常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
50 / 63
 番外編 その3  ささやかな幸せの、物語。

和やかなランチ

しおりを挟む
 ――――

「ルーフェ! 待っていましたよ!」

 エディアがいたのは、牧場の建物の一角にある、ベランダである。
 新緑に広がる牧草地を臨む、リビングからの長め。開放的なこの場所には、心地いい風もまた、吹き込んで来る。
 牧草地に見える二人の人影に、彼女は手を振る。

「エディアさんに言われた通り、連れてきたわ!
ふふっ、喜んでくれるかな」
 
 それは仕事から戻ってきた、ミリナとルーフェである。

「ミリナちゃんも、ありがとうね。……牧場のご主人さんがいないのは残念だけど、三人で一緒にお昼ごはんにしましょう!」

「だってさ、ルーフェ! 早く早く!」

 ご飯の待ち遠しいミリナは、ルーフェの手を引っ張り、ベランダへと連れて行く。



 ――――

 エディアの待つ、ベランダにたどり着いた二人。
 ルーフェは彼女を目の前に、少し照れたようにはにかむ。

「来てくれたんだね、僕も嬉しいよ、エディア」

「私も、ルーフェの元気な姿が見れて嬉しいです。
 ……さぁ、お疲れ様。たくさん用意したから、三人で一緒に食べましょう」

 エディアの手には、彼女が愛情を注いで作った弁当の入った、大きなバスケットがある。


 さっそく楽しい昼ご飯、三人ともワクワクだ。


 
 ――――

 今日のお弁当は、野菜サラダと牛肉の炒め物とチーズの添え合わせ、そして狐色にこんがり焼けた、手作りのパンだ。

「……このパン、フワフワで美味しい!」

「ふふっ、エディアの料理は世界一なんだ。美味しくて、当たり前さ」

「本当にルーフェは、幸せ者だね。いつもこんなにおいしい料理が食べられて、美人な奥さんがいるなんて」

 エディアの料理を美味しそうに食べながら、二人は楽しそうに話す。

「褒めてくれるのは嬉しいけど、ううっ……そう言われると、照れちゃいます」
 
 そんな二人のすぐ近くでは、思わず赤面しているエディア。
 でも、彼女はとても、嬉しそうだ。

「エディアも一緒に、昼ご飯にしよう。……だって今は、栄養をたっぷりとらないとさ」

「ふふふ、分かっています。私たちの子供のためにも、ね」

 と、彼女は愛しいまなざしで、前よりも少し膨らんできた自分のお腹を見つめる。
 するとミリナは、ようやくそのことに気づいたらしく、目を丸くする。

「あっ、エディアさんのお腹! もしかして……!」

 しげしげと彼女のお腹に目をやるミリナ。興味深々だ。

「良かったですね! 二人とも!
  ……とっても、おめでたいわ!」

 ミリナは目を輝かせ、二人を祝福する。

「ありがとう、ミリナ。実はお腹の子、どうやら、二人いるみたいなんだ。
 この前、村の医師に診てもらって、分かったことさ」

 ルーフェはこう話し、エディアもまた。

「ふふっ。子供が二人だなんて、私も嬉しいです。
  それにもし、ルーフェが良かったら、まだ子供が欲しいな……なんて」

  上目遣いで、彼を見るエディア。

「今の所は二人だけど、エディアがそう望むなら、僕も同じ思いさ。
 ただ、子供にエディアがとられてしまわないかと、少し心配だけどね」

「大丈夫です。子供ができても私は、ルーフェが大切ですから。それは……ずっと、ずっと、変わりませんよ」

「……エディア」
 
  ルーフェとエディア、二人のそんな様子を、ミリナはニヤニヤしながら眺めている。

「いいなー。いつもそんなに、幸せそうなんて。少しだけ、妬いちゃうな。
  ……でも、二人の子供も、何だか気になっちゃう!  ねぇエディアさん、良かったら時々、様子を見に来ていい?」

 興味津々でそう尋ねる彼女。エディアはにこりと笑って。

「もちろん。ミリナちゃんなら、大歓迎ですよ」

「やった! 私、嬉しいな!」

 そんな和やかな、昼ごはんの一時。
 とても、とても、充足した時間だ。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...