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アイオール皇国〜ニエの村
第53話 天職とはそういうものだから
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ミコトが俺と同じ転生者かもしれない。
そう思ったら、折角のライヌ……おにぎりの味がしなくなってしまった。
みんなは美味しいと食べてくれていたから上手く作れていたはずなのに。
ちょっともったいないな。
それにしても、この世界に他の転生者がいるとなると俺がここに来たのも偶然じゃないってことなのだろうか。
誰かが何かの意図で俺を呼び寄せた……?
いや、でも前世の俺はそんな呼び寄せるほどの特別な人間ではなかった。
どこにでもいる普通の男だったんだから。
それならばやっぱり偶然なんだろうか……。
「いや、考えてても仕方ないか。それにまずはミコトにちゃんと確認をしないと……」
「ん、妾がどうかしたのか?」
「うおっ!?」
考えを整理したくて、食堂からわざわざキッチンまで移動してきたのに、なぜここにミコトがいるんだ。
もしかしたら向こうも俺が転生者だということに気付いて……!?
「のう……むすびは売り切れか? 向こうの皿はもう空になってしもうたのじゃ……」
……そんな考えは杞憂だったらしい。
どうやら、ただおにぎりを貰いに来ただけだったみたいだった。
「あ、あぁ。ええっと、ちょっと待ってろよ」
俺は釜に残った米粒を集めて集めてひたすら集める。
うん、どうにか少し小さめではあるが一つくらいは作れそうだ。
「なんとかひとつくらいなら作れそうだぞ」
そういうと、ミコトの顔がぱあっと分かりやすく輝いた。
「では……妾が頂いてもいいかの? 頂いちゃってもいいかの? 妾はこれが大の大の大の好物でな」
「ふぅ、わかったわかった。じゃあ握ってやるよ。もう中身はないから塩むすびになるけどそれでいいか?」
「もっちろんじゃ! ふんふふふーん」
ミコトはキッチンの隅に置かれた椅子に座ると、足をバタつかせてご機嫌に鼻歌を歌いはじめた。
どうやらキッチンで出来上がるのを待つつもりらしい。
さっきまで殺し合いをしていた相手におにぎりを握るというのもなんか変な感じがするが……でもあれだけ喜んでくれるならさすがに悪い気はしないな。
「ほい、出来たぞ。お茶も置いておくからな」
「すまぬのじゃ! んむ、んむ……やっぱりむすびは最高じゃの!」
それにしても美味そうに食べる。
見ているとにやけてしまいそうになるほどだ。
おっと、食べているのを見てる場合じゃないな。
折角だからこのタイミングで聞いてみるしかない。
一度深呼吸をして呼吸整えると、俺は口を開いた。
「め、面倒だからズバっと聞くぞ? 違かったなら違うで笑い飛ばしてくれればいい」
「ん、なんじゃ? んむ、んむ」
「別にそうだったからといって取って食うわけでもないし……」
「だからなんなのじゃ? 焦れる奴じゃのう。ごっくん」
「じ、じゃあ聞くぞ? ミコト……お、お前は……転生者なのか?」
「おお、そうなのじゃ!」
「だよなぁ、そんなワケな……ってマジか!?」
緊張しながら聞いたのがバカらしくなるくらい、ミコトはあっさりと肯定した。
はじめから隠すつもりもなかったのだろう。
「実はな……俺もなんだ」
「おお、なんとそうであったか! では同士じゃったのだな。んむ、んむ」
「……お、驚かないのか?」
そう尋ねると、ミコトは不思議そうに首を傾げる。
「変なことを言うヤツじゃのう……妾は感嘆符付きで驚いておるではないか。まぁ他にも転生者はおるし、そこまでではないがの。んむ、んむ」
「何っ? 俺とお前の他にもまだ転生者がいるってのかよ!?」
「うむ、妾は数人としか会った事がないが他にもおるぞ。ごっくん」
ひたすら食べながら返事をしてくるので若干気が散るが、とにかくこの世界には複数の転生者がいるらしい。
つまりそれって、どういう——。
「して、お前さんの天職は何なのだ?」
「ん、天職? えっと<御者>だが……」
「御者というと馬車を引くあれかの?」
「ああ、それだ」
そう答えると、ミコトは薄く笑った。
それは馬鹿にしている笑いではなく、がっくりと肩を落として、情けなさを滲み出させるような笑い方だった。
「そうか、妾は御者に負けたのか。しかし<御者>とはお主もとんだオリジナルワンを貰ったものだの」
「<御者>って天職がオリジナルワンだってことを知っていたのか?」
「いや、そうではないぞ。転生した者は須くオリジナルワンを持っておるでな。逆にいえばオリジナルワン持ちが転生者ともいえるがの」
オリジナルワン持ちは転生者?
っていうことはつまり……。
「じゃあ、<生贄>のオリジナルワンを持っているリリアも転生者なのか!?」
「いや、違うぞ? あれは後天的に押しつけられる迷惑なだけの天職じゃ。そもそも<生贄>なんていうのは妾の村にゴロゴロおるでの」
「そうか。今、この国にリリアしか<生贄>がいないのはお前がさらっていただけなんだもんな」
「ま、そういうことじゃ」
俺にとっては驚きの連続だったというのに、ミコトにとっては茶飲み話に過ぎないのか、目の前でのんびりと食後のお茶をすすっている。
「ならミコト、お前の天職は何なんだ?」
「む、分からぬのか?」
「うーん……あ、分かったぞ! <嘘泣き師>だろ?」
「たわけ、そんなものないわ! あれはただの特技じゃ」
嘘泣きって認めちゃうのか。
それに特技ってほど上手くはなかったぞ……本気で信じていたのはフィズくらいだったし。
「まぁ分からないなら教えてやろう。妾の天職はの、<竜神>じゃ」
「り、竜神……? そりゃまた御大層な天職だな」
「うむ。オリジナルワンというのは本質的にそういうものじゃからな。むしろ<御者>なんていうほうが珍しいわ!」
「そ、そうだったのか……」
それからしばらく話を続けると、同じ転生者でも、ミコトと俺の暮らしていた時代は大分違うということが分かった。
どうやらミコトは江戸時代か、それよりももっと前に産まれたらしい。
こちらの世界に来てもう数百年というから驚く他ない。
「だからそんな古めかしい喋り方なのか」
「いや、違うぞ。妾は<竜神>としての威厳を保とうして、あえてこうしておるのじゃ!」
「威厳……ねぇ」
俺はゆっくりと手を伸ばして、ミコトの口元についた米粒を取って食べた。
顔を赤くして抗議をするその姿には、とても威厳があるようには見えなかった。
「ちなみに他にはどんな転生者がいるんだ?」
「うむ、妾も普段は村で暮らしているからの、そこまで詳しくはないのだ。もっと聞きたいのならマー君を尋ねたらどうかの?」
「マー君?」
「うむ。<魔王>のマー君じゃ。最近は妾も久しく会ってないがのう」
ミコトの口から驚愕の名前が出てきた。
この話の流れでいえば、つまり……。
「もしかして、<魔王>っていうのも天職だってのか!?」
「なんじゃ、知らなかったのか。だから言っておろう? 天職とは——」
そういうものなのじゃ、と。
そう思ったら、折角のライヌ……おにぎりの味がしなくなってしまった。
みんなは美味しいと食べてくれていたから上手く作れていたはずなのに。
ちょっともったいないな。
それにしても、この世界に他の転生者がいるとなると俺がここに来たのも偶然じゃないってことなのだろうか。
誰かが何かの意図で俺を呼び寄せた……?
いや、でも前世の俺はそんな呼び寄せるほどの特別な人間ではなかった。
どこにでもいる普通の男だったんだから。
それならばやっぱり偶然なんだろうか……。
「いや、考えてても仕方ないか。それにまずはミコトにちゃんと確認をしないと……」
「ん、妾がどうかしたのか?」
「うおっ!?」
考えを整理したくて、食堂からわざわざキッチンまで移動してきたのに、なぜここにミコトがいるんだ。
もしかしたら向こうも俺が転生者だということに気付いて……!?
「のう……むすびは売り切れか? 向こうの皿はもう空になってしもうたのじゃ……」
……そんな考えは杞憂だったらしい。
どうやら、ただおにぎりを貰いに来ただけだったみたいだった。
「あ、あぁ。ええっと、ちょっと待ってろよ」
俺は釜に残った米粒を集めて集めてひたすら集める。
うん、どうにか少し小さめではあるが一つくらいは作れそうだ。
「なんとかひとつくらいなら作れそうだぞ」
そういうと、ミコトの顔がぱあっと分かりやすく輝いた。
「では……妾が頂いてもいいかの? 頂いちゃってもいいかの? 妾はこれが大の大の大の好物でな」
「ふぅ、わかったわかった。じゃあ握ってやるよ。もう中身はないから塩むすびになるけどそれでいいか?」
「もっちろんじゃ! ふんふふふーん」
ミコトはキッチンの隅に置かれた椅子に座ると、足をバタつかせてご機嫌に鼻歌を歌いはじめた。
どうやらキッチンで出来上がるのを待つつもりらしい。
さっきまで殺し合いをしていた相手におにぎりを握るというのもなんか変な感じがするが……でもあれだけ喜んでくれるならさすがに悪い気はしないな。
「ほい、出来たぞ。お茶も置いておくからな」
「すまぬのじゃ! んむ、んむ……やっぱりむすびは最高じゃの!」
それにしても美味そうに食べる。
見ているとにやけてしまいそうになるほどだ。
おっと、食べているのを見てる場合じゃないな。
折角だからこのタイミングで聞いてみるしかない。
一度深呼吸をして呼吸整えると、俺は口を開いた。
「め、面倒だからズバっと聞くぞ? 違かったなら違うで笑い飛ばしてくれればいい」
「ん、なんじゃ? んむ、んむ」
「別にそうだったからといって取って食うわけでもないし……」
「だからなんなのじゃ? 焦れる奴じゃのう。ごっくん」
「じ、じゃあ聞くぞ? ミコト……お、お前は……転生者なのか?」
「おお、そうなのじゃ!」
「だよなぁ、そんなワケな……ってマジか!?」
緊張しながら聞いたのがバカらしくなるくらい、ミコトはあっさりと肯定した。
はじめから隠すつもりもなかったのだろう。
「実はな……俺もなんだ」
「おお、なんとそうであったか! では同士じゃったのだな。んむ、んむ」
「……お、驚かないのか?」
そう尋ねると、ミコトは不思議そうに首を傾げる。
「変なことを言うヤツじゃのう……妾は感嘆符付きで驚いておるではないか。まぁ他にも転生者はおるし、そこまでではないがの。んむ、んむ」
「何っ? 俺とお前の他にもまだ転生者がいるってのかよ!?」
「うむ、妾は数人としか会った事がないが他にもおるぞ。ごっくん」
ひたすら食べながら返事をしてくるので若干気が散るが、とにかくこの世界には複数の転生者がいるらしい。
つまりそれって、どういう——。
「して、お前さんの天職は何なのだ?」
「ん、天職? えっと<御者>だが……」
「御者というと馬車を引くあれかの?」
「ああ、それだ」
そう答えると、ミコトは薄く笑った。
それは馬鹿にしている笑いではなく、がっくりと肩を落として、情けなさを滲み出させるような笑い方だった。
「そうか、妾は御者に負けたのか。しかし<御者>とはお主もとんだオリジナルワンを貰ったものだの」
「<御者>って天職がオリジナルワンだってことを知っていたのか?」
「いや、そうではないぞ。転生した者は須くオリジナルワンを持っておるでな。逆にいえばオリジナルワン持ちが転生者ともいえるがの」
オリジナルワン持ちは転生者?
っていうことはつまり……。
「じゃあ、<生贄>のオリジナルワンを持っているリリアも転生者なのか!?」
「いや、違うぞ? あれは後天的に押しつけられる迷惑なだけの天職じゃ。そもそも<生贄>なんていうのは妾の村にゴロゴロおるでの」
「そうか。今、この国にリリアしか<生贄>がいないのはお前がさらっていただけなんだもんな」
「ま、そういうことじゃ」
俺にとっては驚きの連続だったというのに、ミコトにとっては茶飲み話に過ぎないのか、目の前でのんびりと食後のお茶をすすっている。
「ならミコト、お前の天職は何なんだ?」
「む、分からぬのか?」
「うーん……あ、分かったぞ! <嘘泣き師>だろ?」
「たわけ、そんなものないわ! あれはただの特技じゃ」
嘘泣きって認めちゃうのか。
それに特技ってほど上手くはなかったぞ……本気で信じていたのはフィズくらいだったし。
「まぁ分からないなら教えてやろう。妾の天職はの、<竜神>じゃ」
「り、竜神……? そりゃまた御大層な天職だな」
「うむ。オリジナルワンというのは本質的にそういうものじゃからな。むしろ<御者>なんていうほうが珍しいわ!」
「そ、そうだったのか……」
それからしばらく話を続けると、同じ転生者でも、ミコトと俺の暮らしていた時代は大分違うということが分かった。
どうやらミコトは江戸時代か、それよりももっと前に産まれたらしい。
こちらの世界に来てもう数百年というから驚く他ない。
「だからそんな古めかしい喋り方なのか」
「いや、違うぞ。妾は<竜神>としての威厳を保とうして、あえてこうしておるのじゃ!」
「威厳……ねぇ」
俺はゆっくりと手を伸ばして、ミコトの口元についた米粒を取って食べた。
顔を赤くして抗議をするその姿には、とても威厳があるようには見えなかった。
「ちなみに他にはどんな転生者がいるんだ?」
「うむ、妾も普段は村で暮らしているからの、そこまで詳しくはないのだ。もっと聞きたいのならマー君を尋ねたらどうかの?」
「マー君?」
「うむ。<魔王>のマー君じゃ。最近は妾も久しく会ってないがのう」
ミコトの口から驚愕の名前が出てきた。
この話の流れでいえば、つまり……。
「もしかして、<魔王>っていうのも天職だってのか!?」
「なんじゃ、知らなかったのか。だから言っておろう? 天職とは——」
そういうものなのじゃ、と。
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