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第16話 全ては姫川菜乃のため
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菜乃の謝罪配信に、同じ事務所の大人気Vtuberルリア・カスターニャが乱入。
混乱する場の空気を一気に変えてしまった。
しかも、ルリアの正体は信じられないことに、俺と同じクラスの栗原瑠理。
そしてルリアは配信でおかしな告白をした。
ナカムラケンタとは、Vtuberデビューするナカムラ・カルロス・ケンタであり、菜乃と確執があると言い出したのだ。
「栗原があのルリアだとは……。俺、まだ実感湧かないよ」
「そうね。私も同じ学校に同じ事務所の先輩がいるなんて、夢にも思わなかった」
菜乃のマンションを出て3人で駅へ向かう道すがら、先程の驚きを栗原に伝える。
すると彼女は、俺と菜乃の反応に得意そうだ。
「そりゃあ、身バレしないように隠してたもん。でもね、姫ちゃんがナノンだって私も知らなかったんだ。姫ちゃんだって知ったのは、今日のサプライズを指示された昨日の夜だしねー」
それを聞いた菜乃が不思議そうにする。
「私は週に2回事務所へ行ってるけど、栗原さんに会ったことがないわ」
「ああ、そっかぁ。私がほとんど事務所へ行かないからだね。行かなくても済んじゃうからだけど。だからほかのVのリアルとか全然知らないんだー」
栗原は普段から明るいが、今はそれ以上にとても楽しそうだった。
きっと誰にも明かせない境遇を、一緒に分かち合える仲間に出会えたからなんだろう。
「でも、栗原は俺にまで正体を明かしてよかったのか?」
菜乃と栗原なら同じ事務所だし、コラボした者同士で当然問題ないだろうけど、俺は部外者なんだよね。
「うん。健ちゃんは……ほら、特別だから!」
なるほど。
同じコアなゲーム好きの俺には、特別に教えてくれるということか。
持つべきものはゲーム好きだな。
菜乃が栗原のことをじっと見ている。
菜乃も特別扱いされてるよな。
なんせあのルリアがサプライズだし。
本当に凄いことだ。
いま向かってるのは、彼女たちの事務所。
カワイイ総合研究所だ。
Vtuberたちは、個人でこの事務所に所属してタレント活動をしている。
配信は多少の設備があれば自宅でもできる。
だが配信内容の打ち合わせや、歌やダンスのレッスン、大規模コラボなんかは事務所でするらしい。
栗原がなぜ事務所へ顔を出さずにすむのかが分からない。
少なくともマネージャーとの打ち合わせや各種契約の更新はある訳で、事務所へ行く必要はあると思うのだが。
事務所のあるビルの3階へ到着すると、菜乃が無人受付でマネージャーを呼び出す。
「姫川です。いま受付へ来ました。ハイ。ええ、3人です。佐藤マネージャーお願いします」
少しすると受付横の扉が開いて、女性が登場した。
黒のスーツに黒のヒールを履いており、グラマーではなく細身でスタイルの良い女性。
黒く長い髪は艶があり、派手ではないがポイントを抑えたメイクが品の良さを引き出している。
一言で表すなら凄い美人だ。
綺麗な姿勢で俺の前へくると丁寧にお辞儀された。
「こんばんは。株式会社ルアーでタレント事務所のカワイイ総合研究所を任されております、栗原香織と申します」
あれ?
マネージャーは佐藤さんじゃないのかな?
それにこの人誰かに似ているような?
名刺を渡されたが、ただ受け取るだけだ。
高校生の俺は当然名刺なんて持ってない。
ふと横を見ると菜乃が慌てている。
何でだろうと受け取った名刺を見ると、専務取締役と書かれていた。
専務って相当偉いよな?
常務とどっちが偉いんだろ?
栗原専務からついて来るよう促され、3人で後に続いて執務室横の廊下を歩く。
執務室は結構広く、思ってたより人が多かった。
所属Vは多くなくても、支える人たちはそれなりにいるんだな。
彼女は一番奥の部屋に俺たちを通すと、応接用のソファへ座る様に勧めた。
「今日は大変だったようだな」
栗原専務は少し低い声で優しく菜乃に話しかけた。
「あ、はい。あの今日はルリアちゃんにコラボで助けていただきました」
恐縮する菜乃の言葉に、栗原が付け加える。
「昨日、お姉ちゃんがコラボを言い出したときはびっくりしたわよ!」
「瑠理。会社では専務と呼びなさい」
今、何と?
お姉ちゃんとな?
俺と菜乃がきょとんとすると、栗原が専務の横に移動して腕にしがみついた。
「ほら、こうしてみると似てるでしょ?」
「こら、今はやめなさい」
背が頭ふたつほど違いそうだが、確かに顔かたちや目鼻立ちがそっくりだ。
だが性格や声質は驚くほど違う。
お姉さんの方は、落ち着いた雰囲気に艶のある低い声、美女を地で行くようなタイプだ。
「姫川さん、昨日マネージャーの佐藤が話したと思うが、少しだけ売り方を変えたい」
「はい。どんな感じにですか?」
「今回の配信事故のこともあるからな。いっそ迷惑系Vtuberとしてあらたな道を切り開いて欲しい」
「え、ええ!? め、迷惑系ですか!?」
「ただし、お決まりのパターンとしてリスナーが期待し、笑えるヤツだ」
「えと、なんかよく分からないです」
「漫才のようなものだ。漫才は片方がボケて、もう片方の相方が突っ込むでしょう? あれと同じだ」
「漫才をするんですか?」
「具体的には、姫川さんが別のVtuberを突っ込むネタで配信して、相手がそれに憤慨したり、反論する様子を配信する」
「でも、それって相手のVtuberさんに相当迷惑がかかるんじゃ……」
菜乃があからさまに困ったそぶりを見せる。
彼女は人を傷つけることは嫌いなんだ。
性格と合わないキャラを無理強いするのは、失敗するんじゃないか?
俺が疑問をいだいて栗原専務を見ると、彼女も俺の方を見てきた。
「そこでナカムラ・カルロス・ケンタの出番なのだ」
栗原専務は明らかに俺を見て言っている。
俺は、へー、ここでカルロスの出番かと思いながらも、徐々にその視線が何を意味するか理解した。
「え? ええーー!? お、俺ですか??」
「そうだ。察しがいいな」
彼女は足を組み替えると満足そうにうなずいた。
「で、でも俺、ライバーじゃないし……」
「ウチの事務所からデビューしてもらう。表向きはVtuber聖天使ナノンと因縁がある、新人Vtuberナカムラ・カルロス・ケンタとしてな」
「ちょ、ちょっと待ってください! 急にそんなこと言われても!」
「姫川さんの今回の騒動を正当化し、彼女を新たなステージへ推し上げるためだ。悪くない選択だろう?」
いや、待ってくれ!
いくら何でもいきなり過ぎるだろ!
しかも菜乃のためにやれとか、持っていき方がズルい気もするし。
横にいる菜乃を見ると、何とも言えない表情で俺を見ている。
「健太が嫌なら無理しなくても……。でも一緒に出来ると嬉しいって思ってるよ」
「いやこれ、ナノンが迷惑系Vtuberとして、俺に迷惑配信してくる形なんだよね?」
栗原専務が尻込みする俺の手をさっと掴んでくる。
「今回のプロジェクトは、我が事務所でも初の取り組みだ。中村さんのマネージメントは、私が直接担当するから安心してくれ。姫川さんのマネージメントも佐藤から私に変更するぞ」
「大丈夫、大丈夫。健ちゃんならできるって! フォローしてあげるし。一緒にVtuberやろ? ちなみに私のマネージャーもお姉ちゃんなんだよ!」
栗原が陽気にVサインを突き出してきた。
女性3人からぐいぐい迫られた俺は、本来なら持ち帰ってじっくり検討すべき重要案件なのに、決断力のある姿を強く要求されてしまい……。
結局、この場で契約書にサインしてしまった。
Vtuberナカムラ・カルロス・ケンタ誕生である。
ちなみに、カワイイ総合研究所という事務所名でも分かるが、この事務所は女性Vしか所属していない。
だがそんな女性Vtuber事務所へ、男性の俺がたったひとりで登録することになったのだ!
いや俺は、決して女性Vとウフフキャッキャするためにカルロスになるのではない。
ましてや自分が大人気Vtuberになろうと、野心を持っている訳でもない。
俺なんぞ、会話下手な陰キャで人を笑わせるなんて得意じゃないんだから。
その俺が契約書にサインしたのは全て菜乃のため!
俺は菜乃をトップVtuberに押し上げるため、ただそのために活動すると決意したのだ。
配信事故で聖天使ナノンのチャンネル登録者は激増した。
事故前3.2万人から、今日の配信前で8万人。
そして今日の謝罪配信では、ルリアが乱入したこともあり、絶対登録者が増えているはずだ。
この調子でナノンの人気を上げ続けるんだ。
そして登録者100万人のルリアを超える人気Vtuberにしてやる!
俺がVtuberをやる目標はこれだ!!
※現在のチャンネル登録者数
聖天使ナノン
登録者12万人
ルリア・カスターニャ
登録者103万人
ナカムラ・カルロス・ケンタ
登録者0人
混乱する場の空気を一気に変えてしまった。
しかも、ルリアの正体は信じられないことに、俺と同じクラスの栗原瑠理。
そしてルリアは配信でおかしな告白をした。
ナカムラケンタとは、Vtuberデビューするナカムラ・カルロス・ケンタであり、菜乃と確執があると言い出したのだ。
「栗原があのルリアだとは……。俺、まだ実感湧かないよ」
「そうね。私も同じ学校に同じ事務所の先輩がいるなんて、夢にも思わなかった」
菜乃のマンションを出て3人で駅へ向かう道すがら、先程の驚きを栗原に伝える。
すると彼女は、俺と菜乃の反応に得意そうだ。
「そりゃあ、身バレしないように隠してたもん。でもね、姫ちゃんがナノンだって私も知らなかったんだ。姫ちゃんだって知ったのは、今日のサプライズを指示された昨日の夜だしねー」
それを聞いた菜乃が不思議そうにする。
「私は週に2回事務所へ行ってるけど、栗原さんに会ったことがないわ」
「ああ、そっかぁ。私がほとんど事務所へ行かないからだね。行かなくても済んじゃうからだけど。だからほかのVのリアルとか全然知らないんだー」
栗原は普段から明るいが、今はそれ以上にとても楽しそうだった。
きっと誰にも明かせない境遇を、一緒に分かち合える仲間に出会えたからなんだろう。
「でも、栗原は俺にまで正体を明かしてよかったのか?」
菜乃と栗原なら同じ事務所だし、コラボした者同士で当然問題ないだろうけど、俺は部外者なんだよね。
「うん。健ちゃんは……ほら、特別だから!」
なるほど。
同じコアなゲーム好きの俺には、特別に教えてくれるということか。
持つべきものはゲーム好きだな。
菜乃が栗原のことをじっと見ている。
菜乃も特別扱いされてるよな。
なんせあのルリアがサプライズだし。
本当に凄いことだ。
いま向かってるのは、彼女たちの事務所。
カワイイ総合研究所だ。
Vtuberたちは、個人でこの事務所に所属してタレント活動をしている。
配信は多少の設備があれば自宅でもできる。
だが配信内容の打ち合わせや、歌やダンスのレッスン、大規模コラボなんかは事務所でするらしい。
栗原がなぜ事務所へ顔を出さずにすむのかが分からない。
少なくともマネージャーとの打ち合わせや各種契約の更新はある訳で、事務所へ行く必要はあると思うのだが。
事務所のあるビルの3階へ到着すると、菜乃が無人受付でマネージャーを呼び出す。
「姫川です。いま受付へ来ました。ハイ。ええ、3人です。佐藤マネージャーお願いします」
少しすると受付横の扉が開いて、女性が登場した。
黒のスーツに黒のヒールを履いており、グラマーではなく細身でスタイルの良い女性。
黒く長い髪は艶があり、派手ではないがポイントを抑えたメイクが品の良さを引き出している。
一言で表すなら凄い美人だ。
綺麗な姿勢で俺の前へくると丁寧にお辞儀された。
「こんばんは。株式会社ルアーでタレント事務所のカワイイ総合研究所を任されております、栗原香織と申します」
あれ?
マネージャーは佐藤さんじゃないのかな?
それにこの人誰かに似ているような?
名刺を渡されたが、ただ受け取るだけだ。
高校生の俺は当然名刺なんて持ってない。
ふと横を見ると菜乃が慌てている。
何でだろうと受け取った名刺を見ると、専務取締役と書かれていた。
専務って相当偉いよな?
常務とどっちが偉いんだろ?
栗原専務からついて来るよう促され、3人で後に続いて執務室横の廊下を歩く。
執務室は結構広く、思ってたより人が多かった。
所属Vは多くなくても、支える人たちはそれなりにいるんだな。
彼女は一番奥の部屋に俺たちを通すと、応接用のソファへ座る様に勧めた。
「今日は大変だったようだな」
栗原専務は少し低い声で優しく菜乃に話しかけた。
「あ、はい。あの今日はルリアちゃんにコラボで助けていただきました」
恐縮する菜乃の言葉に、栗原が付け加える。
「昨日、お姉ちゃんがコラボを言い出したときはびっくりしたわよ!」
「瑠理。会社では専務と呼びなさい」
今、何と?
お姉ちゃんとな?
俺と菜乃がきょとんとすると、栗原が専務の横に移動して腕にしがみついた。
「ほら、こうしてみると似てるでしょ?」
「こら、今はやめなさい」
背が頭ふたつほど違いそうだが、確かに顔かたちや目鼻立ちがそっくりだ。
だが性格や声質は驚くほど違う。
お姉さんの方は、落ち着いた雰囲気に艶のある低い声、美女を地で行くようなタイプだ。
「姫川さん、昨日マネージャーの佐藤が話したと思うが、少しだけ売り方を変えたい」
「はい。どんな感じにですか?」
「今回の配信事故のこともあるからな。いっそ迷惑系Vtuberとしてあらたな道を切り開いて欲しい」
「え、ええ!? め、迷惑系ですか!?」
「ただし、お決まりのパターンとしてリスナーが期待し、笑えるヤツだ」
「えと、なんかよく分からないです」
「漫才のようなものだ。漫才は片方がボケて、もう片方の相方が突っ込むでしょう? あれと同じだ」
「漫才をするんですか?」
「具体的には、姫川さんが別のVtuberを突っ込むネタで配信して、相手がそれに憤慨したり、反論する様子を配信する」
「でも、それって相手のVtuberさんに相当迷惑がかかるんじゃ……」
菜乃があからさまに困ったそぶりを見せる。
彼女は人を傷つけることは嫌いなんだ。
性格と合わないキャラを無理強いするのは、失敗するんじゃないか?
俺が疑問をいだいて栗原専務を見ると、彼女も俺の方を見てきた。
「そこでナカムラ・カルロス・ケンタの出番なのだ」
栗原専務は明らかに俺を見て言っている。
俺は、へー、ここでカルロスの出番かと思いながらも、徐々にその視線が何を意味するか理解した。
「え? ええーー!? お、俺ですか??」
「そうだ。察しがいいな」
彼女は足を組み替えると満足そうにうなずいた。
「で、でも俺、ライバーじゃないし……」
「ウチの事務所からデビューしてもらう。表向きはVtuber聖天使ナノンと因縁がある、新人Vtuberナカムラ・カルロス・ケンタとしてな」
「ちょ、ちょっと待ってください! 急にそんなこと言われても!」
「姫川さんの今回の騒動を正当化し、彼女を新たなステージへ推し上げるためだ。悪くない選択だろう?」
いや、待ってくれ!
いくら何でもいきなり過ぎるだろ!
しかも菜乃のためにやれとか、持っていき方がズルい気もするし。
横にいる菜乃を見ると、何とも言えない表情で俺を見ている。
「健太が嫌なら無理しなくても……。でも一緒に出来ると嬉しいって思ってるよ」
「いやこれ、ナノンが迷惑系Vtuberとして、俺に迷惑配信してくる形なんだよね?」
栗原専務が尻込みする俺の手をさっと掴んでくる。
「今回のプロジェクトは、我が事務所でも初の取り組みだ。中村さんのマネージメントは、私が直接担当するから安心してくれ。姫川さんのマネージメントも佐藤から私に変更するぞ」
「大丈夫、大丈夫。健ちゃんならできるって! フォローしてあげるし。一緒にVtuberやろ? ちなみに私のマネージャーもお姉ちゃんなんだよ!」
栗原が陽気にVサインを突き出してきた。
女性3人からぐいぐい迫られた俺は、本来なら持ち帰ってじっくり検討すべき重要案件なのに、決断力のある姿を強く要求されてしまい……。
結局、この場で契約書にサインしてしまった。
Vtuberナカムラ・カルロス・ケンタ誕生である。
ちなみに、カワイイ総合研究所という事務所名でも分かるが、この事務所は女性Vしか所属していない。
だがそんな女性Vtuber事務所へ、男性の俺がたったひとりで登録することになったのだ!
いや俺は、決して女性Vとウフフキャッキャするためにカルロスになるのではない。
ましてや自分が大人気Vtuberになろうと、野心を持っている訳でもない。
俺なんぞ、会話下手な陰キャで人を笑わせるなんて得意じゃないんだから。
その俺が契約書にサインしたのは全て菜乃のため!
俺は菜乃をトップVtuberに押し上げるため、ただそのために活動すると決意したのだ。
配信事故で聖天使ナノンのチャンネル登録者は激増した。
事故前3.2万人から、今日の配信前で8万人。
そして今日の謝罪配信では、ルリアが乱入したこともあり、絶対登録者が増えているはずだ。
この調子でナノンの人気を上げ続けるんだ。
そして登録者100万人のルリアを超える人気Vtuberにしてやる!
俺がVtuberをやる目標はこれだ!!
※現在のチャンネル登録者数
聖天使ナノン
登録者12万人
ルリア・カスターニャ
登録者103万人
ナカムラ・カルロス・ケンタ
登録者0人
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