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第一部

3.魔女、王子さまの世話を申しつかる②

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「その細腕に手伝ってもらうようなことはないわよ。お貴族様に怪我でもさせたら、わたしがお縄にされちゃう。明日の朝、家まで送ってあげるから、子どもはもう寝なさいよ」
「もう子どもではない。成人の儀はとっくに済んでいる。イルヴァに、その『晩餐』を提供する権利があるはずだ」

 むきになるその姿こそ子どもだとイルヴァは思ったが、それを口にしないだけの分別はあった。
 彼女は見返りを求めて少年を拾ったわけではない。ただの気まぐれなのだ。

「歳はいくつなの?」
「じゅ……十八歳」

 イルヴァは嘆息する。よく見積もっても、十五歳ぐらいだろう。しかし、ここまでの美少年には巡り合ったことがなく、興味がないといえば嘘になる。念のため、聞いてみた。 

「婚約者はいる?」
「いない」
「経験済みなの?」
「……ではない」
「だったら、どうして、わたしをご指名するの? 間違いなく、今まであなたが見てきた中で一番年寄りの女よ」

 魔女の寿命は長く、まだ弟子を取る資格のないイルヴァでさえ百五十歳を過ぎている。見た目は二十歳と自負しているが、ウルリッヒの十倍生きていることに変わりはないのだ。行為のさなかに我に返られて嫌悪されては、彼女のプライドが傷ついてしまう。それは大事なことだ。
 だが、ロウソクの灯りを映す碧い瞳に、いっさいの迷いはなかった。

「ぼくと同衾したがる女の人は多い。父からはそれも社会勉強だからありがたく全員から教えてもらえと言われ、亡くなった母からはそういうことは好きな相手としかしていけないと言われた。ぼくは母の意見のほうが正しいと思う。イルヴァ、あなたは僕が今まで見てきた女性の中で、一番キレイだ」

 据え膳食わぬは武士の恥、東洋のことわざにもある。成人は十五歳からだから、少年が見た目通りの年齢であっても犯罪ではない。ここまで、ひたむきな言葉を向けられて断る理由はなかった。

「ありがとう、ウルリッヒくん。初めての相手に選んでくれて、うれしいわ」

 イルヴァは少年を抱きしめた。細いが貴族の子弟らしく体幹はしっかりしている。伸び盛りの若木のようなかぐわしい香りがした。前途有望な若者の思い出になることは、彼女にしても栄誉なことだ。

「キスしたことある?」
「……ない」

 覗きこむと、きれいな瞳が潤いをたたえている。イルヴァは、微笑みを浮かべたまま唇を落とした。柔らかな感触。彼女の好みは筋骨たくましい大人の男性だが、これはこれで新雪に足を踏み入れるようで、わくわくした。

「あ……っ」

 開きかけた口に舌を差し入れ、歯裏を舐める。おびえる舌を自分のそれで導いて絡めとった。何も知らない少年に禁忌を教える背徳感。恥じらいから無意識に逃れようとする少年の後頭部を支え、その滑らかな髪の感触にすらうっとりした。

「イルヴァ……」

 彼女は小さな口腔の至るところに、舌を駆使して侵入する。歯茎を舐め、舌を絡ませ、唇を吸った。相手の羞恥心をあおるように、わざと音を立てる。
 最後にたっぷりと唇を吸い込んだ。いたいけな少年の目元は赤く染まり、瞳はうるんだ熱を映している。唇はルビーのような艶をたたえ、わずかな隙間から白い歯がのぞいていた。

――可愛い。

「イルヴァ。胸が、……熱い」
「大丈夫よ、誰だってそうなるようにできているの。ほかに熱いところはない?」

 心配を装って聞くと、少年は恥じらいからか目をそむける。ガウンの下に覗くうなじから鎖骨までの美しさときたらたとえようがない。彼女は朱唇を湾曲させる。細い腰に乗り上げたイルヴァの股間を次第に硬いものが押し上げてきた。
 
「ここね。すごく硬くなってるわ」

 彼女は、ネグリジェ越しに自らの秘部をこすり付ける。肉欲に焦がれる少年の視線は、魔女を熱くさせた。
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