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二章 討伐戦

第35話 リッカの告白

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 僕はブロスさんに道を教えてもらったていで、少し迷ったふりをしながら目的地のデルソルにリッカを案内した。

 店の裏に入れてもらうと、ロウさんに「はじめまして!」と挨拶する事でもらった。
 それからリッカの制服代がないという話をすると大喜びでアルバイトに採用してくれたから良かったな。
 まぁリッカは可愛いからそうなると思ったんだ。
 僕がまたお金を借りて、返済するのもいいかって考えていたけど、それだとリッカが受け取ってくれるかが分からなかったし、きっとこっちの方がいいね。

 学園に許可が取れたらまた来る、という事にしてすぐに僕らはデルソルを出た。
 とりあえずこれで少しは胸のつかえがとれたかな。

「次はハルトの所に行ってみましょ」
「ハルトは、捕まっているんだったよね?」
「うん……。でもこの前面会に行った時は元気そうだったよ」

 操られていただけっていうのは確定しているから大した罪にゃならねえよ、なんてサブナックさんは軽く言っていたけど……本当だったらいいな。

 ハルトが捕まっていたのは以前来たことのある治安官詰め所の隣にある建物だった。
 入場に許可が必要らしいので、入り口で受付をすると係員さんが申し訳なさそうな顔をして言った。

「すみませんが、こちらの方は既に出所されております」
「えっ!?」

 僕の後ろではリッカも驚いた顔をしている。
 どうやらリッカの所にも連絡がなかったみたいだね。

「どこに行ったかというのは分かりますか?」
「いえ、こちらでは分からないですね。ですが所持金がなかったようですし、剣を使えるようでしたから……冒険者ギルドに行った可能性はありますね」

 最後に「もちろん個人的な推測ですが」と係員さんが教えてくれた。
 僕としてはハルトがこの街に来た理由——つまり騎士学園かも、と一瞬思ったんだけど、リッカによると騎士学園も既に試験が終わってしまっていて入学する事が出来ないらしい。
 だったら冒険者ギルドという線はありえそうに思えた。それか村に帰ったか、かな。
 僕らは係員さんにお礼を伝えて建物を出ると、冒険者ギルドへ向かった。


「ねぇカイ、あなた冒険者ギルドがなんなのか分かっているの? なんか場所も知ってるみたいな足取りだし……」
「う、うえぇ? ぼ、僕は昨日からこの街にいるからね。それでかな?」

 自分でもよくわからない理論だけど、とりあえずこの場は誤魔化す事が出来た。
 たぶん誤魔化せた……よね?

 冒険者ギルドに到着すると、やっぱりどうも鉄の匂いが鼻につくからあんまり好きになれないね。
 中に入った途端にテーブルを囲んでいる冒険者達が僕たちをめつけるように見てくるのもちょっと苦手だ。
 でもよく見たらその中には合同討伐隊で一緒だった人が何人かいて、それだけで僕はちょっと安心できた。

「すみません。こちらにハルト、という冒険者はいませんか?」

 受付の女性にリッカが尋ねるとお姉さんは顎に指を当てて「うーん」と考え、それから「サブナックさーん」と聞いたことのある名前を呼んだ。
 しばらくすると建物の奥の方からサブナックさんが出てきた。
 久しぶり……って程でもないかな。

「何だい? ローリアちゃん。もしかしてこれってデートのお誘い?」
「……。ええと、この子達がハルトという冒険者を探しているらしいのだけど」

 完全に無視されているのがちょっと悲しい。
 というかこの前のメリッサさんだけじゃなくて皆に同じことを言っていたんだね。

「ああ、ハルトだったら今ちょっと出てるぜ」

 サブナックさんは無視された事をさして気にする様子もなくそういった。
 でも「今出てる」っていうことはハルトはここにいるっていう事だよね?
 僕はリッカと手を合わせて喜んだ。

「ちなみにですけど、いつ頃戻りますか?」

 僕がそう聞くとサブナックさんは難しそうな顔をした。

「ちょっとウンガロの森に行かせてるから二日……いや、三日後ってところか」
「三日後……ですか」

 僕がカイに戻るというこの魔法は今夜には解けてしまう。
 つまりカイとしてハルトに会うのは……無理か。少なくとも今回は。

「分かりました。お忙しいところありがとうございました」


 冒険者ギルドを後にした僕らはとりとめのない話をしながら街をぶらぶらと歩いた。
 ふいに小さな広場が現れて、なんとなく僕らはその広場に入った。
 どうやら子供が遊ぶような場所のようで遊具などもいくつか置かれている。
 その中で吊り型遊具、というものに僕ら二人は腰をおろした。

 これは僕らの村でブランコって呼ばれていたものに似ているね。
 高い木からロープで吊るされている丸太に乗って遊ぶんだよね。
 あっちはロープが一本で、こっちは二本。違いはそれくらいかな。
 村でも最近は乗ってなかったから……懐かしいな。
 リッカにもそれを伝えると「確かに懐かしいね」と言って、それきり黙ってしまった。

 僕は何か怒らせるような事をしてしまっただろうか?
 なんて頭の中で考えているとリッカはぽつり、と口を開いた。

「あのさ……<魔女の刻印>があたしに現れた時のことって覚えてる?」
「うん、もちろん覚えているよ。確か風邪で熱が出て寝込んでいた時だったよね」
「カイもハルトもあたしを心配してずっと寄り添っててくれたよね」

 徐々に陽が傾いてきていたから、夕陽のオレンジがリッカの頬を染め出していてそれが妙にリッカを大人びて見せていた。

「そんな時に刻印が現れて、みんなで驚いたよね」
「うん、それから僕とハルトは騎士を目指すことにしたんだよ」
「知ってる。あたしは刻印が現れてから自分がちょっと特別なんだって思ってた」
「そうなんだ」
「でも学園に入ったら……当たり前だけど周りの子はみんな刻印を持ってるんだからあたしはちっとも特別なんかじゃなかった」

 リッカは瞳をわずかに揺らしながら、沈みゆく夕陽をじっと見つめながら独白を続ける。

「魔力測定をしたら一番上のSクラスって言われて、もしかしたらやっぱりあたしは特別なのかな?って思ったけどクラスの中にはあたしより凄い人が沢山いて、やっぱりあたしは特別なんかじゃなかった」
「……そうだったんだ……」
「こんな事ならさ、あたし普通で良かったよ。それでいつか誰かの特別になれれば、それで……良かったんだよ」

 リッカはそういうとブランコから不意に立ち上がった。
 思わずつられて僕も立ち上がると、突然やわらかい感触があった。
 一瞬遅れてリッカが抱きついてきたのだと認識すると顔が赤くなっていくのを感じた。

「リ……リッカ」
「あたし村に帰りたいよ」

 そんなリッカの涙声が混じる弱音を聞くと胸が締め付けられた。
 なのに僕はかけてあげられる言葉が見つからなくて。
 視線を中空に彷徨わせていると、突然リッカの顔で視線を遮られた。

「あのさ、あたしを……あたしをカイの特別に、して?」

 リッカはそういうと唇を軽く突き出してギュッと目をつぶった。
 こ、これって……つまり……そういうこと、だよね?
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