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第伍章 冥界
本当の、願い
しおりを挟むしかし、ルーフェが振り向こうとした、その瞬間――――。
彼は忘れかけていた、一つの疑問を思い出す。
――俺が求めたのは、本当にエディアだけなのか? ――
かつてトリウスが尋ねた、何故愛する人間を生き返らせるのかと言う、その疑問。
あの時には分かりも、分かろうともしなかった答え。
しかし今なら…………答えは分かる。
考えればとても簡単な答えだった。本当はルーフェも、それを知っていた。ただ――それに気づいていなかっただけで。
ルーフェは後ろを向くことを止め、一度目を閉じて心を落ち着かせる。
そして再び開けると、彼は前を向いて歩きながら、後ろにいる存在へと語りかけた。
「なぁ、エディア。返事なんてしなくて良いさ、ただ俺の話を、少しだけ聞いてくれないか?」
後ろからは、やはり返事はない。
だがそれでも構わずに、ルーフェは続ける。
「君を失ってからの俺は、以前とはすっかり変わってしまった。何年も、何年も、俺は君を取り戻す為に、過酷な旅を続けた。いつしか心を失い……この手を多くの血で汚すほどに。
でも君への思い、それだけは変わらなかったつもりだ。」
そんな過去を思い返しながら、彼は語る。
「けど旅の終わりに、俺はある親子に出会った。彼らとの触れ合いは、俺に多くを与えてくれた。一人の少女からは、失ったと思っていた俺の心、そしてその父親からは、忘れていた大事な願いを。
ずっと望んでいたのは、君を生き返らせる事――ただそれだけだと思っていた。けれど、例え生き返らせたとしても、命があるものはいつか死ぬ。つまり……いつかまた別れなければいけない。普通に考えれば――――僕のそんな望みなんて、馬鹿馬鹿しいよね」
思わずルーフェは、つい苦笑いをこぼした。
そして話してるうちに、彼の口調も柔らかい口調へと変わり、一人称も『俺』から『僕』に変化していた。恐らく、これが旅へと旅立つ前の、ルーフェ本来のものなのだろう。
「……」
そして彼は、ある事を思い出しながら話を続ける。その思い出とは、最後にラキサと交わした、あの会話の記憶だった。
「でも、僕は二人と共に暮らして、もう一つの、大事な望みに気づいたんだ。
それはエディアと一緒にいた日々……それをもう一度送ること。以前は立場のせいで不自由だった分、今度こそ自由に君と過ごしたい」
話しながらルーフェは、無意識にポケットに手を入れて、中に入っている指輪に触れる。
「二人で元の世界に戻ったらさ、何処か、のどかな村で暮らそうよ。そして、以前は出来ないままだった結婚式を挙げよう。あまり立派な式は出来ないかもしれないけど、一緒なら、最高の思い出になると思わないかな? そして、昔の主人や召使なんて忘れて過ごしたい。もう君は僕に、様付けや変な気遣いをする必要なんてないんだ。
確かエディアは本が好きだったよね? それなら僕が用意するよ。読み方だって、教えられる。それにもっと、もっと、二人で沢山の思い出を作っていこう。いつか訪れる…………最後の別れが来ても、あの前みたいに悔いが残らないように」
こうしてルーフェは、後ろにいるであろうエディアに、将来の事を語り出す。かつて二人が願い――叶わなかった未来を。
無論それに対しての返事は、ある訳ではない。しかし彼の表情は、とても希望に溢れていた。
後ろからのがさついた足音も、あの焼け焦げた匂いは、既に消えている。
やがて、目の前の階段の先に、光が見えて来た。
「ふふっ、楽しく話していると、あっと言う間だね。ここを抜けると、ようやく君に会えるんだ」
ルーフェは歩みを止めず、光放つ出口へと進む。
光は次第に協力になり、出口のすぐ近くにまで来た。
「最後に一つだけ、君に伝えたい事がある。これまでずっと言えなかった言葉、それは……」
ついに――――ルーフェは光へと踏み出した。
それと同時に、言葉をこう続けた。
「愛している、エディア。今までも、これからも――ずっと」
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