学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀

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第12話 美少女同行は断れない

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 昨日の配信事故でナカムラケンタというフルネームが漏れるわ、朝に菜乃が俺にフラれたと嘘を広めるわで、今日一日は本当に大変だった。

 午後の授業が終わると、他のクラスの奴らまで俺の席にやってきたが、朝と同じで「知らん」と答え続けたら諦めて帰っていった。
 やはり菜乃を気遣っていると思われたようで、みんなから「つまらないが仕方ないか」と言われた。

 ようやく解放されたので大急ぎで学校を出る。
 今日も菜乃の配信に付き合う約束をしていて、彼女の家の最寄り駅で待ち合わせているからだ。

《ごめん、今から学校を出るよ》
《うん。気を付けてね》

 どうやら菜乃は待ち合わせ場所に着いてるようだ。
 俺はこんなに質問攻めにあったのに、当の本人が先に着いて待っているのを不思議に感じる。

 菜乃のことを考えながら駅まで歩いていたら、なんだか妙な背徳感を覚えた。

 カレンは今日、ズル休みでいない。
 幼馴染みのいない日に、違う女性との待ち合わせ。
 慣れないせいで、悪いことをしている気がする。
 でも、待ち合わせの相手は自分の彼女だ。
 だから別に、何も悪くはないのだと思い直す。

 学校最寄りの駅からひとつ先の駅で降りると、改札の外に菜乃がいた。
 まるでそこだけが、光輝いてる気がする。

「待たせてごめん」
「全然平気よ。今来たところだから」

 待ち合わせで、定番のやり取りができて嬉しい。
 カレンは待ち合わせにいつも遅れて来たし、それを俺だけが一方的に気遣っていた。
 お互いが相手を大切にする関係って素敵なんだな。

「菜乃は大変じゃなかった? 話聞かれたでしょ?」
「ぜんぜん。私には誰も何も聞いてこなかったわ」

 なんでだろう?
 フラれた女性に対して気を遣ったのかな?
 まあ菜乃は綺麗すぎて、話しかけづらいオーラがあるから、相乗効果で誰も話題にできなかったのかな?
 わかった!
 きっと、その分も俺のところに来たんだ!

「あ、あのさ。今日、家の人は?」
「ママ? 旅行からは明日帰ってくるのよ」

 何!? 今日も菜乃は家にひとりなのか!?

 昨日に引き続き、今日もふたり切りになれる。
 この事実の判明で急に胸の鼓動が早くなりだした。

 さっそく菜乃のマンションに向かって歩き出そうとしたところで、急に声をかけられる。

「ちょっと! ふたりでコソコソ何するの??」

 驚いて振り返ると、なんとそこには栗原瑠理るり
 黒髪ロングで低身長の栗原が、腰に両手を当てて俺らを見ていた。

「え、あ、その……」
「ね、ねぇ……」

 隠しごとが多すぎて、俺も菜乃も口ごもる。

「く、栗原こそ何してんだよ」
「あ、いやー、定期が切れるから買いに来たんだけど、偶然ふたりを見かけたから……」

 どうもいい訳が胡散臭い。

「そう。じゃ、俺たちはこれで……」
「あのさ! 配信だよね! ごめん、あのとき携帯のメッセージ見ちゃってね」

「やっぱり、見られてたのか……」

 ひたいに手を当ててため息をつくと、菜乃がのぞき込んでくる。

「ねえ、どういうこと?」

 俺は、栗原が携帯を拾ってくれたとき、メッセージ画面が開いたままだったことを菜乃に伝えた。

「お願い、姫川さん。私、聖天使ナノンの大ファンなんだ!」
「そうなの? 嬉しいけど……うーん、困ったわね」

「いや、それにしたって、普通声かける? 男女ふたりでいるのに」
「だってふたり、付き合ってる訳じゃないでしょ?」

 そう言って栗原が菜乃を見上げる。
 小柄な栗原がスタイルのいい菜乃を見上げて話すさまは、まるで小学生が女子大生と話しているようだ。

「も、もちろんよ。まったく付き合ってないわ。わ、私、フラれたもの。ね、ねぇ? ……中村さん」
「そ、そりゃそうだ。なあ、……姫川さん」

 俺たちのやり取りを見た栗原は、自分の正しさを確認したのか得意そうに胸を張った。
 小柄で幼い栗原が胸を張っても、幼い少女がドヤってるようにしか見えない。

「だって、健ちゃんには幼馴染みのカレンちゃんがいるもん。趣味の合う私ですら諦めてるんだよ。いくら姫川さんが綺麗でも、さすがに幼馴染みには敵わないよね」

 栗原の反応に少し驚いた菜乃は、俺を見た後に栗原のマネをして機嫌よさげに胸を張った。
 菜乃が胸を張るとスタイルがいいので色っぽい。

「そうね、幼馴染みには敵わないわ。うふふ。ねぇ、栗原さん。絶対に秘密を守るって約束してくれるなら、家へご招待するわ。ねぇ、健……中村さん。どうかしら?」

 急に機嫌がよくなった菜乃は、栗原が一緒に来るのをOKすると俺に同意を求めた。

 Vtuberの菜乃がOKなら俺が反対するのも変だ。
 それに、俺と菜乃は付き合ってない体裁。
 俺と菜乃がふたり切りでいるべき理由もないのに、クラスメイトの栗原だけ追い返すのは変だし。

 仕方がないなと、俺も栗原が一緒に菜乃の家へ行くことを了承した。

 話の流れで同行することになった栗原は、歩きながら得意そうに俺たちを見る。

「どうせ、Vtuber好きの健ちゃんに姫川さんが配信を見せてて漏れたんでしょ? 任せてよね。私が何とかしてあげるから」

 栗原が軽く胸を叩いて得意そうにした。
 任せろと言った栗原の態度に、俺も菜乃も意味が分からず顔を見合わせた。
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