18 / 63
第肆章 決戦
揺れる心
しおりを挟む竜の額に輝く、紫水晶。
それは強く、キラリと光り輝く。
水晶の輝きに呼応するかのように、竜の砕けた爪と、足の傷は瞬く間に再生を始める。
やがて受けた傷は……すぐに元通りとなった。
まさしく、額の水晶は竜の力の源。
その脅威の治癒力も、また、並大抵のものではない。
倒すには、深い致命傷を与えなければ……。
――とにかく俺は、奴を倒す! でなければ――
さっきまでの葛藤を、無理に振り払うルーフェ。
そして再び、剣で竜に攻撃を仕掛ける。
対して竜は両足の爪と尻尾、そしてその巨体で応戦した。
大切な人を失い、それを取り戻すために全てを捨てた青年と……生を受けた瞬間から守り主の責務を背負う定めを受け、葛藤する竜の少女。
互いの願いと想いをのせ、二人は命懸けで、今戦う。
――――
それから、いくらかの時が流れた。
両者は激しく戦い、攻防がなおも繰り広げられる。
それぞれが傷つき、傷つけられ……。一方は自らの願いの為、もう一方は自らに定められた宿命の為に。
――互いに、憎いならまだ良かった。
だが、この戦いは二人にとって、『避けられなかった』だけの戦い。
たったそれだけの――悲しい戦いだった。
やがて攻防の末、ルーフェはもはや何十回目の斬撃を竜の胴体に与えた。
直後、槍のような尻尾の反撃を受ける寸前に右後ろへと跳躍、着地した。
「くッ!」
地面へと着地した途端、肩を押さえてルーフェは片膝をついた。
どうやら完全には避けきれなかったらしく、抑えた手の間から血が滲む。
……それだけではない。
戦いの果てにその身体は傷だらけで、服はボロボロになり、自身が流した血で赤黒く変色していた。
額から流れる自ら血を、ルーフェは腕で拭う。
――全身が痛み、意識も朦朧としている……。そろそろ、限界に近いか。しかし向こうも――
だが、目の前の竜も、同じく傷だらけで弱っていた。度重なる攻勢に、治癒が追い付かないのだ。
しかしまだ足りない。竜の気迫は未だ健在であり、完全に倒さなければ先へは行けない。
それに…………紫水晶の輝きとともに、いまだ残る傷も回復を続けている。
もはや、一刻の猶予もない。早く決着をつけなければ、いずれ消耗するばかりのルーフェは敗れるだろう。
今の竜は、弱っている。
――止めを刺さすのは今しかない。
自らの痛みを無視し、ルーフェは決着をつけるべく、次の一撃に全てをかける。
幾ら竜でも、首筋を切り裂けば致命傷となる。以前はビクともしなかったが、この剣ならば……。
剣の柄を強く握り、迫るルーフェ。
最後の攻撃を仕掛ける彼を全力で阻もうと、竜は両翼をはばたかせて強風を巻き起こす。
剣の力をその傷で知る竜は、もはや前のような余裕を見せることは無い。
ルーフェは正面からの突風を横に避け、素早く竜の側面へと回り込む。
剣の力に反応し、とっさに竜は翼で身を守ろうとしたが、遅かった。
それよりも一瞬早く、ルーフェは竜へと跳躍。無防備な首筋へ剣を振りかざす。
後は剣を、首筋へと振るうだけだ。それで決着がつく。
たった一振り、それだけなのに――――手にした剣が動かない。
――馬鹿な、ここまで来てまだ……! もはやあれはラキサではない。それなのに――。
目の前にあるのは、強大な竜の姿。しかしルーフェには、その姿が、優しいあの少女の姿と、重なって見えた。
……だが、その心の迷いが彼の災いとなった。
目の前にまで迫るルーフェに、竜は光弾を放つ。
もし迷ってさえいなければ、光弾を剣で防ぎ、無効化した上で止めを刺せたはずだ。
だが心の中で葛藤し、例え数秒の間であろうと、剣を振りかざしたまま固まっていたルーフェには、それは不可能であった。
……光弾は至近距離でルーフェに直撃、彼は激しい爆風へと巻き込まれた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる