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ロッカの街〜アイオール皇国

第23話 命の価値

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「ユニコーン?」
「ええ。実物を見たことはないのですけど、角が生えた馬の話を聞いたことがあります」

 翌朝、朝食を食べている時にリリアがそんなことを言い出した。

「じゃあフィズってユニコーンだったのかしら?」

 フィズが朝食のスープを飲みながらあっけらかんとそういった。
 熱が出たのは角が生えてきたせいだったか、角が生えきるとフィズの熱はすぐに下がり、こうやって一緒に朝食をとれるくらい元気になったのだ。

「さぁ、どうなんだろうな? でも熱が下がってよかったよ」
「……ご主人さまが隣にいてくれたからよ」

 なんだか今日起きてからやたらフィズが甘えてくるし、素直だ。
 口調すら変わっているような気がする。
 それはそれで凄く可愛いから問題はないんだけど、なんだか少しくすぐったい。

「もう一日くらい休んでいくか?」
「ううん、早く馬車がひきたいわ!」
「本当か? 無理だけはしないでくれよ」

 うん、と頷きながら隣の俺に肩辺りに寄りかかってきた。
 その額には既に角はない。
 どうやら自分の意思で出し入れ可能らしい。便利なことだ。


「それじゃ、お世話になりました」

 俺はそういって村長さんに金貨を一枚渡した。
 相場がどれくらいかわからないけど、こんなもんだろう。

「こんなに頂けるのですか! ありがとうごぜぇます。よい旅を」

 村長さんはそういって俺たちを見送ってくれた。
 急に馬になったフィズをみて腰を抜かしそうになっていたけど、大丈夫だったかな。

「それじゃあ引き続きドライエント王国へ向けて頼むよ。まずは国境の街、ロールヒルへ」

 俺はそういってフィズのお尻を叩いた。

「あ……んっ」

 フィズはいつにも増して艶めかしい声を出すと馬車が動き出した。
 そういえば馬になると角は出ちゃうらしい。
 けど天を衝くように立つ角は凛々しくて好きだ。
 光を反射すると虹色に光る角はいっそ神々しく見えた。
 そんな光に見惚れていると、御者台にジャックが風切音と共に降りてきた。

「この先、何者かが待ち伏せをしているようです」
「迂回路は?」
「ありません。だからこそ、の待ち伏せでしょう」
「とりあえず話をしてみよう。それでダメなら……仕方ない、蹴散らす」
「ハッ」

 ジャックは短くそういうと空へと戻った。
 戦闘になったら空から援護してくれるのだろう。
 しばらく街道を進むと、数名の男たちが街道脇からゾロゾロと現れ、馬車の行く手を塞いだ。

「はいはい、この先は通行止めだ」
「何でだ?」

 俺がそういうと、馬車の後ろ側の道からも数人の男たちが現れた。
 挟み撃ちにされたか。

「とりあえず積荷を全部寄越せや。あとは……その珍しい馬も貰っていくぞ」
「はぁ? 断る」

 積荷はまだしもフィズを?こいつは命が惜しくはないようだな。

「ハッ、お前に断る権利なんてねぇよ」
「お前に奪う権利があるのか?」
「っるせぇ! やっちまえ!」

 リーダーらしき男の号令で前後から男たちが剣を抜いて襲いかかってくる。
 俺は御者台から飛び降りながら鞭を振って前から来た二人をまとめてなぎ払う。
 チラリと見れば馬車の後ろはジャックとローズが守ってくれているようだから安心だな。

「この野郎……っ!」

 前にいるのはリーダーらしき奴を含めてあと三人だ。
 この調子なら余裕で無力化できるな。
 そう思ったのは油断だったか。

「ご主人さまっ!」

 フィズは叫びながら俺に駆け寄ってくると地面を蹴って空を跳んだ。
 その美しさに息を飲んで、一瞬時が止まったような気がした。

 ——キィン!

 そんな音がして上から落ちてきたのは……矢だった。
 どうやらどこからか狙撃してきていたらしい。それをフィズが角で叩き落としてくれたわけだ。
 いくら目がよくても死角からの攻撃は避けられないから少し危なかった。

「ありがとう、フィズ」
「うん。ちょっと行ってくる!」

 そういうとフィズは矢が飛んできた方へ軽快に駆け出した。

「や、やりすぎるなよー」

 フィズを見送った俺は目の前で唖然としている三馬鹿へ向き直る。
 さて、お仕置きだ。


「全員生きてるかー?」
「いえ、二人ほど魔法を行使しようとしたので殺しましたが……まずかったですか?」

 ジャックは軽くそういった。
 まぁ相手が先に奪おうとしてきたのだから仕方がないか。

 ここは異世界で命の価値が違うのもあるだろうけど、はじめて人が死んだというのに俺は特になにも感じていなかった。
 これがもし仲間であったならきっと狼狽していた自信があるけどな。

「さて、お前たちは盗賊かなんかか?」

 馬車にあったロープで捕縛された男たちを見下ろしながら聞いた。

「見りゃわかんだろ! 目ェ付いてないのか? おおん?」

 そう吐き捨てた瞬間、リーダー格の顔が横に弾け飛んだ。

「ご主人さまになんて口のききかたしてるのよ。この状況でよくそんなこといえるわね」
「ちょ、ちょっとフィズちゃん……やりすぎやりすぎ。どうどう」
「ん? この剣にある刻印は……アイオール皇国の軍人が持っているものじゃないか」

 戦闘が終わって馬車を降りてきたミルカが、回収してあった賊の剣を見て呟いた。

「分かるのか?」
「ああ、ドライエントの隣にある国だからな。ついでにいえば次の街を抜けたらアイオールだな」
「なるほど。でもなんでその軍人が隣の国で盗賊なんて真似を?」
「噂で聞いた話なんだが、皇位争いで国内が物々しい雰囲気になっているらしい。大方その煽りを受けて立場を失ったりした者たちの成れの果てなのだろう」

 ミルカがそういうと盗賊たちは皆一様に肩を落としたように見えた。
 図星なのかもしれないな。

「それと、盗賊団を撃退したらその盗賊が奪ったり集めたりしたものは倒した者の所有物になる決まりだ」
「ええ、持ち主に返さなくていいのか?」
「いちいち一人一人に返していられないだろう? だからまぁ褒賞の代わりみたいなものか。とりあえずこいつらにねぐらまで案内させよう」

 そういうとミルカは盗賊たちに、「立て」と厳しい声で命令した。
 続けて、ねぐらまで案内しろというと盗賊たちは諦めたような顔をしてノロノロと歩き出した。
 リーダーはフィズの一撃でのびてしまっていたのでジャックが引きずるようにして連れていくことにしたようだ。

 さて、どんなお宝があるだろうか?
 そんなことを思いながら盗賊たちについていくと、途中で街道から外れ、山の方へ向かった。
 どうやら山の下にある洞穴のようなところを拠点としていたらしい。
 拠点に近づくと、残党が居たようで散発的に襲撃があったけど、難なく処理することができた。

 洞穴の中は薄暗く、すえた匂いがした。
 あんまり長居したくない場所だな……。
 俺は馬車を小さくして持ってきていたので、そこにあるものを片っ端から馬車に収納していった。
 必要ならあとで台帳をみて取り出せばいいしな。

 そうやって一部屋ずつ確認していった俺たちは、最後の部屋であるものを見つけてしまった。
 それはロープでぐるぐる巻きにされた小学生低学年くらいであろう見た目をした少女だった。
 どうやら衰弱しているようで、俺たちの足音にも目を開かない。

「……よかった、息はしているみたいだな」

 おそらく状況から見てさらわれたと見て間違い無いだろう。それなら助け出したほうがいいな。
 ねぐらにあるものは大体馬車にしまったことを確認すると、俺はその子を抱き上げて洞穴を出ることにした。
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