでいる。
「そこでだ、優しいビエル団長はお前を正式にうち第三で雇ってやろうと考えてくれたんだよ。今回の訓練参加はその為の試験みたいなもんだ」
「オメェ、ビエルに感謝するんだな。普通、騎士団なんてそうそう入団出来ねぇんだからな?頭は王国だし安泰じゃねーか」
騎士団は国が頭なのか、国家公務員みたいなもんかな。衛兵隊とかはその街の領主が直接雇ってるって聞いたな。王様と領主なら王様に仕える方が安泰なのは間違いないか。
「なぁ、ちなみに他の就職先ってどんなのがあるんだ?」
「ん?お前が出来そうな仕事かー、…見世物小屋?」
「いや、もっとあるよね!?」
「オメェ、今まで森の中に住んでた言葉覚えたての得体の知れないヤツを誰が雇うんだよ。馬鹿」
確かに…住所不定の不審者枠なんだよなぁ、今の俺って。でも、俺の知ってる異世界物は大抵皆『冒険者』になって身分証とか貰うんだよね。
「ここには冒険者って職業は無いのか?」
「なんだオメェ、冒険者になりてぇってのか?」
ふと見ればウービンはもう三杯目のコップに口を付けている。
「・・・やめとけ、あそこにゃ中間が無ぇ。底辺か英雄かの世界だ、オメェにゃ無理だ」
「そんなに厳しいの?」
ウービンはズボンの裾を捲り上げる。
「・・・・義足」
ウービンが見せた左足は、膝から下が木製の義足だった。
「俺はマシな方だ、足だけで済んだんだからよぉ」
木目の浮く義足を撫でながら何処か遠くに目を向けるウービンの顔は寂しげに見えた。きっと知り合いか仲間がその時に亡くなったのだろう。
「ウービンさんは元々上位の冒険者だからな、うち王国も良くギルド経由で仕事を頼んでたんだ」
「まぁ、そんなツテもあってよぉ怪我で引退した後も何とか食いっぱぐれるこたぁなかったがよぉ。普通は怪我すりゃすぐにお払い箱だ、それにだ…」
ズボンの裾を直しながらウービンは憐れむ様な顔で俺を見た。
「魔法の1つも使えねぇオメェは、冒険者になっても仕事なんか無ぇぞ?」
「・・・・俺、試験がんばるっ!」
カイルはコップに残った酒を一気に飲み干し席を立った。そして出口へ向かいながら後ろ手をヒラヒラと振って言った。
「そんなに気張るこたーねぇよ、見学気分で気楽にやりゃいいさ」
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