学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀

文字の大きさ
上 下
9 / 49

 第9話 幼馴染みの攻撃ターン

しおりを挟む
 俺は優しくて可愛い菜乃と付き合うことになった。
 だけどそれは、秘密の関係。
 菜乃がVtuber聖天使ナノンを続けていくには、万が一身バレしたときを考えて、恋人がいるのを隠す必要があるからだ。

 翌朝。
 幼馴染みのカレンを家へ迎えに行くこともなく、真っすぐ駅へ向かう。
 本来なら死ぬほど落ち込みながら登校するところだが、俺の足取りはむしろ軽い。

 なぜなら、菜乃とメッセージで《おやすみ》と《おはよう》のやり取りをしたからだ。

 カレンと登校してたときは、朝は忙しいから送ってくるなと言われてたし、寝るときはたまに返事をくれるくらいだった。
 それが昨日の夜も今朝も、菜乃の方からメッセージをくれた。

 我ながら単純だ。
 こんなことが嬉しくてしょうがない。
 今夜は俺の方から先に《おやすみ》を送りたい。
 でも、時間が早すぎたら変だし、結構タイミングが難しい。

 そんなことを考えながら電車を降りて駅から出ると、聞き慣れた声で話しかけられた。

「あら、健太じゃない。おはよー」
「カレン!」

 俺の身体は無意識にこわばった。
 いつもならカレンからのメッセージへ大急ぎで返信するのに、何件もほったらかしたからだ。

 だが、てっきり不機嫌かと思った彼女は、朝から笑顔だった。
 というか、俺を見てニヤニヤしている。

「あっれー? 姫川さんがいないじゃない??」
「ああ、彼女は……」

「やっぱ、見栄張ってたんだー。どうせ彼女に頼み込んだんでしょ? 私の前で優しくしてくれって!」
「そんな訳ないだろ」

「ハイまた強がったー。現にあなただけじゃない?」
「いや、だからこれには事情が……」

「聞きなさいっ。健太が私に謝らないから、私、本当に別の人と一緒に登校することにしたのよ!」
「え?」

 帰り際、三浦とあの剣幕でケンカしていたんだ。
 てっきりカレンもひとりだと思ってた。
 三浦と仲直りしたのか?

「ハーイ、彼が私と一緒に登校する前田君でーす!」

 カレンが合図すると、うちの制服を着てそばに立っていた男が急に寄って来た。
 妙に痩せててチャラい感じだ。

「あ~俺、前田っす。で? おまえ、誰? 美崎ちゃんとはどんな関係? あ、元彼だったり?」
「中村だ。おまえこそカレンと、どんな関係だ?」

 前田を見ながら、三浦はどうしたのかと思案する。

「気にしないで前田君。彼、単なる幼馴染みなんだー。前はカワイソーだから私が一緒に登校してあげてたんだよ? でも残念。今日はおひとり様なんだってー」
「へえ、そりゃ残念だ。カワイソ~になぁ、中村君」

 俺はよく知らない前田に挑発されたが、カレンの言動から三浦の次の男なんだと理解できた。

「カレン……。ああ、俺と登校しないのはもう分かったよ。前田君、カレンをよろしくな」
「え、健太!? あれ? 何で!? ちょっと健太ー! あんたそれでいいの? 私ー、違う男と登校しちゃうんだよー?」
「よかったぜ、美崎ちゃん! 幼馴染み君からお墨付きが出ちゃったし。さぁ、ふたり仲良く学校行っこうぜ~」

 カレンは困惑し混乱しているように見えたが、徐々に怒りの表情に変わる。
 彼女は辺りを見回すと、口の端を上げて悪い笑みを浮かべた。
 そして、急にさっきよりも大声をだす。

「健太ー! 私ね、超悲しー思いしたんだよ? メッセージの返信もくれず、全部無視なんてヒドイよー! 幼馴染みの私にどうしてそんなに冷たくするの?」

 カレンが大声で酷い扱いを受けたと訴えたのだ。

 人通りの多い駅前で、しかも今は通学時間。
 学生にとって幼馴染みというワードは、かなりインパクトが大きいようだ。
 周りにいた同じ学校の生徒たちが、みんな何ごとかと足を止める。

「あれ、うちの制服じゃないか。朝から修羅場か?」
「幼馴染みに酷いことしたんだって」
「え? 男として最低だな。相手、幼馴染みだろ?」
「それなのに謝んないで、連絡も無視らしいよ?」
「ありえないだろ?」
「私、男の顔覚えとこ。あ、写真の方がいいかな?」

 マズい!
 やじ馬が完全に誤解してるじゃないか!
 急に表情が変わったと思ったら、カレンはこれを狙ったのか。

 これ、相当怒ってるよな?
 だからこんな仕打ちをしてくるんだ。

 そもそも、俺にはもうカレンへの未練がない。
 なので、カレンから俺への直接ダメージはゼロ。

 だけど、人の多い駅前でこんなに注目されてしまった。
 これじゃ、まるでさらしものだ!
 悪さをして女性に愛想をつかされたんだと、大勢の人に誤解されてしまう。
 学校で、いい笑い者になるじゃないか!

 いくら直接ダメージはゼロでも、間接ダメージがとんでもなく大きくなるぞ。

 ……しかし困った。
 今さらどんな説明をしても、周囲の人からは取り繕ってるようにしか見えないだろうな……。

 く、くそ……。
 悔しいけど、これじゃ黙って謝罪するしか……。

 俺があきらめかけたそのときだった。
 急に後ろから声をかけられる。

「私、もう黙っていられないから!」

 つい昨日に聞いた女性の声。
 張りがあって艶やかで、それでいてかすかに甘いそんな声だった。

 その声だけで俺の鼓動が少し早くなる。
 ゆっくり振り返ると、理想の彼女がそこにいた。

 菜乃がこの場に乱入したのである。

「な、菜乃」
「おはよう、健太。昨日は凄く嬉しかったよ。……そして、昨日はどうも、美崎さん!」

 俺の名は優しく、カレンの名は少し強めに呼んだ。

「あ、姫川さん!? え、ええー!? なんでなの?」
「わおっ、姫川さんじゃんか!」

 カレンが面食らっている。
 前田の方は声に驚きと喜びが入り混じっていた。

「ちょっと、菜乃! 目立っちゃマズいだろ!?」
「健太に誤解が広まるの、私は我慢できないのよ」

 菜乃が俺をかばうために、こんなやじ馬の多いところに出てきてしまった。

「あのー、姫川さん?? 健太に頼まれてフォローしたのって、昨日だけじゃないの!?」

 菜乃とカレンが向き合って話すので、徐々にこの場の空気が女子ふたりに支配されていく。

「え~? ナニナニ? 美崎ちゃんはさぁ、実は姫川さんとなんかモメてたりする??」

 前田が空気を読まずにへらへらと話しかけたが、彼女たちが揃って無表情の冷たい視線を送ったので、奴もさすがにすぐ黙った。

 それから菜乃は、真っすぐにカレンを見つめる。

「あのとき私、手は抜かないって言ったわよね?」

 その声は、凛としてるのに少し甘くて艶やかな響き、そして確かな意志と覚悟が感じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

処理中です...