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18・戦闘訓練
しおりを挟むいつもの訓練場では無く、国境近くの森に遠征する騎士団の見習い達。これから実践を想定しての訓練がこの深い森の中で一週間かけて行われる。
「これよりお前達には、各分隊に分かれ、ゴール地点にある拠点の占拠をしてもらう。実践形式だから当然攻撃魔法の使用は許可!各自、支給されたブレスレットを装備せよ」
一撃で相手の命を刈り取る事が出来る魔法騎士達の戦闘訓練には、安全の為に魔道具を用いる。
【衰退の腕輪】ブレスレット型の魔道具で犯罪者を拘束する時に多用される。付けた者の魔力を一定以下に抑え、魔法攻撃の威力を低下もしくは無効化させる効果がある。これにより実際は致命傷クラスの魔法を放ったとしても、相手は精々失神くらいで済む様になっているのだ。
訓練内容を聞く見習い達に混ざって、大柄な男がキョロキョロ周りを不安気に見回している。
「おい、見ろよホントに来たぜ?」
「はんッ、あんな間抜け魔抜け俺達がすぐにのしてやるさ!」
「ふふっ、タダ酒は俺達が頂きっス!」
先日の食堂での「賭け話」は娯楽の少ない他の見習い達にもすぐに広まり、我こそはと賭けに乗る者達がウービンの元へと殺到した。
「じゃあ、参加する奴は3,000ニルスな?」
「なんだよ、金取るのかよ!?」
「賭けってのはよぉオメェ、勝ったり負けたりするから面白れぇんじゃねぇか、馬鹿」
ちゃっかり参加料を取り赤字を無くすどころか利益まで出す算段をつけるウービン、只者では無い。
そんな訳で彼は今、見習い達の中ではちょっとした注目を集めている。
「オイっ!貴様の魔道具はコレだ!ちゃんと両・腕・に嵌めとけよ?」
彼の隣に居た者が魔道具を渡すと一人不安気だった彼は嬉しそうに礼を言って腕輪を装備しだした。
「しっかり装備しろよっ!死ぬからな?」
手取り足取りと随分親切な奴がいるもんだ。
「そうしたら、ブレスレットが見えない様に布巻いとけ。え?そりゃあ…ブレスレットが傷付かない様にだよ」
(ありゃ~、早速やられてるな)
普通は片腕に嵌めるブレスレットを両腕に嵌めさせてる。大方、彼の魔力を大幅に抑えるつもりなんだろう。
(まぁいっか、・・・・・面白そうだし…)
それとなく彼を見守っていたカイルは見て見ぬ振りをする事にした。そもそも訓練とはいえ、準備の段階から気を抜いてはならないものだ。これが戦場ならば騙される方が悪い。
(初の訓練が戦闘訓練たぁアイツもついてないねぇ。しっかし、アイツの分隊…個性派揃いだな・・・と言うかあぶれた奴らを集めたって感じか…わざとか?)
成績最下位のジョルク
気難し屋のヘルム
生活魔法特化のヨイチョ
怖がりナル
そして魔法が全く使え無い彼
彼の分隊は他の分隊と比べると明らかに#ハズレだ。しかし、試験やら何やら飛ばして彼を入団させる為には、敢えて不利な状況から高成績を残して彼の有用性を周りに示さなければならない。
ーーそう、あのパカレー軍と対峙した圧倒的不利な状況からの逆転劇の様に…。
(団長も案外あれでスパルタだからな…)
例え完璧な魔法抵抗レジストが出来ても戦闘で使えるかどうかは別だ、単純に魔法を防ぐだけなら魔道具でも出来るのだから…。
「各自、分隊ごとに装備を確認後直ちに森へ散開!合図が有るまで待機!」
◇
第三魔法騎士団見習いのギュスタンは朝から気炎万丈であった。何故なら、今日の戦闘訓練には騎士でも何でも無い、ただの雑用係であるアイツが参加すると聞いているからだ。
元々、騎士団の中に孤児院出身者や平民が居る事に嫌悪感を持っている貴族のギュスタンが、森で拾われてきた「忌子」の彼を歓迎出来る訳が無かった。しかも団員でも何でも無いアイツが他の正騎士団員と親し気に接するものだから尚更その気持ちに拍車が掛かった。
ギュスタンとその取り巻き達は今日の訓練で彼をコテンパンに打ち負かし第三から追い出そうと画策していた。
息巻くだけありギュスタンの魔力量は同期では群を抜いており、詠唱速度、制御共に一軍に迫る勢いがあった。ただ、やたらと高いプライドが邪魔をし他者との連携が取れ無いせいで団体戦の勝率が悪く、ギュスタンの評価は中の上くらいに留まっていた。
ギュスタンはベイルード家の三男で、ベイルード家は国境近くの小さな領地を治める男爵位だ。
元々、貴族のみで編成された第一魔法騎士団に強い憧れを持っていたが、田舎貴族の三男では入団出来るコネも資格も無い。かと言って家督の継げない三男がいつまでもフラフラしてるわけにも行かず第三魔法騎士団へと入団する事となった。
ここで第三出世して、いつかは第一魔法騎士団の団長に認めてもらい、そこへ入団するのがギュスタンの夢である。
「アイツを追い出して、賭けにも勝つ!今から酒が楽しみだぜ」
「でもよ…アイツ、全ての魔法を魔法抵抗レジストするって噂だぜ?」
「そんな事ある訳無いだろう!噂に尾鰭どころか足まで付いただけさ、なぁギュスタン」
ギュスタンは目を細め傲然と言った。
「ふんっ、平民共の貧弱な魔法が効かなかっただけであろう。貴族であるこの俺が 本物の魔法を見せてやる!」
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