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第33話 男に優しく女に厳しく
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※健太視点に戻ります。
急に始まった看板Vtuber歌劇アンナとのゲリラライブ。
自分でも不思議なほど上手く配信できて、引っ張ってくれたアンナ演じる宝塚さんの実力に感心した。
翌日、学校からの帰りにカレンに駅で待ち伏せされたが、彼女は昔プレゼントしたカバンを見せてきただけで特に何もしてこなかった。
「ごめん、健太! 待った?」
「健ちゃんお待たせ! さ、お昼食べよう!」
ゲリラライブから2日後、いつものように屋上で彼女らと昼飯を食べる。
俺は待ちきれずに好物の焼きそばパンにかじりつくと、菜乃に制服のそでを引っ張られた。
「健太! なんで私より先に宝塚さんとゲリラライブしちゃうのよ!」
「いやいや、昨日謝ったでしょ。それに、宝塚さんから言い出したんだって。あんな大先輩に誘われたら、断れる訳ないでしょ」
昨日さんざん謝ったのに、まだ菜乃がゲリラライブの不満を蒸し返してくる。
「一応、私だって先輩よ! やっぱりあの日、事務所に行けばよかった!」
「菜乃が先輩なのは分かってるって。だいたい、ゲリラライブってそんなにマズかったの?」
正直、菜乃が何に不満なのか分からなくて、聞き返すと彼女は口を尖らす。
「別にマズくはないけど……。ちょっと悔しいの!」
「あ……そっか、ごめん」
口を尖らす菜乃がとても可愛いくて、俺はいい訳するのをやめた。
できれば俺だって菜乃とコラボしたい。
大好きな彼女とコラボ配信ができたら、どんなに幸せだろうか。
でも困った。
菜乃が演じるVtuberナノンと俺が演じるVtuberカルロスは、対立関係だからコラボしにくいんだ。
「私も怒ってるんだよ?」
瑠理に背中を叩かれた。
飲んでいた牛乳が鼻に入ってむせる。
「ゲホゲホ。瑠理にも悪かったって思ってる。お世話になってる先輩を差し置いて、礼儀を欠いたよな」
「そういうことじゃないんだって。もう、健ちゃんのアホ!」
もしかして、瑠理も俺の対応力に魅力を感じて?
いや、瑠理からは頬にキスされてるんだよな……。
つまり菜乃と一緒で、単に俺と仲良くコラボしたいってことなのか?
「えっと、どうすれば許してもらえるの?」
俺がふたりに言うと、菜乃と瑠理は俺越しに目線を合わせて沈黙する。
ふたりが一瞬の間に視線で会話したのが分かった。
互いをけん制する何かが交わされてから……。
彼女たちはうなずき合って声を揃える。
「3人でコラボ配信!!」
それは、面白そうだな!
俺だってやってみたい!
でも、カルロスとナノンは対立関係なんだぞ!
そこへ、ルリアが入って3人で配信って、一体どうすりゃいいんだ?
「ま、まずは栗原専務に相談してみようか。3人ともマネージャーが同じだし」
栗原専務は何て言うだろう。
たぶん盛り上がって視聴者が喜びそうだから、ノリノリでOK出すんだろうなぁ。
菜乃と瑠理はようやく納得したのか、笑顔でお弁当をパクつき始めた。
俺がパンを食べ終えたところで菜乃の電話が鳴る。
「あ、はい。ええ、姫川です。ご無沙汰してます。え? 今日の夕方ですか? 中村さんも? 急ですね。あ、別に嫌な訳じゃ……。はい、伝えます。それじゃ」
「どうしたの?」
会話の中に俺の名前が出たので質問する。
「健太は事務所の先輩で橘あかりさんって知ってる? あいさつくらいはしてると思うけど」
「橘さん? ギャルっぽい人だよね」
「その人が放課後に健太と事務所へ来て欲しいらしいの。相談があるみたい」
「え? 相談? 俺も?」
俺が驚くと、瑠理が怪訝な顔をする。
「橘さんってギャル系Vtuberだよ。ちょっと話が急だし、気を付けた方がいいかもね」
瑠理が不穏なことを口にした。
◇
放課後、俺と菜乃が事務所へ呼び出された。
急にVtuberの先輩から、相談したいことがあると連絡があったのだ。
一度だけあいさつしたことがある、橘あかりという先輩だ。
最初は瑠理も一緒に来ようとしたが、何やら外せない用事ができたらしく、菜乃とふたりで事務所へ行くことになった。
「あのさ、これから会う橘あかりさんってどんな人?」
「私より1年以上前に始めた事務所の先輩なのよ……。短大生でね、ギャル系Vtuberなのよねぇ……」
駅から会社のビルまで歩きながら、菜乃に今日会う相手のことを聞く。
「なんか歯切れ悪いけど?」
「うーん。あまり私とは話さない先輩なの」
菜乃はもともと、誰のことも悪くは言わない。
菜乃は本当に素敵な女性だと思う。
凛としてるのに優しくて、人の嫌がることを決してしないので、学校でも男女を問わず人気がある。
カレンに対してですら、あれだけ嫌な態度を取られても陰口すら言わない。
そんな菜乃が苦手そうにするほどの相手って、一体どんな感じなのか?
ビル3階の事務所入り口に来ると、菜乃が橘先輩にメッセージで到着を伝える。
「遅いしぃ! 何で先輩待たしてんの?」
受付横の扉を開けて顔を出した女性が、俺に笑顔で微笑んだ後、菜乃に向かって文句を言った。
確か彼女が橘さんだ。
でも、ちゃんと時間前に着いたんだけどな。
菜乃とふたりで執務室へ入ると、橘さんは俺の顔だけ見て「ついて来てね」と笑顔で言ってから歩き始めた。
会って早々、菜乃に対して感じが悪い。
以前、愛想がよかったのは、俺だけで挨拶したからかもしれない。
Vtuber瀬戸内オレンジを演じる橘あかりさん。
菜乃の話じゃ、2年前にデビューした事務所の先輩で現在短大生らしい。
お気に入り登録者が15万人の人気者だったはず。
光るほどに明るい金髪を、頭の両横で縛ったツインテール。
こんなド派手なツインテール、アニメ以外じゃ見たことない。
執務室から通路へ出て、会議室へ連れてこられた。
俺が菜乃にキスをした、あの会議室だ。
この会議室を使うたびに、あの甘美な菜乃とのキスを思い出すんだろうな。
カレンの汚れた足へキスした記憶は、すでに薄れてどうでもいいものになった。
俺の思い出のキスは、挑発的な菜乃の生足を攻めて麗しい唇を奪った、あの情熱的な体験へと完全に上書きされている。
「さ、中村さんどうぞ。姫川さん、さっさと入って!」
俺には優しく、菜乃にキツイ態度の橘さんに疑問を抱きながら会議室へ入ると、信じられない相手がそこにいた。
「健太ー、お疲れー」
「カ、カレン……だと!?」
「だとって何よー。まあ驚くのは分かるけどねー」
カレンは偉そうに椅子でふんぞり返ったまま、俺に軽口をたたく。
そのまま顔だけ菜乃の方に向けるとキッと睨んだ。
「さあ、覚悟しなさいよッ! この泥棒猫!!」
急に始まった看板Vtuber歌劇アンナとのゲリラライブ。
自分でも不思議なほど上手く配信できて、引っ張ってくれたアンナ演じる宝塚さんの実力に感心した。
翌日、学校からの帰りにカレンに駅で待ち伏せされたが、彼女は昔プレゼントしたカバンを見せてきただけで特に何もしてこなかった。
「ごめん、健太! 待った?」
「健ちゃんお待たせ! さ、お昼食べよう!」
ゲリラライブから2日後、いつものように屋上で彼女らと昼飯を食べる。
俺は待ちきれずに好物の焼きそばパンにかじりつくと、菜乃に制服のそでを引っ張られた。
「健太! なんで私より先に宝塚さんとゲリラライブしちゃうのよ!」
「いやいや、昨日謝ったでしょ。それに、宝塚さんから言い出したんだって。あんな大先輩に誘われたら、断れる訳ないでしょ」
昨日さんざん謝ったのに、まだ菜乃がゲリラライブの不満を蒸し返してくる。
「一応、私だって先輩よ! やっぱりあの日、事務所に行けばよかった!」
「菜乃が先輩なのは分かってるって。だいたい、ゲリラライブってそんなにマズかったの?」
正直、菜乃が何に不満なのか分からなくて、聞き返すと彼女は口を尖らす。
「別にマズくはないけど……。ちょっと悔しいの!」
「あ……そっか、ごめん」
口を尖らす菜乃がとても可愛いくて、俺はいい訳するのをやめた。
できれば俺だって菜乃とコラボしたい。
大好きな彼女とコラボ配信ができたら、どんなに幸せだろうか。
でも困った。
菜乃が演じるVtuberナノンと俺が演じるVtuberカルロスは、対立関係だからコラボしにくいんだ。
「私も怒ってるんだよ?」
瑠理に背中を叩かれた。
飲んでいた牛乳が鼻に入ってむせる。
「ゲホゲホ。瑠理にも悪かったって思ってる。お世話になってる先輩を差し置いて、礼儀を欠いたよな」
「そういうことじゃないんだって。もう、健ちゃんのアホ!」
もしかして、瑠理も俺の対応力に魅力を感じて?
いや、瑠理からは頬にキスされてるんだよな……。
つまり菜乃と一緒で、単に俺と仲良くコラボしたいってことなのか?
「えっと、どうすれば許してもらえるの?」
俺がふたりに言うと、菜乃と瑠理は俺越しに目線を合わせて沈黙する。
ふたりが一瞬の間に視線で会話したのが分かった。
互いをけん制する何かが交わされてから……。
彼女たちはうなずき合って声を揃える。
「3人でコラボ配信!!」
それは、面白そうだな!
俺だってやってみたい!
でも、カルロスとナノンは対立関係なんだぞ!
そこへ、ルリアが入って3人で配信って、一体どうすりゃいいんだ?
「ま、まずは栗原専務に相談してみようか。3人ともマネージャーが同じだし」
栗原専務は何て言うだろう。
たぶん盛り上がって視聴者が喜びそうだから、ノリノリでOK出すんだろうなぁ。
菜乃と瑠理はようやく納得したのか、笑顔でお弁当をパクつき始めた。
俺がパンを食べ終えたところで菜乃の電話が鳴る。
「あ、はい。ええ、姫川です。ご無沙汰してます。え? 今日の夕方ですか? 中村さんも? 急ですね。あ、別に嫌な訳じゃ……。はい、伝えます。それじゃ」
「どうしたの?」
会話の中に俺の名前が出たので質問する。
「健太は事務所の先輩で橘あかりさんって知ってる? あいさつくらいはしてると思うけど」
「橘さん? ギャルっぽい人だよね」
「その人が放課後に健太と事務所へ来て欲しいらしいの。相談があるみたい」
「え? 相談? 俺も?」
俺が驚くと、瑠理が怪訝な顔をする。
「橘さんってギャル系Vtuberだよ。ちょっと話が急だし、気を付けた方がいいかもね」
瑠理が不穏なことを口にした。
◇
放課後、俺と菜乃が事務所へ呼び出された。
急にVtuberの先輩から、相談したいことがあると連絡があったのだ。
一度だけあいさつしたことがある、橘あかりという先輩だ。
最初は瑠理も一緒に来ようとしたが、何やら外せない用事ができたらしく、菜乃とふたりで事務所へ行くことになった。
「あのさ、これから会う橘あかりさんってどんな人?」
「私より1年以上前に始めた事務所の先輩なのよ……。短大生でね、ギャル系Vtuberなのよねぇ……」
駅から会社のビルまで歩きながら、菜乃に今日会う相手のことを聞く。
「なんか歯切れ悪いけど?」
「うーん。あまり私とは話さない先輩なの」
菜乃はもともと、誰のことも悪くは言わない。
菜乃は本当に素敵な女性だと思う。
凛としてるのに優しくて、人の嫌がることを決してしないので、学校でも男女を問わず人気がある。
カレンに対してですら、あれだけ嫌な態度を取られても陰口すら言わない。
そんな菜乃が苦手そうにするほどの相手って、一体どんな感じなのか?
ビル3階の事務所入り口に来ると、菜乃が橘先輩にメッセージで到着を伝える。
「遅いしぃ! 何で先輩待たしてんの?」
受付横の扉を開けて顔を出した女性が、俺に笑顔で微笑んだ後、菜乃に向かって文句を言った。
確か彼女が橘さんだ。
でも、ちゃんと時間前に着いたんだけどな。
菜乃とふたりで執務室へ入ると、橘さんは俺の顔だけ見て「ついて来てね」と笑顔で言ってから歩き始めた。
会って早々、菜乃に対して感じが悪い。
以前、愛想がよかったのは、俺だけで挨拶したからかもしれない。
Vtuber瀬戸内オレンジを演じる橘あかりさん。
菜乃の話じゃ、2年前にデビューした事務所の先輩で現在短大生らしい。
お気に入り登録者が15万人の人気者だったはず。
光るほどに明るい金髪を、頭の両横で縛ったツインテール。
こんなド派手なツインテール、アニメ以外じゃ見たことない。
執務室から通路へ出て、会議室へ連れてこられた。
俺が菜乃にキスをした、あの会議室だ。
この会議室を使うたびに、あの甘美な菜乃とのキスを思い出すんだろうな。
カレンの汚れた足へキスした記憶は、すでに薄れてどうでもいいものになった。
俺の思い出のキスは、挑発的な菜乃の生足を攻めて麗しい唇を奪った、あの情熱的な体験へと完全に上書きされている。
「さ、中村さんどうぞ。姫川さん、さっさと入って!」
俺には優しく、菜乃にキツイ態度の橘さんに疑問を抱きながら会議室へ入ると、信じられない相手がそこにいた。
「健太ー、お疲れー」
「カ、カレン……だと!?」
「だとって何よー。まあ驚くのは分かるけどねー」
カレンは偉そうに椅子でふんぞり返ったまま、俺に軽口をたたく。
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