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3.執事ベレンガー※

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 その言葉に、今まさにフィニッシュを決めようとしていたアクセリアの腰の動きが止まる。オリヴァの上に屈み込むと、頬に零れた涙を拭い額にキスをした。

「女のはらに出すのが、怖いのかい? 安心しな、魔女は妊娠しない生き物なんだよ。あんたの人生は恵まれてなかったようだけど、あんたはそれに屈服せず自分の道を貫き通した。頑張った分、わたしが労わってあげるよ、オリヴァ。何もかも忘れて気持ちよくなろう」

 強姦魔が聖女のような言葉を吐くので、オリヴァは固まってしまった。この魔女、いろいろ絶対ずれている。

「おまえな……っ、うわぁっ!」

 オリヴァが突っ込もうとしたとき、蔦が彼の背中をシーツから剥がした。
 アクセリアは青いサテンのドレスを後ろへ流し、腰を浮かしてМ字に開脚する。破廉恥すぎる光景に、オリヴァはぎゅっと目をつむっだ。魔女はなまめかしい声で囁く。

「だめだよ、よく見ておいて」
「やめろっ、私に見せるなっ」

 陰毛のない膣口に男根がぷしゅっ、ぷしゅっと音を立てながら吸い込まれては吐き出される。気持ちよすぎて、結局オリヴァは凝視してしまった。なすすべもなく翻弄される自分のペニスに、なにもかも魔女に支配された事実を思い知らされ、彼は打ちのめされる。その一方、卑猥な光景が肉茎の熱と硬度を否応なく高めた。

 オリヴァの高まりに合わせて、魔女の蜜壺が締め上げてくる。ペニスの皺の間にまで襞が入り込んでは吸い付いてきて、無理やり絶頂に向かわせようとしていた。恐ろしいほどの愉悦が全身を包み、搾り取られる。
 ついにオリヴァが恐れていたことが起きてしまった。

「ああああああああ……っ!」

 精子が、ドクドクッと噴射される。脳天を突き抜けるような快感に支配され、何も考えられなかった。これは修道士の自分が、知ってはいけない快楽だった。

「はぁ、すごい量だね。美味しかったよ、さすがの初物だね。ごちそうさま」

 オリヴァは自分の上から魔女が退いたところで、白昼夢から放り出される。気が付けば、額に汗が噴き出て肩で息をしていた。
 彼のうつろな瞳が、壁に掛けられた額物をとらえる。それは、ある男の肖像画だった。高い頬骨、鷲のような鋭い瞳、口の周りを縁取る髭は威厳にあふれ、頭上に掲げられた王冠はアルバス大公が代々相続するものだった。古い時代に流行った描き方のわりに、驚くほど保存がきいている。
 その視線に気が付いたアクセリアがその肖像画にたどり着いて、ほほ笑む。オリヴァを襲った魔女とは思えないほどの、優しい笑顔。あなたに逢いたくてたまらないと、瞳が訴えていた。

 ――自分にここまでの犠牲を強いて、何故今ほかの男を懐かしむのだ。

 生まれて初めての興奮から解放された男の心境に宿ったのは、虚しさだった。

 *

「院長様。僕は母に捨てられたんでしょうか」

 修道院に入っても、家族や使用人が面会に来ることもある。彼らを出迎える時の仲間たちの表情は、喜びに満ちていた。訪問客の一人もないオリヴァは、幼いながらも自身の寂しい境遇に気が付いていたのだ。
 院長が、ため息をつく。
 
「おまえの母親は貧しい家の善良な娘でした。ある日、貴族の若者が娘の美しさに目をつけ狼藉を働いたのです。母親はお前を産んだものの育てることができず、教会の前に置きざりにしました」
「……僕が捨てられたのは、愛された子どもじゃなかったからですか?」

 繊細な大人の手が、オリヴァの小さな肩に置かれた。

「神は人を脆くお造りになられました。女の性は、その宿命をより強く負っているのです。だから、我々神に選ばれた者が導いて守ってやらなくてはならないのですよ。オリヴァ、幸いにも、お前には恵まれた肉体とまっすぐな心根があります。それで役目を全うしなさい」
「はい、院長様。それが僕の生きる道とおっしゃるなら、従います」

 それ以降、オリヴァは巡礼地や派遣先で、女性を弱く脆い者として守ってきた。しかし、同時に自分が母親を欲望のまま孕ませた父親と同じ性であることを恥じ、そして自らも同じ行動に出るのではないかとずっと恐れている。だから、女性とはなるべく距離を置いて生きてきたのだ。

 *

 尻のなかで炭酸水が弾けるような感覚に襲われ、オリヴァは目を見開いた。

「な……、何だっ!?」
「オリヴァ、やっと起きたのかい? 待ちくたびれて、先に始めるところだったよ」

 イカれた魔女の陽気な声を聞き、恐る恐る周囲を見回す。オリヴァは寝台の上で四つん這いの姿勢を取らされていた。ちなみに、服は着ていない。

「尻孔に洗浄魔法をかけてやったよ。すっきりしただろう?」
 
 オリヴァの両肘まで昨日と同じように蔦のようなものに絡められ、シーツにしっかり固定されていた。背後を振り向くと両腿にも蔦が絡みつき、やはり力を入れてもビクともしない。蔦と言い切るには肉感的で柔らかく、むしろ蛇やミミズに近い気がする。アクセリアが、口角を上げた。

「こいつらのことは『触手』と呼んでる。今ここにいるのは、五十匹ぐらいだね。これでも操るのにかなりの魔力と技術がいるから、今のところ大魔女のなかでもわたししか使いこなせないんだ。すごくないかい?」

 昨晩、修道士の貞潔を奪ったアクセリアが意気揚々と説明する。オリヴァは瞬間、激しい怒りと憎しみを覚えた。

「私を放せっ、このイカれ魔女が!」
「正直に言うと、あんたは大公がわざわざ皇帝に掛け合って手に入れてくれた、わたしの玩具だ。これほど長く大公家に仕えた臣下は誓って言うけれど、わたし一人。まあ、人間はそもそも四百年も生きられないけれどね。とにかく、こんなに忠義に厚いわたしが、大公からの贈り物を手放すわけはないよ」
「私に恥辱を与えて何もかも奪って、おまえの気は済んだはずだ!」

 オリヴァの激昂に、魔女は朱唇にゴールドの爪先をあてくすっと笑う。

「何もかも奪う? こんなんじゃまだ足りないよ。あんたの一番大事なものはまだもらってないからね」
「一番大事なものだと? ……っ!」

 オリヴァは、この時初めて彼女の隣にいる男性の存在に気が付いた。屈強な肉体を紺色のジュストコールに包み、右目に眼帯をつけている。

「紹介するよ。この男は、執事のベレンガー。仲良くしてやっておくれよ」

 アクセリアが、背の高い男の肩に繊手をかける。整った顔立ちの執事はアクセリアのスキンシップになれているのか、表情を変えなかった。ベレンガーの残された左目はするどく、歳はオリヴァより少し上に感じられる。執事というより軍人と言われた方が納得できた。
 ベレンガーが胸の前に右手をあて、上品に腰を折る。

「ベレンガーです。よろしく――」
「おいっ、そこのあんた! この気持ち悪い触手とやらを外すよう、イカれた魔女に言ってくれ!」
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