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第三章

67.初夜※

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溪蓀シースン

 浩海ハオハイは自らの腰帯をゆるめて下穿きをほどいた。典雅な美貌とともに鍛えられた肉体が、覆いかぶさってくる。焦茶色の瞳は美しく澄みわたり、頬を上気させた彼女を映していた。
 彼は目の前にある白い両膝を掴んで押しひろげ、乙女の秘所をあらわにする。切れ長の真摯な瞳でそこを覗きこんだのだ。

「や……っ、浩海ハオハイさん、見ないで……っ」

 泣きたくなるほどの羞恥心が溪蓀シースンの心を染めあげる。

「ぞくぞくするよ。この日をどんなに待ち望んだか」

 顔をおおった指の間から見上げる夫の面差しには、凄絶な色気と征服欲がみなぎっていた。赤黒く血管の浮き出た男根は天を向いて反りかえっている。溪蓀シースンは、その色形に驚き恐れる半面、実は別のことが気になっていた。

――このかたち、どこかで見たことがあるわ。しかも、最近。

 生まれて初めて目にするものなのに、既視感をおぼえ困惑する。賢宝シアンバオ以外は女と宦官だけの世界にいて、春画をたしなむこともなかったのに。
 だから、未通の場所に燃えるような熱のかたまりを押しつけられても、すぐには反応できなかった。

溪蓀シースン、力ぬいて」

 言われて、彼女はハッとなった。剛直は二、三度滑ついた秘所をぬめって、てらてらと光沢を帯びている。それが、ゆっくりと時間をかけて蜜口に押し入ってきた。

「……んん……っ! やああっ……!」

 臓腑を押し上げる圧迫にうめき声が出る。隘路をはちきらんばかりに進んでくる凶器のような雄茎。彼女は赤いシーツを握りこんで、必死に耐えた。

「ごめんね、大丈夫? もう少しだからね」
「はぁ、あっ、ああ……っ」 

 大丈夫だと言いたいのに、言葉にならない。焼けた鉄の棒を突き立てられるような錯覚におちいる。破瓜の痛みに白い裸身が強張りを見せた。
 眉根を寄せる溪蓀シースンの腰に、夫は自身をぐっと押し込んだ。

「ああああっ……!」

 ぎちぎちにはまりこんだ剛直から逃れようと、華奢な背中がしなる。足はシーツを掻き、まなじりからは涙がこぼれた。浩海ハオハイが覆いかぶさって、耳もとで囁く。

「全部入ったよ。これで君は、永遠に僕のものだ」
浩海ハオハイ、さん、……うれし、いわ」

 呼吸は荒く身体は苦しい。だが、五年の孤独がたちまち日に当たった氷のように解け、心は豊潤に満たされていた。
 浩海ハオハイが拓かれたばかりの蜜孔に自身を馴染ませるように軽く腰を振った。彼女は引き攣れるような疼痛を覚えたが、それが二人をつないでいるものであれば、痛みすら愛おしい。
 
 夫は彼女の下腹をゆっくりとなぞった。溪蓀シースンにはわからぬが、そこは白く薄い肌を押し上げ、うっすらと剛直の形がわかるのだ。おさえられると皮膚越しに愛しい男を輪郭がわかり、甘ぐるしい感情が芽生えた。
 何かをこらえている様子の夫が、短く息を吐く。

「くっ……。あまり締め付けないで。こっちは久しぶり過ぎて、すぐに射精ちゃうよ」
 
 彼はつながったまま、目の前の白い双丘に顔をうめた。硬くなった桃色の頂を指先でもてあそび、こねくり回す。赤い舌をからめては甘噛みし、吸いあげては食む。

「あ……っ、ハ、浩海ハオハイさん」

 痛みと同じくらいの快感を与えられ、思考が全く働かなかった。下肢をつらぬく痛みとは違う、かすかな官能の兆しに蜜口が収縮する。

「そろそろ、動いても大丈夫?」

 何のことか分からず、ぼおっと夫を見あげる溪蓀シースン浩海ハオハイは愛しげに笑みを作ると、伸びあがって朱唇に口づけを落とした。そして、彼女の顔を跨ぐようにシーツに両肘を着く。欲をこらえるその目元は、思わず見惚れるような色気に満ちている。

「完全に僕のものにするには、もう少しだけ儀式が必要なんだ」
「あああ……っ、はあ、ああっ」

 抜けるギリギリのところまで腰を引かれたかと思えば、互いの恥骨を合わさるほど深く押し込まれる。引いても押しても、その度に媚肉をえぐられかきまわされた。

「君のなか、キツいのにひだがうごめいて、僕のこと喰い絞めてくるんだよ」 
「……あっ、あんっ、……あっ」

――今までとは違う。……どうしてだか、身体が熱いわ。

 何度も突かれると、いつのまにか痛みだけでなく快感をも拾うようになった。膣内は豊潤な愛液で満ちみち、そこから官能の波が全身に広がる。苦痛をこらえる声にあえかな嬌声が混じると、男はころあいとばかりに柳腰を持ちあげ、情熱的に攻め始めた。

浩海ハオハイ、さ……ん、から……だが、へん、なの……っ」
「大丈夫、僕がついているから。気持ちいいのこらえないで」

 優しい言葉のわりに動きは大胆だった。ずりっずりっと柳腰を掴んでかき回し、だというのに的確に彼女の感じる処を突いてくる。甘い官能に流される度に分泌される愛液の量が増して、動きが滑らかになる。男の積年の情欲は余すことなく、溪蓀シースンの蜜壺にぶつけられた。彼女は自分が次第に官能の坂道をのぼりつつあることに、唐突に気がつく。

浩海ハオハイさん……っ」
「僕も気持ちいいよ。想像していた以上に、僕たち相性が、いいみたいだね」
「ひぃ……、はあ……、ハオ、ハイさ……」
溪蓀シースン。きみは、こんなときでも、天女のように、美しいね」
「ハオ……ハ……イ、さ……」

 自分は、天女などではない。浩海ハオハイのことがいつまでも諦めきれなかった、ただの女だ。彼以外には満たされることはなく、また彼以外を満たすことも出来ない。
 愛しい男の名前を何度も呼ぶ。この五年、人知れず何度も呼んでも返事が無くて、その度に自分を慰めていた。今はただ、彼の名を呼べるのが嬉しい。
 目を開くと、汗にまみれた整った男の顔が映り込んできた。僅かな灯りしかないのに眩しくて、愛おしくて。溪蓀シースンは自らも情欲の熱にさらされながら、微笑を浮かべる。
 途端、膣内に抱きこんだ浩海ハオハイが、ドクッと脈打った。

「く……っ」
「ふ……、あぁ、はっ、あああ……っ」

 膣奥に愛しい男の精を受けて、生まれて初めて官能の極みに到達した。身体は浮くように軽くなり、頭の中は真っ白になり、我を忘れるほどの気持ちよさに溺れた。天に昇る心地とは、このことをいうのだろう。

「はぁ、はぁ、浩海ハオハイさん」
溪蓀シースン

 互いに名前を呼び合って、恋人のように両手をつなぎ合わせた。その後、力の抜けた彼が、ゆっくりと覆いかぶさってくる。
 しっとりとした汗の感触。荒い息のなか、気持ち良くて、いつまでもこうしていたいと思った。

 彼女はやっとわかった。五年前のあの時以来、自分の身体と心が何を求めていたか。
 しばらくすると、身体の熱が冷めてきた。彼ともっとくっ付きたくて、日に焼けた逞しい首にすがりつく。浩海ハオハイの吐息が髪に掛かり、それで彼が少しだけ笑ったのだと気がついた。抱きしめられ、皮膚と皮膚を余すことなくひっつけられる。
 彼に捧げた処はじんじんとした痛みをひきずっているのに、心は一面喜色に染まっていた。
 幸福なまま、彼女は意識を手放したのだ。
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