王が愛した暗殺者

柿崎まつる

文字の大きさ
上 下
2 / 4

2.傷だらけの身体※

しおりを挟む
戦意を喪失した兵士達を見てダルクとナオトは表面上は落ち着いていたが、内心は彼等が襲ってこないのかと不安を抱く。どうにかハッタリで誤魔化す事は出来たが、流石に1万の兵士を相手にするのはダルク達でも不可能である。こちらにユニコーンが居たとしてもそれを操るダルクは只の人間のため、彼女が狙われたらひとたまりもない。


(な、ナオ様……この後はどうするのですか?)
(えっと……ちょっと待って、カンペ見ますから)


ダルクが若干涙目でナオトに次の行動を尋ねると、掌に事前に書き込んでいた文字を確認し、ナオトは兵士達に指示を与えた。


「お前達の探している将軍と隊長達は我々が捕縛している!!もしも街の住民や他の村の人間に危害を加えれば彼等を殺す!!」
「な、何だと!?」
「これがその証拠の将軍の兜だ!!確かめろ!!」


空間魔法を発動させてナオトは兜を放り投げると、慌てて兵士達はギルス将軍の装備している兜だと気づき、顔色を青くさせる。まさか本当に将軍が捕まっているとは思わず、よりにもよって自分達を指揮する立場の人物を人質に取られた事を理解した。

彼等は将軍の指示を受けてここまで行動してきたが、その指示を与える将軍が居なくなれば自分達はどのように行動すればよいのか分からない。普通ならば将軍の次に偉い役職の人間が役目を引き継ぐのだが、一般兵以外の上の立場の人間は全員が先にダルクとナオトが捕獲している。


「さあ、お前達は自分の国へ帰れ!!このまま退散するというのならば我々も危害は加えない!!将軍達も国へ送り返そう!!」
「そ、それは無理だ!!このままみすみすと引き返せば俺達は処罰されるんだ!!」
「そうだ!!将軍が捕まって逃げ帰ったなんて報告すれば俺達は殺されちまう!!」


流石に将軍を人質に取られてもこのまま引き返す事は巨人軍も出来ず、何の成果も上げないうちに国へ引き返せば厳罰は免れない。そんな彼等の返答は予想済みなのでナオトはリーリスから教えて貰った対処法を行う。


「ならばお前達の協力者であるノーズ公爵の元へ戻るがいい!!そしてこう伝えろ、帝国は全てお前達の行動をお見通しだとな!!」
「な、何だって!?」
「どうしてノーズ公爵の事まで……」
「ノーズ公爵が帝国を裏切り、貴方達を引き寄せたのは既に調査済みです。後日、この地に100万の帝国兵が押し寄せるでしょう!!」
「ひゃ、百万だって!?」


ダルクの言葉に巨人軍は震えあがり、いくら自分達が最強の軍隊だと自覚していても流石に100万人という言葉を聞けば焦りを隠せない。実際には今の帝国にそれほど数の兵士を動かす余裕はないが、既にノーズ公爵の存在が知られている事を知った巨人軍はダルクとナオトの言葉が真実だと信じた。


「ど、どうすればいいんだよ……100万なんて数、俺達だけでどうしようも出来ねえぞ?」
「う、うろたえるな!!そんな数の兵士が現れるはずがないだろ!?」
「でも、こいつらはノーズ公爵が俺達に手を貸している事を知ってるぞ?それにこんな得体の知れない魔法使いやユニコーンを操る女騎士がいるなんて聞いてねえぞ……」
「そこ!!聞こえてますよ!!口を慎みなさい!!」
「ひいっ!?すいません!!」


こそこそと内緒話を行う兵士達にダルクが注意すると、ナオトは彼等が素直に従ってくれない事に焦り、反対の掌に書いていたリーリスの考えた対処法を実行する。


「ノーズ公爵の元に戻るというのであれば我々は街へ引き返そう。だが、もしも約束を破って街に攻め入ろうとしたら将軍を含めた捕虜を全員処刑する!!そうなればお前達は国へ戻っても厳罰は免れないぞ!!」
「そ、それだけは……!!」
「頼む、止めてくれ!!あの人に俺達は一生ついて行く事を誓ったんだ!?」


将軍が処刑されるかもしれないという不安に駆られた忠誠心の厚い兵士達は跪く。この軍隊の中には長年の間、ギルスの元で働いていた兵士も多く、ギルスの人望を利用してナオトは指示に従う様に命じた。


「ならばさっさと公爵の元へ戻れ!!そして公爵に伝えろ、大人しく降伏するのならば今回限りはお前の首だけで許してやる。但し、これ以上に反抗する気ならば一族郎党全員を処刑するとな!!」
「ナオト様、流石にそれは酷いのでは……」
「いや、書いてあるのを呼んでいるだけですから……ごほんっ!!さ、さあ、早く行動しろ!!」
『…………』


ナオトの発言にダルクの方が不安を抱いてしまうが、あくまでもナオトの言葉はリーリスが考えた作戦であるため、彼の本意ではない。ナオトに命令された兵士達は黙り込み、やがて一人の兵士が前に出る。


「分かった……お前の指示に従う。そうすれば将軍達は解放してくれるのか?」
「約束しよう。但し、お前達の行動は我々が常に監視している事を忘れるな。もしも街や村に近付こうとすれば捕まえた捕虜を処刑するぞ!!その事を忘れるな!!」


兵士の承諾を得たナオは即座に空間魔法を発動させ、黒渦の中に魔獣達を移動させる。最後にユニコーンに乗ったままダルクと共にナオトも姿を消すと、残された兵士達は自分達の目の前で消えてしまった彼等を見て呆然とした表情を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

処理中です...