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第6話 コメント欄は大荒れで
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学校一の美人、姫川菜乃はVtuberでした。
彼女はピンクのキャミソール姿で配信を始めて、俺は隣で聖天使ナノンとして話す姿を見ていたが、なんとその配信を切り忘れていたようで……。
「わ、わ、私、健太が横にいて緊張しちゃって!」
「ま、待て待て、俺のせいじゃないよな!?」
パニックになったのか、菜乃は眉を八の字にして目に涙を溜めている。
「ぐすん。もう……健太を好きなのが原因なのよ?」
う、あ、可愛いなぁ……。
そんな涙目の困り顔で言われたらもう!
……いや、嬉しいけど照れてる場合じゃないぞ。
この場には俺しかいないんだ。
俺が彼女を何とかしてあげないと!!
「あのさ、今の配信、録画してるんでしょ?」
「う、うん、そう……」
「ならば落ち着いて、まず何が漏れたか確認してみようよ!」
「……うん」
菜乃は動揺したままだったが、落ち着かせようと声をかけると、俺のことをすがるように見つめて小さくうなずいた。
いつも背すじを伸ばして凛としている菜乃が、今は子リスのように小さくなっている。
イスを並べてふたりで録画データを確認する。
たぶん今頃、事務所が大慌てで対策を検討していると思う。
でも菜乃の不安を除くため、この放送事故がどの程度の事故なのか、俺達でも把握するべきだろう。
予期せず配信された後半部分には、バッチリ俺と菜乃の会話が入っている。
それに反応したリスナーが書き込みまくり、冬の日本海のようにコメント欄が大荒れだった。
◇
『い、いつもより緊張した……。どうだった?』
『凄いね! ちゃんとVtuberしてた』
『でしょ? まあ、友達よりも同接の方が少ないんだけどね』
『でも、何かイキイキしてた気がする』
《なにこれ》《横に男いんのか》《配信切り忘れー》
『そうなの! 違うキャラになれるのが魅力よ!』
『で、迷惑系Vtuberのことだけど……』
『ああ、そうだったわ。それはね、Vtuberとして健太に迷惑をかけるってことよ』
《切り忘れとかマジ?》《w》《ナノン男いやがる》
《おれの嫁があ》《おれのだ》《ざけんなケンタ!》
『いやまあ、それは何となく分かるけどそうじゃなくてさ。具体的に何をするの?』
『つまりね、Vtuberとして中村健太にフラれたことを配信するのよ』
《ナカムラケンタ》《ナカムラケンタ》《特定はよ》
《は?》《ナノンがフラれた?》《ナノン失恋ww》
《フラれた報告乙ー》《ケンタにフラれたw》《w》
◇
「お、俺の名前漏れてるんですけど……」
「私、健太にフラれたと思われたみたい……」
ぐぁぁああああッッーーーー!!!!
バッチリ聞かれてるッ!!
俺のフルネーム連呼されてんだけど!
ど、どどどどうすんだよコレ、どうすんだよ!!
慌てふためいて菜乃を見ると、彼女も俺を見た後、手で顔を覆った。
「どうしよう。ふぇえーん……」
事態のマズさに、とうとう泣き出してしまった。
イカン!
大変なのは彼女なんだ。
俺のフルネームは完全に漏れたけど、今失敗してつらいのは菜乃だ。
早く彼女を慰めないと!
「だ、大丈夫だよ! リスナーはナノンがフラれたと思ってる!」
「い、嫌よ。まだフラれてないのに、私、健太にフラれたことになっちゃうよ」
え? そっち!?
いや、嬉しいけどさ!
今は、聖天使ナノンのことだろっ?
「ナノンに男がいるって一瞬ざわついたけど、フラれたって思われたみたいで逆に好意的だよ!」
「それはそうだけど。まだフラれてないのに……」
「これならナノンが姫川菜乃だって分からない。だから、学校でも問題ない!」
「でも、ナカムラケンタってフルネームが……」
「大丈夫。ナカムラケンタって全国に大勢いるんだ」
「そうなの? そうかも。うん、わかった」
まさか、悩みだった平凡な名前に助けられるとは。
でもごめん、全国のナカムラケンタさん!
菜乃の放送事故で大変なことになっちまった……。
たぶんちょっとは迷惑をかけると思う。
実は俺も結構なショックを受けたが、菜乃が心配しないように平気な顔をしてみせる。
すると彼女は、涙のあとを頬に残したまま、俺に向かって微笑んだ。
濡れた頬がキラキラと光る。
とびきり可愛い彼女の顔がさらに可愛く輝いて、俺のハートは見事に撃ち抜かれた。
くぅうう~~!!
ぐ、ぐうかわ!
すんげえ可愛いんですけどー!
や、やべえ。
あ、あまりに天使すぎて、き、緊張してきた……。
涙で潤んでキラキラと輝く彼女の瞳。
黒目がさっきより大きく感じて、魅力的な彼女の瞳がさらに大きく見えた。
俺が菜乃に見とれて息を止めていたときだった。
彼女は急に椅子から立つ。
少しかがんだ菜乃は顔を近づけてきた。
どきりとした次の瞬間、彼女は俺のおでこにキスをした。
時が止まった。
たぶん数秒だけ、でも俺にとっては長い時間、おでこに彼女のやわらかな唇を感じていた。
その数秒、俺の目の前はヤバいことになっていた。
椅子に座った俺に向かって、前かがみになる菜乃。
当然俺の前にはピンクのキャミソールがある訳で。
彼女の胸が間近でそれだけでもやばい状況。
だが俺は……気づいてしまったのだ。
前かがみの彼女のキャミソール、その胸元がガバッと開いているのを。
たぶん胸が大き過ぎてその重さでキャミソールが下に伸びてるんだ。
それでも中がガッツリ見えてしまった。
刺しゅうで装飾されたピンクのブラジャーと、それに収まりきらなくて窮屈そうにあふれる肌色が!
胸が大きいのに、乙女ちっくで可愛らしい小さめのブラジャーを無理につけてた……。
長く感じたおでこへのキスが終わり、ゆっくりと菜乃の顔が離れていく。
「健太、ありがとう。お陰で落ち着けたみたい。好きになったのがあなたでよかった」
菜乃は、恋愛ドラマでしか聞いたことのない言葉をささやくと、恥ずかしそうに俺の目を見つめた。
今日、彼女の家には菜乃と俺のふたりだけ……。
こ、この流れ、俺と彼女はどうなってしまう!?
早鐘を打つように鼓動が激しくなる!
目の前には、本当に聖天使と思えるほど美しい菜乃が、じっと俺を見つめていて……。
この先の展開に生唾をのんだところだった。
ガガガガガッッ!! ガガガガガッッ!!
パソコンデスクの上で彼女の携帯が震えたようで、デスクの天板が大きな音を響かせた。
慌てて菜乃が電話に出ると彼女の目つきが変わる。
「ごめんなさい。今すぐ事務所に行かなきゃ!」
「え? い、今から?」
決して彼女といい雰囲気だから惜しいんじゃない。
外はもう暗くなっているからだ。
「マネージャーが状況確認して対策を考えようって」
「そ、そっか。じゃあ、急がなきゃマズいね」
ふたりとも大慌てで支度して外に出る。
駅の前まで来て、菜乃が不安そうに足を止めた。
「絶対、怒られるよね……」
彼女は表情を曇らせてうつむいた。
学校で見る菜乃とは違って、とても気弱な姿だ。
「近くまで俺も一緒に行くよ」
「本当? ありがとう! よかったぁ。最寄りの駅まで一緒なだけでも十分に心強いな」
なんとか元気づけたくて、彼女の肩に触れる。
「きっと大丈夫。事故だし、身バレもしてないし。漏れたのは、聖天使ナノンがフラれたという間違った話と、その相手がナカムラケンタというありふれた名前だけだから」
すると彼女は少し落ち着いたのか、笑顔を見せた。
「……ありがとう! 健太ってとっても頼りになるのね。ねぇ、明日から一緒に登校してくれないかな」
とても嬉しいお誘いを受けた。
明日は朝から菜乃と会える。
幼馴染みのカレンに拒絶され、ひとりの登下校を覚悟していただけに、心から救われた気持ちになった。
ふたりして電車に乗り、事務所近くの駅で降りる。
一旦別れて、彼女は事務所へ向かう。
俺は彼女を待つために、最寄りの喫茶店へ入った。
いろいろあったせいか、菜乃を待っている今は、宙に浮いたようなフワフワした気持ちだ。
ふと、下校から携帯を見てないことに気づく。
急いで確認すると、いつの間にか携帯へメッセージが山のように来ていた。
菜乃からは《平気そうだよ!?》と安心させるもの。
カレンからは《許さないからね!》と不穏なもの。
そして、複数の友人たちからは《聖天使ナノンって知ってるか?》という、あの放送事故に関するもの。
俺は菜乃に「安心したよ。喫茶店で待ってるから」とスタンプ付きで返信し、友人たちには「知らん」と簡素に返信したが、カレンへは返信せずにほったらかした。
内心はSNSの伝達速度に焦りながらも、喫茶店で背伸びして苦手なコーヒーを頼み、菜乃が来るのを待つことにした。
----------
※可愛らしいブラジャーは、Fサイズから極端に買いづらくなります。
(可愛らしい下着が好きな巨乳女子は本当に大変なんです)
彼女はピンクのキャミソール姿で配信を始めて、俺は隣で聖天使ナノンとして話す姿を見ていたが、なんとその配信を切り忘れていたようで……。
「わ、わ、私、健太が横にいて緊張しちゃって!」
「ま、待て待て、俺のせいじゃないよな!?」
パニックになったのか、菜乃は眉を八の字にして目に涙を溜めている。
「ぐすん。もう……健太を好きなのが原因なのよ?」
う、あ、可愛いなぁ……。
そんな涙目の困り顔で言われたらもう!
……いや、嬉しいけど照れてる場合じゃないぞ。
この場には俺しかいないんだ。
俺が彼女を何とかしてあげないと!!
「あのさ、今の配信、録画してるんでしょ?」
「う、うん、そう……」
「ならば落ち着いて、まず何が漏れたか確認してみようよ!」
「……うん」
菜乃は動揺したままだったが、落ち着かせようと声をかけると、俺のことをすがるように見つめて小さくうなずいた。
いつも背すじを伸ばして凛としている菜乃が、今は子リスのように小さくなっている。
イスを並べてふたりで録画データを確認する。
たぶん今頃、事務所が大慌てで対策を検討していると思う。
でも菜乃の不安を除くため、この放送事故がどの程度の事故なのか、俺達でも把握するべきだろう。
予期せず配信された後半部分には、バッチリ俺と菜乃の会話が入っている。
それに反応したリスナーが書き込みまくり、冬の日本海のようにコメント欄が大荒れだった。
◇
『い、いつもより緊張した……。どうだった?』
『凄いね! ちゃんとVtuberしてた』
『でしょ? まあ、友達よりも同接の方が少ないんだけどね』
『でも、何かイキイキしてた気がする』
《なにこれ》《横に男いんのか》《配信切り忘れー》
『そうなの! 違うキャラになれるのが魅力よ!』
『で、迷惑系Vtuberのことだけど……』
『ああ、そうだったわ。それはね、Vtuberとして健太に迷惑をかけるってことよ』
《切り忘れとかマジ?》《w》《ナノン男いやがる》
《おれの嫁があ》《おれのだ》《ざけんなケンタ!》
『いやまあ、それは何となく分かるけどそうじゃなくてさ。具体的に何をするの?』
『つまりね、Vtuberとして中村健太にフラれたことを配信するのよ』
《ナカムラケンタ》《ナカムラケンタ》《特定はよ》
《は?》《ナノンがフラれた?》《ナノン失恋ww》
《フラれた報告乙ー》《ケンタにフラれたw》《w》
◇
「お、俺の名前漏れてるんですけど……」
「私、健太にフラれたと思われたみたい……」
ぐぁぁああああッッーーーー!!!!
バッチリ聞かれてるッ!!
俺のフルネーム連呼されてんだけど!
ど、どどどどうすんだよコレ、どうすんだよ!!
慌てふためいて菜乃を見ると、彼女も俺を見た後、手で顔を覆った。
「どうしよう。ふぇえーん……」
事態のマズさに、とうとう泣き出してしまった。
イカン!
大変なのは彼女なんだ。
俺のフルネームは完全に漏れたけど、今失敗してつらいのは菜乃だ。
早く彼女を慰めないと!
「だ、大丈夫だよ! リスナーはナノンがフラれたと思ってる!」
「い、嫌よ。まだフラれてないのに、私、健太にフラれたことになっちゃうよ」
え? そっち!?
いや、嬉しいけどさ!
今は、聖天使ナノンのことだろっ?
「ナノンに男がいるって一瞬ざわついたけど、フラれたって思われたみたいで逆に好意的だよ!」
「それはそうだけど。まだフラれてないのに……」
「これならナノンが姫川菜乃だって分からない。だから、学校でも問題ない!」
「でも、ナカムラケンタってフルネームが……」
「大丈夫。ナカムラケンタって全国に大勢いるんだ」
「そうなの? そうかも。うん、わかった」
まさか、悩みだった平凡な名前に助けられるとは。
でもごめん、全国のナカムラケンタさん!
菜乃の放送事故で大変なことになっちまった……。
たぶんちょっとは迷惑をかけると思う。
実は俺も結構なショックを受けたが、菜乃が心配しないように平気な顔をしてみせる。
すると彼女は、涙のあとを頬に残したまま、俺に向かって微笑んだ。
濡れた頬がキラキラと光る。
とびきり可愛い彼女の顔がさらに可愛く輝いて、俺のハートは見事に撃ち抜かれた。
くぅうう~~!!
ぐ、ぐうかわ!
すんげえ可愛いんですけどー!
や、やべえ。
あ、あまりに天使すぎて、き、緊張してきた……。
涙で潤んでキラキラと輝く彼女の瞳。
黒目がさっきより大きく感じて、魅力的な彼女の瞳がさらに大きく見えた。
俺が菜乃に見とれて息を止めていたときだった。
彼女は急に椅子から立つ。
少しかがんだ菜乃は顔を近づけてきた。
どきりとした次の瞬間、彼女は俺のおでこにキスをした。
時が止まった。
たぶん数秒だけ、でも俺にとっては長い時間、おでこに彼女のやわらかな唇を感じていた。
その数秒、俺の目の前はヤバいことになっていた。
椅子に座った俺に向かって、前かがみになる菜乃。
当然俺の前にはピンクのキャミソールがある訳で。
彼女の胸が間近でそれだけでもやばい状況。
だが俺は……気づいてしまったのだ。
前かがみの彼女のキャミソール、その胸元がガバッと開いているのを。
たぶん胸が大き過ぎてその重さでキャミソールが下に伸びてるんだ。
それでも中がガッツリ見えてしまった。
刺しゅうで装飾されたピンクのブラジャーと、それに収まりきらなくて窮屈そうにあふれる肌色が!
胸が大きいのに、乙女ちっくで可愛らしい小さめのブラジャーを無理につけてた……。
長く感じたおでこへのキスが終わり、ゆっくりと菜乃の顔が離れていく。
「健太、ありがとう。お陰で落ち着けたみたい。好きになったのがあなたでよかった」
菜乃は、恋愛ドラマでしか聞いたことのない言葉をささやくと、恥ずかしそうに俺の目を見つめた。
今日、彼女の家には菜乃と俺のふたりだけ……。
こ、この流れ、俺と彼女はどうなってしまう!?
早鐘を打つように鼓動が激しくなる!
目の前には、本当に聖天使と思えるほど美しい菜乃が、じっと俺を見つめていて……。
この先の展開に生唾をのんだところだった。
ガガガガガッッ!! ガガガガガッッ!!
パソコンデスクの上で彼女の携帯が震えたようで、デスクの天板が大きな音を響かせた。
慌てて菜乃が電話に出ると彼女の目つきが変わる。
「ごめんなさい。今すぐ事務所に行かなきゃ!」
「え? い、今から?」
決して彼女といい雰囲気だから惜しいんじゃない。
外はもう暗くなっているからだ。
「マネージャーが状況確認して対策を考えようって」
「そ、そっか。じゃあ、急がなきゃマズいね」
ふたりとも大慌てで支度して外に出る。
駅の前まで来て、菜乃が不安そうに足を止めた。
「絶対、怒られるよね……」
彼女は表情を曇らせてうつむいた。
学校で見る菜乃とは違って、とても気弱な姿だ。
「近くまで俺も一緒に行くよ」
「本当? ありがとう! よかったぁ。最寄りの駅まで一緒なだけでも十分に心強いな」
なんとか元気づけたくて、彼女の肩に触れる。
「きっと大丈夫。事故だし、身バレもしてないし。漏れたのは、聖天使ナノンがフラれたという間違った話と、その相手がナカムラケンタというありふれた名前だけだから」
すると彼女は少し落ち着いたのか、笑顔を見せた。
「……ありがとう! 健太ってとっても頼りになるのね。ねぇ、明日から一緒に登校してくれないかな」
とても嬉しいお誘いを受けた。
明日は朝から菜乃と会える。
幼馴染みのカレンに拒絶され、ひとりの登下校を覚悟していただけに、心から救われた気持ちになった。
ふたりして電車に乗り、事務所近くの駅で降りる。
一旦別れて、彼女は事務所へ向かう。
俺は彼女を待つために、最寄りの喫茶店へ入った。
いろいろあったせいか、菜乃を待っている今は、宙に浮いたようなフワフワした気持ちだ。
ふと、下校から携帯を見てないことに気づく。
急いで確認すると、いつの間にか携帯へメッセージが山のように来ていた。
菜乃からは《平気そうだよ!?》と安心させるもの。
カレンからは《許さないからね!》と不穏なもの。
そして、複数の友人たちからは《聖天使ナノンって知ってるか?》という、あの放送事故に関するもの。
俺は菜乃に「安心したよ。喫茶店で待ってるから」とスタンプ付きで返信し、友人たちには「知らん」と簡素に返信したが、カレンへは返信せずにほったらかした。
内心はSNSの伝達速度に焦りながらも、喫茶店で背伸びして苦手なコーヒーを頼み、菜乃が来るのを待つことにした。
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※可愛らしいブラジャーは、Fサイズから極端に買いづらくなります。
(可愛らしい下着が好きな巨乳女子は本当に大変なんです)
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