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二章 討伐戦

第42話 魔女殺しの魔女

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 魔女殺しウィッチキラーになりなさい。

 目の前の先輩は確かにそういった。

「魔女……殺し?」
「ええ。あなたには契約の宝呪を使わせてもらったから、契約を破った方は内側からはらわたを食い破られて死ぬわ。この契約はどちらかが死ぬまで有効、よ」
「約束を破ると、死ぬ? な、なんて物を……」
「だって敵対されたら困っちゃうもの」

 先輩は頬に手をあてて恥ずかしがるようにそういった。
 自分の腹にそんなものが入っていると思うと僕は気分が悪くなってきた。
 今吐いたら出てきたりしないだろうか?

「分かっているとは思うけど、吐いても無駄よ? 排泄もされないわ」
「こ、こんな事をしなくても僕は先輩と敵対なんてっ!」
「うふふ、だといいけれど」

 先輩は何か含みをもたせたような顔で笑った。

「それに魔女殺しだなんて……僕にはそんなこと……」
「別にあなたの友達や知り合いの魔女を殺せっていう話しじゃないのよ? 私が殺してほしいのは正真正銘の"魔女”よ」
「どういう……ことですか?」

 僕はどうも先輩の勢いに押されて理解が追いついていなかった。

「あら、あなたの行動を調べた中にあったけれど……あなたはもう会っているんじゃないの?」
「会っている……あっ……」
「どうやら気付いたみたいね」
「アラーニェ……?」

 僕はハルトを助けに行ったあの盗賊のアジトにいた女を思い出した。
 確か正真正銘の"魔女”と名乗っていた気がする。

「そう。つまり始祖の魔女を探して殺しなさいっていうのが私からの条件よ」
「あ、あんなの無理ですよ……」

 僕はあの大きな蜘蛛を思い出して体を震わせた。
 それにあのアラーニェだって全然本気を出している感じがしなかった。
 まだ魔法の勉強をする前だったとはいえ、全力の攻撃でやっと鼻先を掠める程度だったんだから。

「やれるわよ。だってあなたにはそれがあるんだから」

 そういって先輩は僕の頭を優しく撫でながら手首の刻印を指差した。
 確か女神の祝福っていっていたっけ。
 これがあるからなんだっていうんだろう?
 属性なし、放出不可の使いづらいだけの魔力なのに……。
 そんな僕の思考を中断するかのように先輩は続ける。

「本来なら女神からの啓示があるはずなんだけどね。ま、あなたの"使い道"を示した私はさながらあなたにとっての女神といったところかしら」
「…………」
「じゃあお返事を貰えるかしら? それとも今すぐにあなたに犯されたって涙ながらに訴えにいこうかしら」
「な、なんっ——」
「返事!」
「は、はいっ! ……あ」

 反射的に返事をしてしまい驚く僕自身を置き去りにするようにして、条件なるものは満たされたらしい。
 僕のお腹に収まった何かが熱を帯びて暴れている事でそれが分かった。

「はい、お互いの了承がとれました! これで契約は完了ね」

 先輩はパチンと手を叩き、嬉しそうにそういった。
 え、勢いで返事をしちゃっただけなのにあれで完了になっちゃうの!?

「よかったわ、私の条件が軽すぎると思ったのよ。あなたが卒業してしまえば私の条件はあってないようなものだしね」
「そ、そんな。ズルいです……」
「ズルい? 今叫び出さないってだけで私としてはかなり譲歩しているつもりなのよ?」
「それは……ありがとうございます」

 僕がそういうと先輩は「ええ、いいのよ」と笑い、一つ指を鳴らした。
 パチンという音が部屋に響くと、僕を拘束していたわいせつな鎖が消えて僕はベッドの上に転がった。
 そんな僕の上に産まれたままの姿の先輩が覆いかぶさってくる。

「イヤラシイ姿のあなたをもっと見ていたかったけど契約には誠実じゃないとね? でもあなたが望むのなら……続き、シましょうか?」

 先輩はそういうと僕の下半身に手を伸ばしてきた。
 僕はそんな先輩の手を払い、体を押しのけ、転がるようにベッドを降りた。
 そして乱雑に脱がされていた自分の制服を慌ててかき集めた。

「もう、そんなに急がなくていいのに」
「だ、だめです!」

 僕が小刻みに震える指でどうにか制服のボタンを止めると、先輩は残念そうな顔をしてこちらを見ていた。
 そんな顔をしてもダメなんだからねっ!
 それから身体中に着けられていた鈴を取り払って、テーブルの上の本をがばりと掴む。

「そ、それじゃ失礼しますっ!!」
「契約……忘れないでね? まぁあなたにその刻印がある限りは——」

 そんな先輩の言葉を背中に聞きながら僕は部屋を飛び出した。
 あんな甘い香りの部屋にあと少しでもいたら僕の理性はどうにかなってしまう。


 気付けば——自分の部屋にいた。
 自分の部屋でベッドに寝転び、枕に顔をうずめていた。
 なんだか部屋に帰るまでずっと先輩の事を考えながら歩いてきた気がする。
 そんな事より大変な契約を結ばされてしまったのに、なぜか熱を帯びた頭の中では先輩の顔と体が——。

「イニス?」

 そんな僕に心配そうな声がかかって、僕は頭の中の危ない妄想を振り払った。

「大丈夫? なんか帰ってきてから体調が悪そうだけど……もしかして熱でもあるんじゃない?」
「ううん、大丈夫だよ。……でも今日はちょっと休もうかな。あ、そういえばもう夕食の時間だったよね? 行ってきて平気だよ」
「う、うん。じゃあ後ででもいいから良くなったらちゃんと食べるのよ」

 コレットはそんな優しい言葉を僕にかけると手を降りながら部屋を出ていった。

 なんだか今の僕はコレットまで頭の中でお人形さんにしてしまいそうで……。
 だから追い払うように部屋を出ていってもらったけど…………はぁ。

 僕の吐き出したそんな溜め息は、なぜか熱っぽさを帯びていた。

「僕、汚されちゃった……のかな」
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