常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
41 / 63
番外編 その2  竜の娘の、その旅路。

深まる絆

しおりを挟む
 ――――

 それから一、二時間ほど歩いた末に、ようやく
クレトーリェにたどり着いた、ラキサとテオ。


 港町クレトーリェ、それは岬の高く大きな岩場に建てられた街である。
 元々の岩場を削り、穴を開け、真っ白い岩で作られた建物からなる、純白の街並み。
 街並みの下には、今度は木製の大型の建物が立ち並ぶ。
 それらは全て、街を訪れる船舶のための港や、積み荷を降ろすための倉庫など、それに関する施設、設備が所せましとあった。


                       ――――

 結局街についたのは日暮れに近い時間……。
 それに、ここまで一日中、歩き通しだった。
 小規模であるが熱砂の砂漠を超え、その後に谷を下り、上り……とりわけ疲れた一日だった。
 二人とも街についてすぐ、その疲れを癒すために……宿屋へと止まった。


 そして宿屋の、一室に入るラキサ達。

「うーん! 疲れちゃった、かな。だってずいぶん歩いたから、クタクタかしら」

 部屋に入って、ラキサはぐうっと、背伸びをする。ようやくゆっくり休める場所を見つけて、リラックスしたみたいだ。

「ふふっ、僕もヘトヘトだね。早めにベッドで横になって、グッスリしたいよね」

 と、そう言いながら、テオは椅子に腰かけ、バッグからパンと飲み物の入った瓶を置く。

「でもその前に、軽く何か食べたいよね。
 ラキサさんはどう? 君の分も、一緒に買って来たんだ。」
 
 彼はにこっと、ラキサに笑みを投げかけた。

「私も少し、おなか空いていたの。
 ……ありがとう、ならちょびっと、貰おうかあしら」



 ……そう。最初こそどぎまぎしていたものの、今ではこうして二人でいるのも。当たり前のようになっていた。
 何日もともに過ごし、ラキサとテオ、二人の間には一種の絆が育まれていた。


 二人は、街のパン屋で買って来たパンを、夜食として口にしていた。

「へぇ……! このサンドウィッチ、焼いたお魚の切り身が入っているのね。
 ……美味しい!」

「言ったでしょ? ここの海鮮料理は美味しいって。こっちのエビと貝のパイも、きっと良いはずだよ」

 ラキサとともに旅を初めてから、テオはいつも幸せそうな、そんな感じだった。
 
「うーん! やっぱりまたここに来て、良かったよ! 
 こうして自分の旅路をまた巡って、さ。やっぱりラキサさんと、旅が出来て……とても良かった」                                            でも、本当に不思議な少年である、テオ。

 ――そう言えば、テオくんがどんな人か、私は知らないな――

 いまさらながら、サンドウィッチをほおばりながら、ラキサは不思議に思う。

 ――でも、私の事もテオくんには話していないから、お互いさまだよね。
 ……私がかつて、冥界の番をしていた、竜の生き残りだって――                            


 彼女の正体、それは天高く聳える山に存在する、冥界へと通じる門を通じる……常世の守り主、白銀の竜であった。
 だが、それはもう、昔の話だ。
 今のラキサは、常世の守り主ではない、ただの……竜の少女だ。

 ――多分、私一人だけ。……そう考えると、ちょっと寂しい、かも――

 しかし、竜の生き残りは、たぶん……ラキサだけ。
 そう考えると、少し寂しく思う、彼女であった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...