常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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第伍章 冥界

冥王

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 ――――

 眩い光で周囲は見えなくなるが、やがて光は薄らぎ、辺りが再び見えるようになる。
 すると――辺りの風景は再び変化していた。


 そこは四方見渡す限り、地平線の果てにまで広がる紫色の平地。
 一体どれほどの広さがあるかさえ、分からないほどにまで果て無い。
 足元は見ると、地面と思っていたそれは半透明の液体状のものらしく、まるで広大な大海原の上に、ただ一人で立っているかのようだ。
 桃色の空には雲一つなく澄んでおり、空が高くなるにつれて色は薄くなり、空の果ては真っ白く変わっていた。


 先程の闇の空間とは違い、この空間からは不思議な穏やかさと暖かさ、そして……荘厳さを感じた。
 ルーフェは再び辺りの光景を見渡す。周囲を囲むのは大海のような紫の地平線、そして上空には不思議な紫と白の空。
 ――だが空を改めて見ると、何やら全体が動いているのが見えた。
 更に目を凝らした末、ルーフェはそれがある物だと、悟った。
 空の白さと思っていたそれは、蛍のような光の玉。
 それが空を埋め尽くす程に、無数に寄り集まっていたために、空の果てが白いと錯覚したのだ。

 ――あれは、一体。もしかすると――

 ルーフェがそれらに驚愕していた、そのさ中。
 大地全体が突然、海面のように波うちはじめた。
 その中心は彼の遥か遠く、地平線の手前であったが、遠くからでも同心円状に波が広がる様子が、見える程だ。
 すると今度は、波の中心が急に、大きく上へと盛り上がってゆく。
 まるで紫色のゼリーのような塊はあまりにも巨大で、一つの大山脈の二、三倍を優に超えるほどだ。
 そして塊は形を変え、長い両腕と、真球に近い頭を形成した。それは巨大な人型、巨人そのものだった。


 巨人はのっぺりとした大きな頭を、ルーフェへと向けた。
 顔には何もついておらず、ただ三つの光点が三角形状に光り輝いているだけだ。それはまるで、三つの目玉のようである。

《ようこそ、冥界へ。歓迎するよ――ルーフェ》

 声が、そうルーフェに語り掛ける。しかし、声は目の前の巨人からではなく、この場全体から聞こえてくるかのようだ。

「あなたが……冥王か」

《目の前の姿は、あくまで私の一部にすぎない。私は冥界の主にして、冥界そのもの、この空間すべてが私そのものさ。
 そして君も気づいているとは思うが、空を埋め尽くす光の玉、あれは全て魂。数多の世界へと命を送り、やがて帰り着く先、それがこの場所さ。もちろん、君が住む世界もその一つ》

 冥王の声は一定のトーンで、言葉を続ける

《私は無数の魂の管理者、魂を輪廻転生により磨き、より高次の次元へと昇華させる…………それが、私の役割だよ》

 空に浮かぶ光の玉が、すべて魂……。
 改めて冥王からの言葉を聞き、ルーフェは息を呑む。
 ――エディアも、もしかしてあの中にいるのだろうか? ――  
 ふと彼は、そんな事も思った。

《現世との交流が途絶えて以降、君達の世界からの訪問者は――魔術師の男が最後に訪れてから、約二千年ぶりと言った所か。ずいぶん長い時間だ。
 さぁ、心を読むような無粋はしまい。自分の願いは、その口で言うといい。久方ぶりの客だ、英知でも、力でも、そして……命さえも、何でも望みを聞いてあげよう》

 ルーフェの願い事、それはもう決まっている。
 彼は愛する人を甦らせるために、全てを捨てて、ここまで旅をして来たのだ。
 もはや躊躇う理由はない。……なのだが。
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