41 / 57
二章 討伐戦
第38話 実戦的授業②
しおりを挟む
僕の吶喊が聞こえたか、ゴーレムはその巨体を揺らして動き始めた。
と思ったら、村にある自宅くらいの巨体が思いのほか俊敏に動いて、岩のような拳を振り下ろしてきた。
なんとかギリギリで反応できた僕は軽く後ろに飛ぶことで拳を回避した。
僕という目標を逸したゴーレムの拳は実習室の土をえぐり、大穴を開ける。
えぐった土が礫となって、僕に勢いよく降り注いできたけど、僕のアイギスにぶつかるとキャンキャンと甲高い音で泣くように落ちていった。
「ふう、なんとか大丈夫そうだ。 みんな、今のうちに魔法を!」
僕がそういうや否や、後ろからは魔法が飛んでくる。きっと僕を信じて準備をしてくれていたんだろう。
火が、土が、風がその巨体にぶつかって——弾けた。
「わ、硬いな」
「ですねぇ、お姉様は大丈夫ですか?」
「うん。僕は大丈夫だよ。次は僕が攻めてみるからみんなはそれに続いて攻撃してみて」
そういうとみんなが頷いてくれたので、僕はゴーレムに向かって駆け出した。
その速度はやっぱり全開の時よりも遅くて、無意識下で自縛の鈴に縛られているのを感じた。
「それでもっ! 僕がやらなきゃっ!」
僕が顔を狙って突き込んだ槍は、僅かに身をよじられたことで肩付近に当たった。
魔法で包まれている槍はゴーレムの装甲と僅かに拮抗して——爆ぜた。
轟音が響き、粉塵が巻き上がる。
砂埃がはれてゴーレムを見ると……どうやら肩の一部が抉れていた。
つまり攻撃力では僕の方が上回っているらしい。
正直その結果には少しびっくりしたけど、ここがチャンスかもしれない。
「お願いっ!」
僕はそう叫ぶと同時に横へ跳び射線をあける。
そこへ狙いすましたように、三人の弾が次々と突き刺さる。
一度削られて脆くなっていたゴーレムの肩はぶら下げていた腕を持ち上げようとして——地面へと落とした。
「やりましたわっ!」
「やったね、マルちゃんっ!」
腕をもぎ取っただけではあるけれど、僕らがここ一ヶ月近く続けてきた練習が無駄じゃなかったという証のようでちょっと胸が詰まった。
そんなちょっとした交錯の中で思いついた事があった僕は、ゴーレムが固まっている隙をついて三人の所に合流する事にした。
「あのさ……こういうのって出来ないかな?」
「なるほど……やったことはないですけど、お姉様がやれというならなんでもやってみせますわ」
「ええ、私もあまり魔力を使わなそうだから大丈夫だと思いますわ」
「私はいつも通りだからバッチリだよ!」
「良かった、じゃあ僕が合図を出すからそのタイミングでお願い!」
こうして短い時間で作戦を確認しあった僕は再度ゴーレムと対峙する。
もちろん痛みも感情もないんだろうけど、心なしか怒っているような気がしてくるから不思議だ。
「さ、ここからが正念場だぞ」
僕は自分で自分を鼓舞すると、地面を蹴ってゴーレムに迫っていく。
すると先程の僕の攻撃を驚異に感じたか、根に持っているのかは分からないけど僕を叩き潰そうと上から拳を雨のように降らせてくる。
まぁそれでも腕が一本になっちゃったそんな攻撃は当たらないんだけどね。
攻撃されてはじめて分かったけど、僕は”この状態”になると反応速度も目も数段能力が向上するようだった。
だからこうやって悠長に考えながら攻撃を捌けるんだろうね。
ゴーレムは当たらない攻撃に焦れたのか、一際大きく腕を振りかぶった。
——ここだっ!
「今ッ!」
僕がいうとやはり後ろで練っていてくれていたのだろう魔法が発動した。
それは一言でいうなら『泥沼』だ。
マルグリッドさんの土魔法で土を柔らかくし、セイラさんの水魔法でその土を泥へ変えたのだ。
ゴーレムはその自重のせいもあってか、足元に突如現れた沼へ見事にハマった。
「最後、お願い!」
そう叫ぶとアイヴィが「ごめんっ!」と言いながら走る僕の背中に向けて風の弾を打ちこんだ。
その弾はアイギスに阻まれて、僕の体に届く事はなかった。
けれどその衝撃までもが消えることはない。
衝撃を加速に変えて僕は跳んだ。
沼にハマって動けないゴーレムとの距離はすぐになくなり——。
実習室内に小さな爆発音が鳴り響いた。
もちろんその音は僕がゴーレムに槍を突き立てた音だ。
顔の単眼に槍を刺されたゴーレムは、足を固定されている事もあって衝撃を逃がせなかったのだろう。
膝上、大腿部の辺りにいくつもの亀裂が走って……割れた。
そしてその家ほどの巨体はゆっくりと後ろに倒れていくのだった。
「ふう、これで終わったかな?」
ゴーレムに槍を突き立てた僕は倒した、という感覚を手に残しながら満足感に浸っていた。
そんな時、不意に鋭い声が僕の鼓膜を震わせた。
「キャーッ!」
「ルコラちゃん、逃げてっ!!」
見れば、倒れゆくゴーレムが道連れを作ろうとしているかのようにルコラちゃんへその影を落としていく。
そのスピードはまさにスローなものではあったけどルコラちゃんは足がすくんだのか逃げることが出来ないでいる。
「まずいっ!」
あれが直撃してしまえば即死もあるかもしれない。
もしそうなるとさすがに先生でも治せないだろう。
そう直感した僕は——全力で魔力を放出した。
すると僕の首に巻かれていた鈴がリンッ——となって僕は力が抜けそうになる。
駄目だ、このままじゃ間に合わない……もっと、もっとだっ!!
僕は自分を縛っているものを突き破るように魔力を迸らせる。
すると何かが壊れる音がするのと同時に体を縛る感覚が消えた。
「間にあえっ!!」
僕は全力でルコラちゃんの元へ走ると、まさにルコラちゃんをぺしゃんこに押し潰さんとしていたゴーレムに力一杯の体当たりをした。
体当たり衝撃はとんでもないものだったようで、ゴーレムの体は実習場の端まで転がりながら吹き飛び、そして最後は砂になった。
「ふ、ふわぁぁ……」
「ルコラちゃん、大丈夫だった? ごめん、ゴーレムの後ろまで確認してなくて……無駄に危険にさせちゃったみたい」
「ふぇっ!? だ、大丈夫……だよぉ。ル、ルコラを助けてくれてあ、りがとう」
僕はアイギスを解除してから、腰が抜けてしまったらしいルコラちゃんの手を取って立ち上がらせてあげた。
「うん。本当に怪我はないみたいだね、良かった」
「はい。良かったですね、お姉様。それにとっても格好良かったですっ!」
チームメイトの三人もこちらへ駆けつけてくれていたのか、すぐに側まで来てくれた。
「確かにルコラが助かったのは良かったですわ。でも……確実にライバルが増えましたわね」
「ん、ライバルって?」
「な、なんでもないですわっ!」
こうしてなんとも締まらない空気の中、初の実戦的授業が終わったのだった。
尚、もう一体のゴーレムは僕が倒した方が砂になったのと同時に砂へ還っていったのだった。
もしかして先生が砂に変えたのかもしれないね。
そうだったとしたら僕がルコラちゃんを助けにいったのは無駄だったのかもしれないな。
まぁ自分の最善をつくしたんだからいいか、と僕は苦笑いとも安堵ともつかないような渋い笑顔になるのだった。
と思ったら、村にある自宅くらいの巨体が思いのほか俊敏に動いて、岩のような拳を振り下ろしてきた。
なんとかギリギリで反応できた僕は軽く後ろに飛ぶことで拳を回避した。
僕という目標を逸したゴーレムの拳は実習室の土をえぐり、大穴を開ける。
えぐった土が礫となって、僕に勢いよく降り注いできたけど、僕のアイギスにぶつかるとキャンキャンと甲高い音で泣くように落ちていった。
「ふう、なんとか大丈夫そうだ。 みんな、今のうちに魔法を!」
僕がそういうや否や、後ろからは魔法が飛んでくる。きっと僕を信じて準備をしてくれていたんだろう。
火が、土が、風がその巨体にぶつかって——弾けた。
「わ、硬いな」
「ですねぇ、お姉様は大丈夫ですか?」
「うん。僕は大丈夫だよ。次は僕が攻めてみるからみんなはそれに続いて攻撃してみて」
そういうとみんなが頷いてくれたので、僕はゴーレムに向かって駆け出した。
その速度はやっぱり全開の時よりも遅くて、無意識下で自縛の鈴に縛られているのを感じた。
「それでもっ! 僕がやらなきゃっ!」
僕が顔を狙って突き込んだ槍は、僅かに身をよじられたことで肩付近に当たった。
魔法で包まれている槍はゴーレムの装甲と僅かに拮抗して——爆ぜた。
轟音が響き、粉塵が巻き上がる。
砂埃がはれてゴーレムを見ると……どうやら肩の一部が抉れていた。
つまり攻撃力では僕の方が上回っているらしい。
正直その結果には少しびっくりしたけど、ここがチャンスかもしれない。
「お願いっ!」
僕はそう叫ぶと同時に横へ跳び射線をあける。
そこへ狙いすましたように、三人の弾が次々と突き刺さる。
一度削られて脆くなっていたゴーレムの肩はぶら下げていた腕を持ち上げようとして——地面へと落とした。
「やりましたわっ!」
「やったね、マルちゃんっ!」
腕をもぎ取っただけではあるけれど、僕らがここ一ヶ月近く続けてきた練習が無駄じゃなかったという証のようでちょっと胸が詰まった。
そんなちょっとした交錯の中で思いついた事があった僕は、ゴーレムが固まっている隙をついて三人の所に合流する事にした。
「あのさ……こういうのって出来ないかな?」
「なるほど……やったことはないですけど、お姉様がやれというならなんでもやってみせますわ」
「ええ、私もあまり魔力を使わなそうだから大丈夫だと思いますわ」
「私はいつも通りだからバッチリだよ!」
「良かった、じゃあ僕が合図を出すからそのタイミングでお願い!」
こうして短い時間で作戦を確認しあった僕は再度ゴーレムと対峙する。
もちろん痛みも感情もないんだろうけど、心なしか怒っているような気がしてくるから不思議だ。
「さ、ここからが正念場だぞ」
僕は自分で自分を鼓舞すると、地面を蹴ってゴーレムに迫っていく。
すると先程の僕の攻撃を驚異に感じたか、根に持っているのかは分からないけど僕を叩き潰そうと上から拳を雨のように降らせてくる。
まぁそれでも腕が一本になっちゃったそんな攻撃は当たらないんだけどね。
攻撃されてはじめて分かったけど、僕は”この状態”になると反応速度も目も数段能力が向上するようだった。
だからこうやって悠長に考えながら攻撃を捌けるんだろうね。
ゴーレムは当たらない攻撃に焦れたのか、一際大きく腕を振りかぶった。
——ここだっ!
「今ッ!」
僕がいうとやはり後ろで練っていてくれていたのだろう魔法が発動した。
それは一言でいうなら『泥沼』だ。
マルグリッドさんの土魔法で土を柔らかくし、セイラさんの水魔法でその土を泥へ変えたのだ。
ゴーレムはその自重のせいもあってか、足元に突如現れた沼へ見事にハマった。
「最後、お願い!」
そう叫ぶとアイヴィが「ごめんっ!」と言いながら走る僕の背中に向けて風の弾を打ちこんだ。
その弾はアイギスに阻まれて、僕の体に届く事はなかった。
けれどその衝撃までもが消えることはない。
衝撃を加速に変えて僕は跳んだ。
沼にハマって動けないゴーレムとの距離はすぐになくなり——。
実習室内に小さな爆発音が鳴り響いた。
もちろんその音は僕がゴーレムに槍を突き立てた音だ。
顔の単眼に槍を刺されたゴーレムは、足を固定されている事もあって衝撃を逃がせなかったのだろう。
膝上、大腿部の辺りにいくつもの亀裂が走って……割れた。
そしてその家ほどの巨体はゆっくりと後ろに倒れていくのだった。
「ふう、これで終わったかな?」
ゴーレムに槍を突き立てた僕は倒した、という感覚を手に残しながら満足感に浸っていた。
そんな時、不意に鋭い声が僕の鼓膜を震わせた。
「キャーッ!」
「ルコラちゃん、逃げてっ!!」
見れば、倒れゆくゴーレムが道連れを作ろうとしているかのようにルコラちゃんへその影を落としていく。
そのスピードはまさにスローなものではあったけどルコラちゃんは足がすくんだのか逃げることが出来ないでいる。
「まずいっ!」
あれが直撃してしまえば即死もあるかもしれない。
もしそうなるとさすがに先生でも治せないだろう。
そう直感した僕は——全力で魔力を放出した。
すると僕の首に巻かれていた鈴がリンッ——となって僕は力が抜けそうになる。
駄目だ、このままじゃ間に合わない……もっと、もっとだっ!!
僕は自分を縛っているものを突き破るように魔力を迸らせる。
すると何かが壊れる音がするのと同時に体を縛る感覚が消えた。
「間にあえっ!!」
僕は全力でルコラちゃんの元へ走ると、まさにルコラちゃんをぺしゃんこに押し潰さんとしていたゴーレムに力一杯の体当たりをした。
体当たり衝撃はとんでもないものだったようで、ゴーレムの体は実習場の端まで転がりながら吹き飛び、そして最後は砂になった。
「ふ、ふわぁぁ……」
「ルコラちゃん、大丈夫だった? ごめん、ゴーレムの後ろまで確認してなくて……無駄に危険にさせちゃったみたい」
「ふぇっ!? だ、大丈夫……だよぉ。ル、ルコラを助けてくれてあ、りがとう」
僕はアイギスを解除してから、腰が抜けてしまったらしいルコラちゃんの手を取って立ち上がらせてあげた。
「うん。本当に怪我はないみたいだね、良かった」
「はい。良かったですね、お姉様。それにとっても格好良かったですっ!」
チームメイトの三人もこちらへ駆けつけてくれていたのか、すぐに側まで来てくれた。
「確かにルコラが助かったのは良かったですわ。でも……確実にライバルが増えましたわね」
「ん、ライバルって?」
「な、なんでもないですわっ!」
こうしてなんとも締まらない空気の中、初の実戦的授業が終わったのだった。
尚、もう一体のゴーレムは僕が倒した方が砂になったのと同時に砂へ還っていったのだった。
もしかして先生が砂に変えたのかもしれないね。
そうだったとしたら僕がルコラちゃんを助けにいったのは無駄だったのかもしれないな。
まぁ自分の最善をつくしたんだからいいか、と僕は苦笑いとも安堵ともつかないような渋い笑顔になるのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい
どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。
記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。
◆登場人物
・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。
・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。
・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる