上 下
56 / 57
三章 魔女と騎士

第53話 告白

しおりを挟む
 僕は今日も夢を見た。
 最近いつも同じ夢を見ている気がする。

 ぐるぐると縛られているリオナ先輩が目の前にいる。
 僕はそんな先輩と何か話をして……そして直後、その胸を槍で貫いた。
 先輩の血を体全体に浴びて、そして僕は高らかに笑うんだ。
 口に入った血は鉄臭くてそれでいて甘く——。

「ッ……はぁ……夢かぁ」
「おいおい、大丈夫かぁ?」

 僕の目の前でハルトが笑った。

「カイは昔から悪夢をしょっちゅう見てたよな」
「変わってない、って言いたいの?」
「見た目は……なんていうか……可愛くなったけどよ。中身はやっぱりカイだなって」
「ちょっと、聞かれたらまずいから街ではちゃんとイニスって呼んでよ?」
「ああ、大丈夫だって。今は誰もいないんだからいいだろう」
「こういう時も徹底してないとハルトはいざという時にポロリしちゃいそうだよ。村にいた時だって——」


 僕は、リッカが攫われてからすぐにハルトへ連絡を取った。
 もう僕の性別がハルトにバレないように、なんて言っている場合じゃなかったから。

 ——リッカのことで話がある。

 そう冒険者ギルドに伝言を残しておくと、すぐにハルトから魔女学園へアポイントがあった。
 僕はハルトを連れてリッカに告白されたあの公園へ行った。
 そして今度は僕からハルトへ告白したんだ。

「ハルト……実はね……僕……」
「お、おいおい。なんだっ!?」
「……カイなんだ」
「………………はぁ?」

 何故か顔を真っ赤にしていたハルトは状況が飲み込めていないのか十分な時間をかけてたった一言、それだけを絞り出した。

「どういう事だ? 君はイニスだろう。カイは俺の村の幼馴染だぞ?」
「うん、だからそのカイが僕なんだって」
「…………?」

 まだ良くわかっていないハルトに僕はリッカの人形を見せた。

「こ、このスライムみたいな人形は……まさかリッカ!?」
「そうだよ。あの時貰ったリッカの人形だ」
「じゃあお前、本当にカイ……なのか?」

 こうして僕はなぜ魔女学園に通っているのかを話した。
 そして今まで黙っていた事を謝った。

「なるほどな……そういう理由だったら確かに仕方ねえか。俺も知ってたら誰かに話ちまってたかもしれねぇし、ブロスさんの考えは正解かもな。でも何で急にカミングアウトしたんだ?」

 その質問がくるという事は、どうやらまだリッカのことについての情報はハルトまで回っていないようだ。

「えっと……リッカが……攫われたんだ……」
「誰にだっ!? なんですぐに追いかけないんだ!」
「ご、ごめん。実は、相手は……魔女なんだ」
「魔女? お前のお仲間って事か。それならまぁ危険はないか……」
「いや、そうじゃなくて本当の魔女……つまりハルト、君が操られていたあいつだよ」
「ッ!?」

 ハルトはそれを聞いた途端、顔が真っ青になった。

「な、なんでリッカが……?」
「それが分からないんだ」
「くそッ、どうにかして助けねぇと……」
「うん、僕もそうしたいと思ってる。ハルト、君は操られていた時ずっと側にいただろう? なんか情報は得られなかったの?」
「そうはいってもずっと頭ん中にモヤが掛かっていたみたいでよ……あっそうだ!」

 ハルトは何かを思い出したように手をひとつ打った。

「そういえば誰かが会いに来たことがあったな……ネクなんとかって名前だったような……」
「頑張って思い出して!」
「うーん。ダメだ、これ以上思い出せねぇ。見れば思い出すかもしれねぇが」
「そうか……もちろん前の盗賊のアジトに戻ってくるわけはないし、こっちの線は無理か……」

 僕が落胆して顔をうつむかせるとハルトが口を開く。

「なぁ、お前あの時、あいつと戦ったんだろ?」
「うーん、戦ったっていっても二回ともすぐに逃げられたから……」
「まともに戦って勝てる相手なのか?」
「いや、今の実力じゃ無理だと思う。かすらせるので精一杯だよ」
「そうか。じゃあ俺の剣も当たりゃしねえか」
「うん。スキルを使っても無理じゃないかな? でも……」
「でも?」
「僕の魔法を使えばもしかしたら……」

 僕はあの日、魔法が進化した。
 それと同時に”どう使えばいいのか”を妹に教えて……いや、思い出させてもらった。
 その使い方は今までの魔女と騎士の関係を大きく変えるだろう。
 だからあまり口外したくはなかったんだけど、ここまできたらハルトには言ってしまおう。

「実は僕の魔法を使えば——」


 という事で、その効果を確かめるため、ハルトと二人でモンスター討伐の依頼にやってきていた。
 近い依頼は全て請けられてしまっていたため、少し遠い場所になってしまったから泊りがけだ。
 冒険者をやっているハルトは野営に慣れているだろうし、僕もこの前の討伐戦で野営は経験したから問題はない。
 学園はちょっと無理して休ませて貰っているからやや問題ありってところかな。


「はは、確かにそんな事もあったなぁ……ふぁーあ」

 ハルトは笑いながら大きなあくびをした。
 明日のはハルトだからもう寝てもらった方がいいかもしれない。
 万全の体調で臨んで欲しいからね。

「僕はもう眠れそうにないから見張りを代わるよ」
「本当にいいのか? まだ一時間も経ってねえぞ?」
「うん。寝たらまた悪夢を見ちゃいそうでさ」

 それも僕の本心だった。
 最近はしょっちゅう夢を見るから寝るのがちょっと怖いんだ。
 妹の夢だったら毎日見たいくらいなんだけど、あれから一度も見ていない。

「そっか。それなら遠慮なく寝させてもらうぜ」

 ハルトはそういうと毛布に包まって横になった。
 早々に寝息が聞こえてきたから相当眠かったのかもしれないね。

 話し相手がいなくなって静かになると少し寂しくて、少し寒くなった気がした。
 ふとみると、焚き火の炎が少し小さくなっていたからこれのせいかもしれないな。
 僕はそのへんの枝を拾って火に投げ入れた。
 炎は一瞬消えそうになりながら火の粉を舞わせる。
 ちょっとした幻想的な光景にも見えて、僕は好きだなぁ。

 明日にはモンスターが発見された場所に着くはずだ。
 そうしたら僕とハルトでモンスターを倒す。
 この新しい魔法の使い方は通用するだろうか?
 僕は頭の中でシミュレーションをしながら夜が開けるのをひたすら待った。

 何度も火の粉を舞わせながら、待ったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

処理中です...