学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀

文字の大きさ
上 下
5 / 49

 第5話 彼女は女子高生Vtuber

しおりを挟む
 俺は今、学校一の美人、姫川菜乃の部屋にいる。
 今日は家の人がいないのに、上がって欲しいと懇願されたからだ。
 そしてこれから、彼女が問題の迷惑系Vtuberについて教えてくれるそうだが……。

「ねえ健太、どうかな?」
「ななな、菜乃! なんで、下着……」

 彼女が制服を着替えたいというので待っていたら、部屋に入ってきた格好がピンクのキャミソールにスリムジーンズ!

「ち、違うって! これは見せキャミよ」
「あ、そうか。そりゃそうだな」

 冷静にみれば、フリルがついてて生地が厚い。
 全然下着じゃないな。
 今日は家に彼女だけだって知って、思考がおかしくなってた。
 菜乃はさっき校舎裏で告白したばかりで、まだ俺は付き合うって返事もしてないんだ。
 いくらなんでもそんな展開ありえないか。
 でも……ちょっと暴力的過ぎやしないか?

 彼女の胸がかなり大きいと判明。
 密着したキャミソールに着替えたせいで、胸の大きさがハッキリ分かる。
 腰が細くスタイルがいいので、視線がいかないようにするのが大変だ。

「迷惑系Vtuberの話の前に、ちょっとやることがあるの。そこで少し見ててくれる?」

 菜乃はそう言うとゲーミングチェアに座ってモニターに向かった。
 俺は脇に置かれた椅子に座って、彼女の様子を見ることにする。

 菜乃はパソコンの電源を入れて配信アプリを操作すると、こちらへ振り向いた。

「ごめん。もうちょっと横にずれててね」
「え? あ、うん」

 動きを検知するカメラに映っちゃだめのようだ。

「もうすぐ始めるけど、絶対しゃべっちゃだめよ?」

 まだ平気とは思ったが、念のため俺は声を出さずに大きく2回うなずいた。
 画面に「ちょっと待ってね」というメッセージと天使のイラストの1枚絵が数分表示された後……。

◇◇◇

『みんなぁ、こんにちナノン! 聖天使ナノンの降臨よー!』

《キタッ、ナノン様ー》《待ったぞ》《天使ラブ!》

 画面の右側には見たことのないVtuberキャラがいて、菜乃の表情に合わせて笑った。
 やっぱり菜乃はVtuberだったのだ!

 陽キャのカレンがアニメを小ばかにするのでクラスでは内緒にしてたけど、実は俺、結構Vtuberを見るのだ。

 Vtuberは、アニメ調のキャラを分身として画面に表示させ、そこに音声をのせて視聴者を楽しませるネット配信者。

 どうやら菜乃の分身である2Dキャラは、「聖天使ナノン」という名前らしい。
 金髪ロングにゆったりとした白い布をまとい、真っ白な翼を生やした天使キャラのようだ。

『今日はお馴染みのこのゲームをやろうと思うの』

 そう言ってプレイを始めたのは、ミミズのようなキャラを操作して相手を倒し、自分を長く成長させるゲーム。

『ナノンこのゲーム、チョー得意! えい、えい、おっと。あ、危ない! ひえー』

 菜乃の操作は酷いもので、彼女のミミズは全然成長できずにすぐやられてしまった。

《安定のヘタ》《早杉》《いっそ清々しさすらある》

 少しコメントが流れる。
 結構悔しがった彼女は『よぉーし、もう1回』と再プレイするが、少し生き残ってすぐやられた。

 見たところ菜乃は、お世辞にもゲームが美味いとはいえず、かなりのヘタクソである。

 テクニックで楽しませるなら、視聴者を魅了するくらい上手くなきゃ面白くない。
 当然菜乃の腕前ではテクニックなど微塵もない。
 だが、逆に飛び切りヘタなので見てて面白いのだ。

『あれー、なんでか上手くいかないなぁ。ナノン、ちょっと自信あったのに。仕方ない、ここは天使の奇跡で! ねえみんな、ナノンを応援して!』

《まあがんばれ》《これ投げても関係なくね?》
《イヤイヤあえて俺投げるー》

『わあ! スパチャありがとうっ! えーと、何々? それ本気ですか、だとう? ま、まだ本気だしてないし! よーし、ナノン本気で頑張っちゃうよっ!』

《ナノン本気キターー!!》《むしろヘターに期待》
《期待しトラン》《ガンガレ》《やればできる子!》

 コメント欄に金額の書かれた色枠が入った。
 略してスパチャと呼ばれるご祝儀で、電子マネーを配信者へ渡して応援できる。

『さあ、気合入っちゃったよ! おりゃー。ああっ! ご、ごめん、なぜかまたやられた……』

《もどかしい》《金の力なし》《ナノンクオリティ》

 えーと、菜乃のキャラは聖天使なんだよな……。
 聞いたことないから、あんまり有名じゃないんだろうけど……。
 今、この配信を見ている同時接続は1000か。
 チャンネル登録者は32000人。
 事務所に所属してるVにしては若干少ないか?

 いや、現役の女子高生で時間もないし、配信期間も浅いだろうから、これでも相当凄い方だよな。

『はーい。今日もお疲れナノン! ナノンのスーパープレイはどうだった? 最後にスパチャをくれた、リスナーさんありがとね。次回も本気だすから見てね。ナノンでしたー』

◇◇◇

 菜乃の配信は、どうやら無事終わったようだ。
 彼女が椅子を回して嬉しそうに振り向く。

「い、いつもより緊張した……。どうだった?」
「凄いね! ちゃんとVtuberしてた」

「でしょ? まあ、事務所じゃ私が一番同接少ないんだけどね」
「でも、何かイキイキしてた気がする」

「そうなの! 違うキャラになれるのが魅力よ!」

 そう話す菜乃の表情は輝いていた。
 本当にこの仕事が楽しいんだと伝わってくる。
 このまま笑顔の菜乃を見てたい気もするが、そろそろ本題にも入りたい。

「で、迷惑系Vtuberのことだけど……」
「ああ、そうだったわ。それはね、Vtuberとして健太に迷惑をかけるってことよ」

「いやまあ、それは何となく分かるけどそうじゃなくてさ。具体的に何をするの?」
「つまりね、Vtuberとして中村健太にフラれたことを配信するのよ」

 ダメだろそれ!!
 二重にやっちゃダメなヤツじゃないか!

 まず、俺、中村健太がVtuber聖天使ナノンをフッたって、ネット回線通して全世界に広まっちまう!
 あ、いや、同時接続1000で全世界は大げさか。
 でもマジで俺、学校に行くのが嫌になる!

 次に、聖天使ナノンに男の影がチラつくぞ!
 たぶんだけど、女性Vtuberのファンなんて男がほとんどだろ?
 そんな憧れの女性Vtuberに、彼氏とか好きな男とかご法度はっとじゃないのか?

 菜乃がムチャクチャ言うので俺が頭を抱えていると、彼女の携帯から着信を知らせるバイブ音が聞こえた。

「なんか電話かかってきてないか?」
「あ、本当だ。ちょっと待ってて……」

 どうもVtuber事務所からの電話のようだ。

「ええ、ハイ、私です。え? ええええ!!??
 き、きゃぁぁあああああーー!!!!」

 大騒ぎした菜乃が、モニターに向き直って慌てて配信アプリを操作していたが……。
 操作を終えた彼女はこちらを向くと、口をパクパクと動かして涙目になった。

「は、は、配信、切り忘れてた……」
「へ?」

「さっきの配信、切り忘れてたのよッ!」
「え? え? ええ!?」

 は?
 はぁああああッッーーーー!!??


※このお話はタイトル回収ではありません。
※現在のチャンネル登録者数
聖天使ナノン
 登録者32000人
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

処理中です...