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その三十七 ウィルの時間加速
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開戦を知らせるラッパが鳴り、防壁の上から守備隊が一斉に矢を射かける。
同じく防壁の上にいる王国魔道士団が一斉に魔法攻撃を始めた。
青のローブを羽織ったロラン様が、雷撃魔法を放つのが見える。
「ロラン様~! 頑張って~!」
「ジゼル様! 本当に危険ですから避難を!」
満を持して弓矢と魔法の攻撃が一斉に放たれる。
それでも、魔物たちの勢いは止まらない様子で、外側から正門を攻撃する大きな衝撃音が響く。
よほどの魔物がいるのか、堅固なはずの正門は大きな破壊音とともにあっさり崩壊した。
時間を稼ぐために積まれた材木やレンガが蹴散らされる。
とうとう勢いにのった魔物たちが王都へ侵入を始めた。
ウィルとおじい様、王国兵士たちが敵と激突する。
正面で戦うふたりの剣技は、ほかの兵士に比べ群を抜いていた。
敵の主力である、狼の魔物がいくら押し寄せてもものともしない。
ウィルの剣技は華麗で力強く、無駄のない剣捌きに目が奪われた。
私はおじい様に自衛の剣を教わっているので、ふたりの実力がほかの兵士より傑出しているのが分かる。
そのふたりの活躍で、周りの兵士たちも活気づいて士気が上がっていく。
祈るように見ていた私も、ジゼル様と一緒に歓声をあげた。
「ウィルもおじい様も凄いわ! これならすべての魔物を撃退できそう!」
「さすがウィリアム様ですわ! これならロラン様のご勇姿を見ていられそうですわ!」
だがすぐに、楽観視したことを後悔した。
遅れて巨大な石人形が参戦すると、状況が一変したのだ。
動く石人形は、ほかの敵の十倍の大きさで、たくさんの石が組み合わさっている。
二百年前の王妃様の伝記に書かれていた、ゴーレムという魔物と特徴が同じだ。
攻撃の強さと体の硬さが桁違いで、狼の魔物のようには倒せない。
攻撃が効かず防戦になるウィルは、ついにゴーレムのパンチを受けて私のいる後方へ吹っ飛ばされた。
かろうじて剣で受けて直撃を防いでいたものの、圧倒的な攻撃の強さと体の硬さで状況の打破は困難そうだ。
このままではウィルやおじい様が、兵士のみんながやられてしまう。
私は飛ばされたウィルの元へ駆け寄って、そっと抱き起こす。
近くでコレットが炎による魔法攻撃をしていた。
「コレット! 無事ね」
「あ、マリー様! はい、私たち魔法使いの一族で魔法攻撃を仕掛けています」
「私の魔法も役に立てたいのだけど……」
「そうですね。もしかしたら、時間加速魔法『アート』は他人にもかけられるかもしれませんよ」
「『アート』を他人にかける?」
思い当たることがある。
王族の伝記にそんな大魔法が書かれていた。
私と同じ時空魔法を使った昔の王妃様が会得したとされる『アート』の上位魔法。
『スペリュール・アート』
二百年前も今日と同じように、魔物の大群が王都へ押し寄せたことがあったらしい。
王国が窮地に陥ったとき、高い魔力を持つ王妃様がこの大魔法を発動した。
この『スペリュール・アート』を唱えて、一千人の王国兵士たちの時間を加速。
倍速で戦う王国兵士たちが一昼夜奮闘を続け、ついに魔物たちを撃退し、無事難局を乗り切ったのだそうだ。
これだけの大魔法だが、その会得方法は謎と書かれていた。
唯一会得した王妃様は、魔法の効果が切れてすぐに眠りにつき、そのまま目覚めることがなかったからだそうだ。
昔の王妃様と同じ時空魔法を使える私が、この局面で少しでも役に立ちたい。
同じ大魔法『スペリュール・アート』は無理でも、せめて苦戦するウィルに『アート』をかけてあげたい。
時間加速魔法『アート』は、私の魔力で覆われたところの時間を操作できると教わった。
ならば私の魔力で彼を覆ったらもしかして……。
でも、その方法が分からない。
私は魔力を移したい一心で、支えていたウィルに強く抱きついた。
私の意図が分からないウィルは驚いていたが、逆に強く抱きしめてくれる。
「マリー。絶対に君を守る」
「うん」
「魔物を倒して国を守り、大好きな君との暮らしを手に入れるから」
「……え? ええ⁉ 好き?」
彼は私を抱きしめたまま、目を見つめて囁く。
「マリー、君が好きだ」
「す、好き⁉ ウィルが⁉ 私を⁉」
戸惑う私に彼はハッキリと告げた。
「幼馴染みは関係ない。俺はマリーのことが好きだ」
「え⁉ でも好きな人がいるって……」
「君なんだよ」
「え?」
「好きな人はマリー、君なんだ!」
「え、本当に⁉ じゃあ、何でこれまで秘密に?」
「俺は王位継承権第一位だから発言には重大な責任がともなう。個人的感情など公人として許されなかった。でもいまは言わせてくれ」
そこで言葉を切ったウィルは私を見つめた。
「マリーが好きだ。大好きなんだ」
「う、う、嬉しい。私もよ、ウィル、私も! 私もね、あなたが好きなの! 私も迷惑をかけるから言えなかったの!」
彼からの告白は、涙が出るほど嬉しくて。
また死地に戻るウィルへ何かをしてあげたくて。
思わず私は彼の唇にキスをした。
死なないで私の大好きな人。
無事に戻ってまた私を抱きしめて。
彼を想ったそのとき、なぜか私の魔力が彼を包んだのが分かった。
いまなら、私の魔法が彼に作用するかもしれない。
「お願い! ウィルの時間を早めて。アート!」
次の瞬間、彼の全身が緋色に光り輝いた!
ウィルのまぶたの瞬きが早くなる。
「マリー、こ、これは……時空魔法なのか⁉」
「よかった! 上手くいったわ」
私が答えると、ウィルが早い動きで私にキスをしてから、さっと前線に駆けていった。
前線に戻ったウィルは、素早い動きでおじい様の前に入る。
そこからウィルの無双が始まった。
緋色に輝くウィルは、ゴーレムの繰り出すパンチをあっさり避けると、いつの間にか裏側へ回り込む。
そのまま、足の関節に剣を突き立てて片足を分解。
ゴーレムがバランスを崩して転倒したと思ったとき、すでに首関節へ剣を突き立てていた。
ゴーレムは瞬時に足と胴と頭が分解されて動きを停止したのだ。
ウィルはそのまま周りの敵に突っ込んで剣を振る。
ゴーレムの周囲にいた狼の魔物は、ウィルへ攻撃姿勢をとる前に次々と倒れていく。
ほとんど棒立ちのまま、戦闘不能になっていった。
強い!
私の大好きなあの人は、圧倒的に強かった。
開戦当初から華麗な剣技で魔物を倒していたが、時間加速したいまのウィルはほとんど目で追えないほどに早い。
彼の大活躍で前線が押し上がり、王都の正門まで使役魔物たちを後退させた。
興奮のあまり、私とジゼル様で手を取り合う。
「ウィルがいればこの戦いに勝てるわ!」
「ウィリアム様が凄すぎますわ」
形勢が逆転したので誰もがそう思ったはず。だが優位に立ったのもつかの間だった。
急に黒い光のようなものが、破られた正門から入り込んでくる。
すると、正門から次々とゴーレムが侵入を始めて、正門前の広場に集結した。
広場を埋め尽くすゴーレムの数は、なんと三十体。
集結したゴーレムたちの中央には、まるで光を吸い込むような暗がりが出来ていた。
あの中心に魔物を操る諸悪の根源がいると感じる。
マチルド様がいるのかもしれない。
同じく防壁の上にいる王国魔道士団が一斉に魔法攻撃を始めた。
青のローブを羽織ったロラン様が、雷撃魔法を放つのが見える。
「ロラン様~! 頑張って~!」
「ジゼル様! 本当に危険ですから避難を!」
満を持して弓矢と魔法の攻撃が一斉に放たれる。
それでも、魔物たちの勢いは止まらない様子で、外側から正門を攻撃する大きな衝撃音が響く。
よほどの魔物がいるのか、堅固なはずの正門は大きな破壊音とともにあっさり崩壊した。
時間を稼ぐために積まれた材木やレンガが蹴散らされる。
とうとう勢いにのった魔物たちが王都へ侵入を始めた。
ウィルとおじい様、王国兵士たちが敵と激突する。
正面で戦うふたりの剣技は、ほかの兵士に比べ群を抜いていた。
敵の主力である、狼の魔物がいくら押し寄せてもものともしない。
ウィルの剣技は華麗で力強く、無駄のない剣捌きに目が奪われた。
私はおじい様に自衛の剣を教わっているので、ふたりの実力がほかの兵士より傑出しているのが分かる。
そのふたりの活躍で、周りの兵士たちも活気づいて士気が上がっていく。
祈るように見ていた私も、ジゼル様と一緒に歓声をあげた。
「ウィルもおじい様も凄いわ! これならすべての魔物を撃退できそう!」
「さすがウィリアム様ですわ! これならロラン様のご勇姿を見ていられそうですわ!」
だがすぐに、楽観視したことを後悔した。
遅れて巨大な石人形が参戦すると、状況が一変したのだ。
動く石人形は、ほかの敵の十倍の大きさで、たくさんの石が組み合わさっている。
二百年前の王妃様の伝記に書かれていた、ゴーレムという魔物と特徴が同じだ。
攻撃の強さと体の硬さが桁違いで、狼の魔物のようには倒せない。
攻撃が効かず防戦になるウィルは、ついにゴーレムのパンチを受けて私のいる後方へ吹っ飛ばされた。
かろうじて剣で受けて直撃を防いでいたものの、圧倒的な攻撃の強さと体の硬さで状況の打破は困難そうだ。
このままではウィルやおじい様が、兵士のみんながやられてしまう。
私は飛ばされたウィルの元へ駆け寄って、そっと抱き起こす。
近くでコレットが炎による魔法攻撃をしていた。
「コレット! 無事ね」
「あ、マリー様! はい、私たち魔法使いの一族で魔法攻撃を仕掛けています」
「私の魔法も役に立てたいのだけど……」
「そうですね。もしかしたら、時間加速魔法『アート』は他人にもかけられるかもしれませんよ」
「『アート』を他人にかける?」
思い当たることがある。
王族の伝記にそんな大魔法が書かれていた。
私と同じ時空魔法を使った昔の王妃様が会得したとされる『アート』の上位魔法。
『スペリュール・アート』
二百年前も今日と同じように、魔物の大群が王都へ押し寄せたことがあったらしい。
王国が窮地に陥ったとき、高い魔力を持つ王妃様がこの大魔法を発動した。
この『スペリュール・アート』を唱えて、一千人の王国兵士たちの時間を加速。
倍速で戦う王国兵士たちが一昼夜奮闘を続け、ついに魔物たちを撃退し、無事難局を乗り切ったのだそうだ。
これだけの大魔法だが、その会得方法は謎と書かれていた。
唯一会得した王妃様は、魔法の効果が切れてすぐに眠りにつき、そのまま目覚めることがなかったからだそうだ。
昔の王妃様と同じ時空魔法を使える私が、この局面で少しでも役に立ちたい。
同じ大魔法『スペリュール・アート』は無理でも、せめて苦戦するウィルに『アート』をかけてあげたい。
時間加速魔法『アート』は、私の魔力で覆われたところの時間を操作できると教わった。
ならば私の魔力で彼を覆ったらもしかして……。
でも、その方法が分からない。
私は魔力を移したい一心で、支えていたウィルに強く抱きついた。
私の意図が分からないウィルは驚いていたが、逆に強く抱きしめてくれる。
「マリー。絶対に君を守る」
「うん」
「魔物を倒して国を守り、大好きな君との暮らしを手に入れるから」
「……え? ええ⁉ 好き?」
彼は私を抱きしめたまま、目を見つめて囁く。
「マリー、君が好きだ」
「す、好き⁉ ウィルが⁉ 私を⁉」
戸惑う私に彼はハッキリと告げた。
「幼馴染みは関係ない。俺はマリーのことが好きだ」
「え⁉ でも好きな人がいるって……」
「君なんだよ」
「え?」
「好きな人はマリー、君なんだ!」
「え、本当に⁉ じゃあ、何でこれまで秘密に?」
「俺は王位継承権第一位だから発言には重大な責任がともなう。個人的感情など公人として許されなかった。でもいまは言わせてくれ」
そこで言葉を切ったウィルは私を見つめた。
「マリーが好きだ。大好きなんだ」
「う、う、嬉しい。私もよ、ウィル、私も! 私もね、あなたが好きなの! 私も迷惑をかけるから言えなかったの!」
彼からの告白は、涙が出るほど嬉しくて。
また死地に戻るウィルへ何かをしてあげたくて。
思わず私は彼の唇にキスをした。
死なないで私の大好きな人。
無事に戻ってまた私を抱きしめて。
彼を想ったそのとき、なぜか私の魔力が彼を包んだのが分かった。
いまなら、私の魔法が彼に作用するかもしれない。
「お願い! ウィルの時間を早めて。アート!」
次の瞬間、彼の全身が緋色に光り輝いた!
ウィルのまぶたの瞬きが早くなる。
「マリー、こ、これは……時空魔法なのか⁉」
「よかった! 上手くいったわ」
私が答えると、ウィルが早い動きで私にキスをしてから、さっと前線に駆けていった。
前線に戻ったウィルは、素早い動きでおじい様の前に入る。
そこからウィルの無双が始まった。
緋色に輝くウィルは、ゴーレムの繰り出すパンチをあっさり避けると、いつの間にか裏側へ回り込む。
そのまま、足の関節に剣を突き立てて片足を分解。
ゴーレムがバランスを崩して転倒したと思ったとき、すでに首関節へ剣を突き立てていた。
ゴーレムは瞬時に足と胴と頭が分解されて動きを停止したのだ。
ウィルはそのまま周りの敵に突っ込んで剣を振る。
ゴーレムの周囲にいた狼の魔物は、ウィルへ攻撃姿勢をとる前に次々と倒れていく。
ほとんど棒立ちのまま、戦闘不能になっていった。
強い!
私の大好きなあの人は、圧倒的に強かった。
開戦当初から華麗な剣技で魔物を倒していたが、時間加速したいまのウィルはほとんど目で追えないほどに早い。
彼の大活躍で前線が押し上がり、王都の正門まで使役魔物たちを後退させた。
興奮のあまり、私とジゼル様で手を取り合う。
「ウィルがいればこの戦いに勝てるわ!」
「ウィリアム様が凄すぎますわ」
形勢が逆転したので誰もがそう思ったはず。だが優位に立ったのもつかの間だった。
急に黒い光のようなものが、破られた正門から入り込んでくる。
すると、正門から次々とゴーレムが侵入を始めて、正門前の広場に集結した。
広場を埋め尽くすゴーレムの数は、なんと三十体。
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