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 番外編 その3  ささやかな幸せの、物語。

一羽の蝶と

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 霊界へと通じるとされる、伝承をもつ霊峰、ハイテルペスト。
 その麓の、少し離れた所にある穏やかな村。村から少し外れにある花畑にて、二人の男女が手をつないで、仲睦まじいように隣り合っていた。

「今日も、いい一日だね……エディア」

 灰色髪の青年はそう、隣にいる三つ編みの、くりっとした瞳の可憐な女性に、声をかけた。

「はい! ルーフェと一緒にいるだけで、私は幸せなの」

 頬には少しそばかすもあり、幼い顔立ちもあり、実年齢よりもいくらか低い、少女のように可愛い彼女――エディア。
 決して絶世の美女とは呼べないが、彼女の素朴で健気な雰囲気、つい守ってあげたくなる、そんな感じだ。

「君と一緒の、毎日。今でも信じられないと言うか、奇跡、みたいなものだよね。
 だからこそ、一日、一日、エディアとの時間を大切にしたいんだ」

 エディアににこっと笑いかける青年は、彼女にとって大切な人、その名はルーフェだった。
 



 すると、彼は何やら気になったものがあったらしく、花畑のある方向へと目をやる。

「見てよエディア! あそこの蝶、綺麗だと思わない?」

 そこには一羽の、綺麗な蝶が宙を舞っていた。
 ルーフェも、そしてエディアは、それについ見とれる。

「わぁ……あの蝶々、羽が何だか虹色に、キラキラしていますね」

「とても美しい蝶、だよね。だけど僕は蝶よりもずっと、エディアの事が――」

 と、そんな最中、蝶は二人のもとへと、羽ばたいて近づいて来た。
 帳が向かうのは、エディアの方に……

「あら?」

 彼女はつい、手を伸ばした。
 するとエディアのその細い指先へと、蝶は止まった。

「……見て、ルーフェ。私の指に、蝶々が」

 蝶を驚かせないように、小声で彼にささやく。
 ルーフェも横から、そっとエディアの指先を、覗き込む。

「こんなことってあるんだね。何だか、とても似合っている感じだ」

「うふふ、ありがとう。……あっ」

 しかし、それもほんのつかの間。
 エディアの手にとまっていた蝶は、軽くまた羽ばたいたと思ったら、そのまままた空へと飛び立った。
 
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