学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀

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第26話 事故紹介でシスコンに

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 ようやくカルロスとしての初配信を開始した。
 菜乃や瑠理はもちろん、栗原専務や事務所のスタッフも期待してる。
 絶対に成功させたい。
 序盤は瑠理演じるVtuberルリア・カスターニャのおかげで予定通りに進んでいた。
 しかしだ!
 俺の部屋の戸にカギがかからないせいで、学校から帰宅した真利が普通に部屋へ入ってきてしまった。

「もう、健太にい。いつの間に帰ってたのよ」

 わああああーーーー!!
 真利ィィイイ!!!!
 今しゃべっちゃダメだろう!!

「ねえってば! いつVtuberのこと教えてくれるの?」

 俺は声を出さずに、自分の口へひとさし指を当てて、静かにするようジェスチャーで訴える。
 真利は首をかしげており、俺が何を伝えたいのか分からないらしい。
 俺のすぐそばまで近づいてきた。

「詳しくは健太にいから聞いてって言われたの!」

 困ったな。
 どうやってしゃべるのをやめさせるか。
 しかたない。

 俺は、再度自分の口に右手のひとさし指を当ててから、さらに、彼女の口に左手のひとさし指を当てる。
 そのまま彼女と目を合わせて、小さく2回うなずいてみせた。

 話すのをやめた真利は、急に顔を赤くして頬を両手で押さえた。
 よかった、自分の失敗に気づいてくれたらしい。

《誰だ?》《女?》《家族では?》《何これ事故?》
《ケンタにいだってww》《妹か?》《妹じゃね?》

 俺に自己紹介をうながしたルリアは、突然女性の声が聞こえて戸惑っている。

『おい、貴様、一体誰が入ってきたのだ? あ、分かった! あ、いや。えーと……なんでもないな』

《ルリア困惑》《知ってるな?》《俺だけに教えて》

 そばにいた真利が、頬を染めたまま顔を近づけて俺を見つめる。

「えっと、あの。うん、いいよキス!? 私も健太にいと……ずっとキスしたかった!」

 へ?
 お、おまえ、急に何を言ってんだ?
 俺はただ自分と彼女の唇に指を当てて、静かにするよう伝えただけで……。
 ま、まさか勘違いさせた?
 真利の奴、いつも早とちりするから!

「でも私、ファーストキスだから、舌入れるのとかはまだナシでお願いね♡」

 真利もキスが初めてなんだな…………。
 ってかオイッ!!
 いま配信中なんだぞ!?
 声が、入っちゃってんだよぉぉおおおお!!!!

《キス?》《キキキキスだと!?》《妹とキスなの?》
《妹お!!》《ナンダコレハ》《ケンタおまえ〇ス》
《妹ファーストキスあげちゃう》《舌入れ――!!》
《ケンタ裏山》《妹とキスとか》《呪う!末代まで》

『あ、あのさ、いま配信中で……』

 俺は背に腹を変えられず声に出して訴えると、真利はポンと手を叩いて無言でうなずいた。

 こ、これはまずい……。
 妹が俺とキスしたいとリスナーに誤解された。
 妹じゃないと正直に言うか?
 いや、遠い親戚だと伝えると、ただのリア充モテ男アピールになるだけだ。
 そんなの視聴者ウケが悪いだろ!
 最初から男も女もファンがゼロになる。
 さすがにそれはダメだ。
 でも、どうしたら……。

 そこへ、ルリアからツッコミが入る。

『カルロス! 貴様、いい加減にしろ! 妹まで登場させてシスコンアピールとはどういうつもりだ! こんな自己紹介は前代未聞だぞ!』
「にいにい。もっと私と仲良くして」

 何! ルリアがノッただと!?
 ってことは、瑠理はこれでイケと言ってる??

 真利を見るとウインクした。
 まったく困った娘だ!
 もうこうなればヤケクソである。

『妹よ。兄妹ふたりの愛は永遠だッ!!』

《なに?》《どゆこと?》《シスコンアピール?》
《綺麗な兄妹愛なの?》《違うだろ?》《義妹か?》

 このキャラは大丈夫なのか?
 重度のシスコンってやばくないか?
 っていうか、妹って誰?
 真利は従妹いとこだぞ?
 でも、もうこのままいくしか道が……。

『義妹? まさか。当然実妹だ! そして俺は世界の女性で妹が一番大切なんだ』

《なんて自己紹介だ》《シスコンだ》《ガチの奴だ》
《初配信カミングアウト》《なにコイツレベル高い》
《気持ち分かる》《俺も》《同志よ》《←やべえよ》

 それにしてもルリアは凄い。
 打ち合わせにないハプニング……、っていうか事故なのに、ベテランだけあって普通に反応してくる。

『それでカルロスよ。お前、ナノンとはどんな確執があるんだ?』
『まだ、それは明かせない。おいおいだな』

《引っ張ることか》《気になる》《いや俺分かった》
《シスコンが原因》《シスコンが元凶》《妹ラブ》

『まったく。とんでもない後輩ができたもんだ。フン、自己紹介もできたようだし、これで我輩は帰るぞ!』
『ああ、帰っていいぞ。もう俺の妹愛は伝わったしな。今後も俺の配信では、こんな感じで妹愛を伝えていく! いろんな妹企画を立てるから、ぜひ楽しみにしてて欲しい!』

《ブレないな》《それでこそシスコン》《妹見たい》
《コイツ何系》《シスコン系》《妹系》《妹系とか》
《妹企画とか草》《普通に見たいだろ》《おもろ!》
《総研初の男で腹立ったが実は変態》《変態は推す》

◇◇◇

 こうして俺は、初回からしっかり放送事故を起こして配信を終了した。
 ナカムラ・カルロス・ケンタは、なんかよく分からないが、シスコンキャラとしてリスナーに受け入れられたようだ。

「だがな、俺には妹がいないんだぞ! 真利! 一体どうすんだよ!!」
「大丈夫よ、健太にい。私がフォローしてあげる!」

 俺がパニクって真利に愚痴をこぼすと、横にいた彼女はひとさし指を自分に向けて、にっこり微笑んだ。

 ……いや、そもそもおまえ、妹じゃないだろ!?

 そのすぐ後、当たり前のように栗原専務からの電話が鳴った。



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