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第二章
32. 四年越しの夢(1)※
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本物の溪蓀にさわったのは、ずっと前のことだ。しかも、許されたのはたった一度の口づけ。
穢れを知らぬ唇、白く滑らかな頬。折れそうなほど細い腰と柔らかな双丘の感触。浩海の熱情におびえたのか、瞳が潤み、睫毛はかすかに震えていた。
当時遊び人だった彼にとって、口付けは挨拶のようなもの。しかし、溪蓀の心も体も喰らいつくしたい衝動を抑え込むのは、至難の業だった。彼はたしかに『触れてはならぬ花』に触れたのだ。
あのまま、激しい欲望を彼女にぶつけていたらどうなったか。諦めておとなしく浩海のものになっただろうか。いいや、そうはいくまい。溪蓀は意地でも後宮へと赴く。傷物にされたことをひた隠しにし、死ぬほどの罪悪感を抱えながら。一度決めたことは、必ずやり通す。彼女は真っすぐで頑なで、それゆえに自らを袋小路に落ち込む傾向がある。
それが当時の彼にはわからなかった。親の金で借金を肩代わりしようとしたから拒絶されたと思っていたのだ。現実はそうではなかったが、あのときの浩海が情けないほど無力であったことに変わりない。
この四年、口づけ一つをよすがにするには物足りなくて、妄想のなかで溪蓀を何度も抱いた。しかし、彼女が夢のなかまで現れたのは初めてだった。
『溪蓀、怖がらないで』
ピッと張った肩口は生来の気高さを伺わせながらも、続くうなじは初々しい色気を漂わせていた。耳から首筋にかかる線が弱くて、彼が背後から息を吹きかけるだけでピクリと肩を揺らす。彼女は、細い手で浩海の動きをたしなめた。
『あっ、まって……、――さん。今日は、そうじゃなくて』
『だめだよ。夢がさめる前に、君を確かめさせて』
『ふっ……、はぁ……、言いたいことが……っ』
鼻に抜ける声は甘く、弱弱しい抵抗もますますこちらを煽らせるだけ。薄紅に染まったうなじから耳朶にかけて夢中で舌を這わせれば、ニオイアヤメの薫りがこころなしか強くなった。小さな尻が男の太腿に当たる。その感触だけで、欲望は更に首をもたげた。
『…んっ……、ふっ……』
『溪蓀、感じてるの? 可愛い』
手の甲で声を押し殺している姿が、このうえなく魅力的だった。長裙の合わせから手を滑り込ませると、すぐに柔らかな乳房が指に吸い付いてくる。浩海の五指のなかに収まる丁度いい大きさだ。甘い朱唇を味わいながら両手でこねると、ナンテンのような赤い実が立ち上がってきた。彼は唇を弧にして、腰帯と肌着を解く。溪蓀は、胸元を隠そうと体を丸めた。
『きゃっ……!、やだっ、――さんっ』
『僕のことが好きなら、隠さないで』
耳もとで囁くと、彼女は顔を伏せためらいがちに腕を下ろす。それはもうゆっくりと。
――かわいそうに。
彼女は、浩海への想いと羞恥心の間で板挟みになっているのだ。彼はゴクリと咽喉を鳴らした。 溪蓀を傷つけたくないが、困らせて追い詰めてやりたい気持ちはある。自分を夢中にさせたまま、あとは知らぬと金赤の厚い壁のなかに身を隠してしまった、薄情な彼女に。
乳房は餅の様に柔らかく弾力があり、いつまでも堪能したい揉み心地だ。時折、思い出したように乳輪を爪で弾くと、可憐な声が漏れる。
『んっ……ふぅん。……あっ』
気を良くした彼が頂を摘まむと腰が跳ね、太腿をもどかしそうに擦り合わせていた。日頃の気の強さはどこへやら今にも泣きだしそうな顔には赤みが差し、確かに色欲の兆しが浮かんでいる。呼吸は甘く、熱いものへと変わり、皇帝の四年来の妃というのに彼女がその感覚に慣れていないことは一目瞭然だった。
――いいね。思惑通りだ。
『はぁ……っ、あ……っ、――さん、もう触らないで……っ』
『ごめん。あんまり気持ち良くて、夢中になっちゃった。 溪蓀は胸だけじゃ足らないのにね』
『そうじゃ、ないのに……っ』
柔らかいが張りのある胸の感触は最高で、正直もっと味わっていたかった。硬くなった紅い乳首を口にふくんで思う存分愛撫したい。彼女はきっと、甘い喘ぎ声を聞かせてくれるだろうに。だが、今は無性に背後から可愛がりたいのだ。
代わりに、溪蓀の腰のくびれを楽しむように撫でまわす。その度に下腹に響くのか、形の良い足指を丸めるのが愛おしかった。浩海は下帯の中にそろりと手を入れ、あるかなしかの柔毛の感触を辿る。ほのかな雌の薫りがただよい、ぬるっとした愛液が指に絡みついた。
『やっ、……だめっ、……そこ、さわっちゃ……』
『どうして? 夫に操を立てているから、僕にさわらせるのは嫌?』
穢れを知らぬ唇、白く滑らかな頬。折れそうなほど細い腰と柔らかな双丘の感触。浩海の熱情におびえたのか、瞳が潤み、睫毛はかすかに震えていた。
当時遊び人だった彼にとって、口付けは挨拶のようなもの。しかし、溪蓀の心も体も喰らいつくしたい衝動を抑え込むのは、至難の業だった。彼はたしかに『触れてはならぬ花』に触れたのだ。
あのまま、激しい欲望を彼女にぶつけていたらどうなったか。諦めておとなしく浩海のものになっただろうか。いいや、そうはいくまい。溪蓀は意地でも後宮へと赴く。傷物にされたことをひた隠しにし、死ぬほどの罪悪感を抱えながら。一度決めたことは、必ずやり通す。彼女は真っすぐで頑なで、それゆえに自らを袋小路に落ち込む傾向がある。
それが当時の彼にはわからなかった。親の金で借金を肩代わりしようとしたから拒絶されたと思っていたのだ。現実はそうではなかったが、あのときの浩海が情けないほど無力であったことに変わりない。
この四年、口づけ一つをよすがにするには物足りなくて、妄想のなかで溪蓀を何度も抱いた。しかし、彼女が夢のなかまで現れたのは初めてだった。
『溪蓀、怖がらないで』
ピッと張った肩口は生来の気高さを伺わせながらも、続くうなじは初々しい色気を漂わせていた。耳から首筋にかかる線が弱くて、彼が背後から息を吹きかけるだけでピクリと肩を揺らす。彼女は、細い手で浩海の動きをたしなめた。
『あっ、まって……、――さん。今日は、そうじゃなくて』
『だめだよ。夢がさめる前に、君を確かめさせて』
『ふっ……、はぁ……、言いたいことが……っ』
鼻に抜ける声は甘く、弱弱しい抵抗もますますこちらを煽らせるだけ。薄紅に染まったうなじから耳朶にかけて夢中で舌を這わせれば、ニオイアヤメの薫りがこころなしか強くなった。小さな尻が男の太腿に当たる。その感触だけで、欲望は更に首をもたげた。
『…んっ……、ふっ……』
『溪蓀、感じてるの? 可愛い』
手の甲で声を押し殺している姿が、このうえなく魅力的だった。長裙の合わせから手を滑り込ませると、すぐに柔らかな乳房が指に吸い付いてくる。浩海の五指のなかに収まる丁度いい大きさだ。甘い朱唇を味わいながら両手でこねると、ナンテンのような赤い実が立ち上がってきた。彼は唇を弧にして、腰帯と肌着を解く。溪蓀は、胸元を隠そうと体を丸めた。
『きゃっ……!、やだっ、――さんっ』
『僕のことが好きなら、隠さないで』
耳もとで囁くと、彼女は顔を伏せためらいがちに腕を下ろす。それはもうゆっくりと。
――かわいそうに。
彼女は、浩海への想いと羞恥心の間で板挟みになっているのだ。彼はゴクリと咽喉を鳴らした。 溪蓀を傷つけたくないが、困らせて追い詰めてやりたい気持ちはある。自分を夢中にさせたまま、あとは知らぬと金赤の厚い壁のなかに身を隠してしまった、薄情な彼女に。
乳房は餅の様に柔らかく弾力があり、いつまでも堪能したい揉み心地だ。時折、思い出したように乳輪を爪で弾くと、可憐な声が漏れる。
『んっ……ふぅん。……あっ』
気を良くした彼が頂を摘まむと腰が跳ね、太腿をもどかしそうに擦り合わせていた。日頃の気の強さはどこへやら今にも泣きだしそうな顔には赤みが差し、確かに色欲の兆しが浮かんでいる。呼吸は甘く、熱いものへと変わり、皇帝の四年来の妃というのに彼女がその感覚に慣れていないことは一目瞭然だった。
――いいね。思惑通りだ。
『はぁ……っ、あ……っ、――さん、もう触らないで……っ』
『ごめん。あんまり気持ち良くて、夢中になっちゃった。 溪蓀は胸だけじゃ足らないのにね』
『そうじゃ、ないのに……っ』
柔らかいが張りのある胸の感触は最高で、正直もっと味わっていたかった。硬くなった紅い乳首を口にふくんで思う存分愛撫したい。彼女はきっと、甘い喘ぎ声を聞かせてくれるだろうに。だが、今は無性に背後から可愛がりたいのだ。
代わりに、溪蓀の腰のくびれを楽しむように撫でまわす。その度に下腹に響くのか、形の良い足指を丸めるのが愛おしかった。浩海は下帯の中にそろりと手を入れ、あるかなしかの柔毛の感触を辿る。ほのかな雌の薫りがただよい、ぬるっとした愛液が指に絡みついた。
『やっ、……だめっ、……そこ、さわっちゃ……』
『どうして? 夫に操を立てているから、僕にさわらせるのは嫌?』
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