UNNATULOVE

ナトリウム

文字の大きさ
上 下
1 / 1

欠陥品

しおりを挟む
UNNATULOVE

『私は誰かの自尊心をみたすために生きてるんじゃない。ああ、ここじゃないどこかに行ってしまいたい。』
匿名のメッセージアプリに呟やかれたある女子校正生の言葉に返信をする人は1人もいなかった。

木曜日。朝6時40分。ベットの上でメッセージに返信があることを示すアプリのアイコンにつく赤い円のマークがないことを確認した。昨晩私はどうしてこんな投稿をしたのろうか。そう思いながらそのメッセージを削除した。と同時にスマホが振動しアラーム音が鳴り響く。さっき目覚ましをスヌーズしてから5分が経過したのだろう。6時45分。7時6分には家を出なければ、7時16分発の汽車に間に合わない。次の汽車が来るのは8時2分。汽車に乗る時間は30分。そこから更に自転車で20分。つまり、7時16分の汽車を逃せば学校に遅刻する。しかし、焦ることはない。経験上、6時50分にベットから起きれば間に合うと知っている。6時49分、ベットから起き着替える。6時55分、コンタクトを入れる。7時、くしのついたドライヤーで寝癖を直す。7時3分、トイレに行く。7時6分、家を出て祖父が運転する車にのり母が買ってきたパンを半分食べる。7時13分、駅に到着、駅員に定期を見せ階段でホームの反対側2番乗り場に渡り、植木の前でイヤホンをほどきながら汽車を待つ。7時16分、汽車が到着し乗り込む。汽車の中で音楽を聴きながらその日に勉強する範囲を予習する。平日の朝は毎日この繰り返しだ。向こうの駅に着いてから学校に着くまでもすることは毎日同じ。高架の駐輪場で自転車を取る。その際にすれ違うボランティア部の先輩に挨拶する。自転車に乗って学校に向かう。自転車に乗りながら考えることもいつもだいたいは同じ。もしも学校が無くなっていたら、、、もしも他の学校に転校できたら、、、もしもあの時受験に失敗し地元の中学校に残っていたら、、、もしもあの時クラス分けテストで失敗して普通クラスになっていたら、、、そして信号待ちで鳩の群れを眺める。普通の人だったら「自由でいいな」とか思うんだろうか。私はそうは思えない。私には彼らが自由には見えない。「かわいそうだな」と思う。せっかく羽根があって自由に飛べるのに群れでかたまって動かなければならないのだから。いや鳥はそんなこと思わないのだろうか。それが当たり前なのだろうか。国語の授業で勉強した説明文にこんな一節があった。『人間は言葉を使い、自分と世界を区別することができる。そのため世界に自足することはできない。一方鳥は言葉を使わないので自分と空を区別することはできない。そうゆう意味で鳥は空に閉じ込められているといえる』鳥は生まれた環境をそのまま受けいけ入れることしかできない。一方で人間は世界を変えることができる。その為に今勉強するのだ。そうゆうことが言いたいのだろう。だとしたら私は鳥を羨ましいと思う。中学校に入学してすぐの頃は私も自分の人生を投げ打ってでも世界を変えたいとか大それたことを思っていた。だが、周りの優秀な人達を見て私にそんな力なんてないんだとうことに気づいてしまった。世界に違和感を感じながらもそれを変えれないぐらいなら何も気づかずに与えられた世界でただ生きていきたかった、、、「おはようございます」自分の声だ。いつの間にか校門に立つ教頭先生に無意識のまま挨拶している。学校に着いてしまった。自転車を置き4階まで階段をのぼった所にあるのが5年A組、自称進学校の理系優秀クラス。私はその底辺。勉強でも運動でも得意だと思っていた絵でも、なにをとっても私がこの人達にかなうことはない。しかし、クラスの人がそんな私に暴言を吐いたり暴力をふるったり、あからさまにいじめることはない。それどころか自分からあまり話さない私に話かけてくれる人もいる。そうゆう時私はとにかく笑顔を絶やさないようにしている。相手が何を言っているのか分からない時でもとにかく笑顔で「なるほど」とか「そうやな~」などの返事をする。他にも言いたいことがある時もあるがそれを言うことで相手がどう思うか心配で結局なにを言ったらいいのか分からなくなる。しかし、黙っているのもそれこそ相手に何を思われるか分からないので差し障りのなさそうなことだけを言うのだ。そんな私にも普通に会話できる相手が学校内に3人いる。1人はD組の文系優秀クラスの人(以下文学少女さん)でお昼休みにはその人と取り留めもない話をしながら弁当を食べる。1人は小学校が同じだった人(以下メガネちゃん)で同じクラスだが私以外にクラスに仲がいて友達(以下ツインテールさん)がいていつもその人と行動している。私は願わくばそのツインテールさんとも仲良くなって3人で移動教室をしたり休み時間を過ごしたりしたいと思っていたが、どうやら私はツインテールさんに嫌われていて私が2人の輪に加わるのを嫌っているらしい。その理由は大体分かっている。多分中学生の時の「あれ」が原因だろう。だからそれは私の自業自得なのだ。そうゆう訳で私はクラスではいつも1人だ。そしてもう1人はB組の人。彼女は学校でいわゆる浮いた存在だ。友達はいない。髪はボサボサで制服はいつも汚れている。私以上のコミュニケーション障害で会話もままならない。しかし、なぜか私には少し心を開いてくれていて私とはコミュニケーションをとれる。中学校の時は私からよく話けていたが今は挨拶をすることもない。私側から彼女から離れたのだ。彼女に近づいたのも離れたのも全ては私の都合だった。これはさっきのツインテールさんに嫌われている理由の「あれ」とも繋がる話だが、受験に合格し進学校の中高一貫校に入学した時の私は周りの優秀な人達を見て完全に自尊心を失っていた。いや、元から自信を持てるような人間ではなかったのかもしれない。小さな田舎の小学校では成績が優秀だったという誰かと比較して手に入れた自信など自分より頭のいい人のいる場では脆く、なんの意味も持たなかった。他になんの取り柄もない私がなんとか自尊心を保って生きていくためには周りのあら探しをするしかなかった。そんな私と友達になろうとする人なんて当然いなかった。友達がいないということは更に私に自信をなくさせた。そんな時に見つけた自分と同じ1人の人、それが彼女だった。私は彼女に話かけたのは周りに私にも友達がいると思われたかったからだ。それで周りの自分に対する評価が上がるのではないかと思った。しかし、それは逆効果だった。周りは彼女といる私をますます気持ち悪がった。最初は彼女に対して差別心を露わにする人達に反発心を抱いていた。その内の1人があのツインテールさんだ。しかし、2年なり今のB組の人、今一緒に弁当を食べている文学少女さんと友達になった時、その人も彼女に嫌悪感を抱いていることに気づいた。当たり前だ。当時文学少女さんと彼女と3人で行動していたが彼女はその人と会話ができたなかった。普通に会話していると彼女は会話に入れないので私がいつも気を遣って彼女に話かけていたが彼女はいつも曖昧な返事をするだけだ。彼女と一緒にいるとやっとできた「普通の友達」に嫌われるかもしない。そう思った私は彼女から離れた。彼女から離れるのは簡単だった。私から話しかけなければ彼女から話しかけてくることはないし、私が待っていなければ一緒に移動教室をすることもなかった。しかし今思えば私も彼女に差別心を露わにする人達と変わらなかった。そもそも彼女に近づいたのも彼女よりはわたしもマシだと思う為だったのかもしれない。その差別心をもって。そんな最低の私がクラスで孤立しているのもそのバチがあたたったのだと思っている。そして当時私が彼女にしたように周りの人が私を使って自尊心を満たす事も仕方ない事だと受け入れている。私に話かけてくる人達が「1人でいる可哀想な子に話しかける自分はいい人だ」と思ってくれても構わない。それなのに昨日の夜はなぜあんなメッセージをつぶやいてしまったのだろうー。

今日もいつも通り16時30分に学校が終わり、いつも通り放課後17時30分まで自習室で勉強して帰るはずだった。しかし勉強している間に寝てしまったようだ。辺りは真っ暗になっていた。20時30分。部活をしている人達ももう帰っている時間だ。スマホには母から何度も電話がかかってきていた。急いで自習室から出て誰もいない廊下を走り学校からでた。駐輪場には私の自転車だけが残されていた。スマホで汽車の時間を確認する。今から急げば20時49分発の汽車に間に合うだろう。母には信号待ちの時に連絡しよう。全速力で自転車を漕ぎ始めぐ。いつもなら多くの学生が通るこの道も今は誰も通っていない。車は多いが私以外の歩行者や自転車に乗った人はいない。自転車を漕ぐスピードがどんどん上がっていく。自転車はガシャンガシャンと音をたてる。呼吸が荒くなり顔から汗滲みでてくる。鼻から鼻水が出てきて目から涙が、、、、、どうして私は泣いているのだろう。こんなに街灯で明るい夜道が泣くほど怖いのだろうかー。信号待ち。ますます涙が止まらなくなった。後ろから誰かが近づく足音がする。泣き止まなければ、その人に泣いていることに気づかれてしまう。どんどん足音が近づいてきて後ろで立ち止まった。声をかけられたらどうしよう。瞬時に声をかけられたときの想像が頭に広がる。声をかけてくる人の顔はわからない。しかし、優しい声で「大丈夫?」と私に聞く。私は「大丈夫です。」と答えるがその人はまだ心配して私に話かけててきてくれる。「ほんとに?良かったら話聞こうか?」そんな想像をしている間に涙は止まっている。何都合がいい妄想をしているんだろう。そんなことは有り得ない。やっぱり後ろの人は何にもー、「ドガン」                        なんだろう?頭が痛い。後ろから殴られた?意識が薄れて、、、

息がとまり、汗が流れだす。鼓動が速くなり耳がよく聞こえない。足と手が震えて動けない。顔が交直して声がでない。私は今までにないぐらいの恐怖心に襲われていた。当たり前だ。目を覚ますと目の前に両手にナイフを持った男が立っていたのだから。ナイフを持つ手は骨と血管がうきでている。薄暗い中で光る白と黒のはっきりした目の下にはくっきりと隈がついている。一歩私に近づく。足は細い。私の目の前でゆっくりしゃがみこむ。黒いパーカー。顔を私に向ける。薄暗い中で光る白と黒のはっきりした目の下にはくっきりと隈がついている。その目に入りそうな真っ黒で長い前髪。喋ろうとする様子はない。乾燥してガサガサの唇。無言で私を眺める。何を考えているんだろう。顔を見せたということは身代金目的の誘拐ではない。私は拘束もされていない。ということは、私はすぐに、今ここで殺されるのだろう。この車庫兼倉庫のような場所の隅っこで。ナイフで刺されたら痛そうだな。あんなに短いナイフでは一回で死ねないかもしれない。せめて左手の白い柄の細いほうのナイフじゃなくて、右手の黒い柄の刃渡りが大きいほうで刺してほしいな。そういえば犯人はどうして2本もナイフを持っているんだろう。一回で死ななかったとしても同じナイフで何度も刺せばいい。わざわざ凶器を増やすと隠すのが大変になるだけだろう。警察から逃げる気が無いのか。まさかー。
「私を殺した後、死ぬ気ですか?」男は静かに頷く。私の予想は的中した。いや、何を聞いているんだ私。私が死んだ後のことなんてどうでもいいだろう。
「私を殺したらスッキリした気持ちで死ねそうですか?」
男に反応はない。そうか、残念だ。私は無駄死にだ。残念?この男がスッキリした気持ちで死ぬ為にだったら私は死んでもよかったのか?

私はある日の朝を思い出していた。私がいつものようにコンタクトを入れていた時、ニュース速報が流れた。『30代男が小学生6人を刺し、内3人が重症。2人が死亡。犯人は自殺。』小学生の集団登校時に起こったまだ幼い子供の命を奪った痛ましい事件。思わずコンタクトを入れる手が止まった。可哀想だと思って胸が痛かった。近くで見ていた母と祖父も動きを止めてニュースを見ていた。そして母が言った。「勝手に1人で死ねばよかったのに。」もっともな意見のはずだ。母は正しかった。それなのに、私の胸にこびり付くようなもやもやした気持ちは何だろうか。その後どうしてもその時の気持ちが忘れられないでいた私はそのニュースが流れるたびに食い入るように見ていた。ある日曜日のワイドショー。そのコメンテーターが放った一言。「人間何十億人もいたらどうしてもこんな欠陥品が生まれてきてしまうんですよね。」その一言で気づいてしまった。私がその欠陥品ということに。私が母の言葉を聞いた時もやもやしたのは犯人に同情したからだ。私は中学生の時死のうとしたことがあった。ナイフを向けたのが他人か自分か。それだけの差だった。私とあの犯人は大して変わらない。犯人の気持ちが分かってしまった私は、犯人と同じ欠陥品だ。

そして今目の前にいるこの男も私と同じ欠陥品。男は静かに私の心臓に黒い柄のナイフを向けた。私は数秒後に死ぬ。そして更にその数分後この男が死ぬ。
「ごめんなさい」
低く弱々しい声。犯人が発した最初で最期の言葉。この世から欠陥品が2つ消えるだけ。いやー。
「違う!私達は欠陥品じゃない!」
気づけば叫んでた。そしてナイフの刃を掴んでいた。2つのナイフの刃を。痛い。手から血が出る。男はそれを見て怯んだのかナイフを離した。
「私達は生まれた時からの欠陥品じゃない!ただ今はちょっと故障してるっていうか、、、いうか、、、だから、、その、、、シャーペン!シャーペンでいうと本体が折れてるんじゃなくて芯が詰まってるだけで、、、」
自分でも何を言ってるのか分からない。頭の中には漠然とした言いたいことがあって、心には何故か何かに対する一種の怒りのようなものがある。しかし、それを言葉にした瞬間にあやふやなものになってしまう。それでも何とか伝えたい。この思いを。目の前のこの男に。
「時計!時計でいうと針が折れてるんじゃなくて、、電池が切れているだけで、、、それから、、えっと、、、」
「直せるっていいたいのか?」
男の冷静な低い声。伝わった?そうだ。私が言いたかったのはそうゆうことだ。中学生の時私はちょっとしたきっかけで変わってしまった。ならば、いい方向に変わるのも簡単なことだろう。頭の中にあった漠然とした言いたいことはそうゆうことだ。私は頷いた。
「私達って言ったな?お前もか、、、お前も俺と同じなのか?」
もう一度頷く。
「そうか」
その時の男の目線の先を見て気づいた。私達の下には私の手のひらからでた血の水たまりできていた。手からは心臓のよなドクドクという音が聞こえ、その音に合わせて血が吹き出る。この男が再びナイフを握り私を刺さなかっとしても、どっちみち私は死ぬだろう。体が熱い。目の前がだんだん暗くなっていく。そういえば必死に叫んでた時、心にあった怒りは誰に対する怒りだったんだろうなー。

次に目が覚めるなんて無いはずだった。しかしー。







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

処理中です...