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精霊の追憶
しおりを挟むこうして祐羽が願い事を考える間、ルーネスは彼女に色々な魔法を見せた。
ドラゴンやペガサスなどの、神話に出てくるような架空の生物の幻を出現させて、部屋中を飛び回らせたりもした。
ルーネスいわく、大昔には実際に、これらの生き物も地上に暮らしていたという話だ。ルーネスを含めた精霊達も、そんな生き物の一つだ。
しかし人間の文明が発達し、その生活圏が広がるに従い追いやられ、それらの生物は次第にこことは違う、別の次元の異世界へと移り住んだらしい。
一体、今のこの世界では、彼らがどれくらい残っているのだろうか?
ルーネスは、もしかするともう、自分一人だけかもしれないと、弱音を吐いていたりもした。
また、自然の精霊であるルーネスは、植物を自在に操ることもできた。
彼はその力で、家の庭に様々な花を咲かせた。
春夏秋冬の季節を問わず、チューリップにヒナギク、シオン、向日葵、アジサイ、ダリアなどなど、庭一面が盛大な花畑になった。
丁度、そばの道路を歩いていた人が庭を見て、驚いて腰を抜かしていたのは、ちょっと笑えた。
他にも余興として、ルーネス色々な魔法を裕羽に見せてみせた。どれも夢のように、素敵なものばかりである。
魔法の他にも、二人は多くの楽しげな会話をした。とは言っても、主に話をするのはルーネスであった。
大昔に広がっていた、今とは違う神秘的な世界のことや、そこでの思い出、自分と同じ精霊仲間との事などなど……。
それでもルーネスと過ごす内に、次第に祐羽の表情は少し明るくなっていった。
だが祐羽は、時々何かを思い出しては、暗い表情を見せた。時に悲しげに、そして時には……憎しみの満ちた表情へと変わった。
やがて深夜になり、祐羽とルーネスは、魔法の絨毯に乗って空を飛んでいた。夜空では無数の星が美しく輝いている。下では祐羽が住む街が見え、走る車や建物の明かりで、さながら上にも下にも星空があるように感じられ、幻想的だった。
「……それでね、僕は壺に封印される前、つまりまだ自由だった時にね、僕には精霊の友達が沢山いたんだ。僕達精霊は自然界の気から生まれるものでね、火や水に、地面や風などの気から生まれて、色々な種類の精霊がいるんだよ。特に水の精霊が、とても可愛い子でさ、何度か告白したよ。まぁ、毎回あっけなくフラれたけどね」
祐羽はその話に、うっすらと笑った。
僅かではあるが、彼女は何とか笑うことが、出来るようになった。
こんな事が出来るなんて、少女自身も少し、驚いているくらいに。
「ふふっ、ルーネスもこんなに可愛くて……素敵なのに」
「何だよっ! 少し照れるじゃないか」
するとルーネスは、こんな事を話す
「君の笑っている姿を見ていると、昔に会った、ある人間の女の子を思い出すな」
それを聞いて、祐羽は何の事か気になった。
「一体、どんな思い出なの?」
彼女からそう言われて、ルーネスは僅かに気恥ずかしい表情になる。
「この思い出も、僕が自由だった頃。それも、自由だった頃の……最後の思い出。僕はとある小さな村で、女の子と出会ったんだ。丁度君くらいの年齢で、明るい女の子だったよ。村はずれの花畑で花を摘んでいる時に偶然会ってね、何度も会う内に、仲良くなった。……けどある日、いつもの様に花畑で彼女を待っていた時だった。でも、どれだけ待っても、彼女は来なかった。心配になった僕は、女の子を探しに行った。すると、すぐに見つかったよ。……目が血走った村人に囲まれ、傷だらけで木に磔られた彼女がね」
その衝撃的な話に、思わず祐羽は耳を疑う。
ルーネス自身も、可愛らしい顔に、苦悩の色が混じっていた。
「その村では、僕達精霊は悪魔の一種だと思われていたんだ。そして僕と女の子が一緒にいた所を、村人に見られていた訳。村人達は、女の子を処刑しようとしている所だった。……君も話を聞いて、衝撃を受けたみたいだけど……、あの時の僕は、もっと衝撃を受けたよ。人間が人間に、あんなに残酷になれるなんて。それに、あんなに良い子に対してだよ。みんな寄ってたかって、女の子に酷い事を……。
僕は、つい怒りに我を忘れて――かっとなった。僕は魔法を使って、彼らを攻撃したんだ。死人は出さなかったけど、何人かはそれで傷つけてしまったよ。そして、その隙に、僕らは村から逃げ出した。その後、女の子を他の村へと送り届けた。今度の村は精霊に理解があって、僕が事情を説明したら、喜んで彼女を引き取ってくれたよ。今度こそ、彼女は幸せになれそうだ。そう思って僕は一安心さ。
……でも、その後僕は人を傷つけた罰として、壺に封印された。つまり……僕が、怒りに駆られたせいだよ。自業自得さ」
ルーネスの話が終わると、祐羽は呟く。
「……そんな、怒るのは当たり前よ。だって怒るのは、彼女を愛していたから……。それなのに……」
「そうかもしれないね。でも、結果として僕は罰を受けた。幾ら誰かを愛していたとしても……そのせいで別の誰かを憎むことは、間違っているんだよ」
これを聞いた祐羽は、まるでこの言葉が、自分に言われたかのような気がした。
「間違っている……か……」
そして後ろめたさでも感じたのか、彼女は少しだけ、ルーネスから目をそらす。
一方ルーネスは、まるで何かに気づいたように、ある一軒家へと目を移す。
「どうしたの?」
祐羽は聞いた。
「ごめんね、少し寄り道するよ」
祐羽達が乗る絨毯は下へと降り、その家へと近づいた。
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