常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
17 / 63
第肆章 決戦

戦闘開始

しおりを挟む
 ラキサ――いや、常世の守り主は彼の様子から、退く意思はないと判断したようだ。

「そうか、あくまで冥界へと足を踏み入れるつもりか。――ならば覚悟するがいい! 愚か者め!」

 冷たい表情のまま彼女は、猛るかのように叫んだ。
 同時に……その体は一気に、無数の白い光球となり爆散した。
 まるで花火のように広がる、光り輝く粒子。
 光の粒は遺跡の広範囲に広がると、今度は集束をはじめた。
 粒子は集束すると同時に、何か、別の姿のシルエットを形作る。
 少女の姿とは異なる、異形の姿。光はその姿へと身体を再構築する。




「グルルルッ……」

 姿を現したのは、白銀の竜。
 両翼を大きく広げ、先ほどの名残なのか、光の粒子を散らす。 
 
 ――やはり、あの時俺と戦った、竜だったのか。……ラキサ、君は―― 

 霊峰ハイテルペストに初めて訪れた時、ルーフェと戦い深手を与えた、あの竜だ。
 白銀の巨体を持つ、神々しいまでの存在…………。
 目の前に君臨する巨竜、それは竜の一族の末裔であるラキサの本当の姿。そして、常世の守り主の正体でもある。

 ――やはり、戦わなければいけないのか――

 圧倒的な存在を目の前にして、躊躇うルーフェ。
 例え今は、常世の守り主だったとしても、その正体がラキサと言う名の、少女であることに変わりはない。
 もしあの竜を倒せば。その時には彼女の命も、失われるだろう。


 ルーフェは大切な人、エディアを、生き返らせるために旅をし、戦って来た。
 そして今、一人の命を取り戻すために、また一人の命を奪うことになるのだろう。
 ――だが、彼女を失った、その時からすべてを犠牲にしてでも取り戻すと、そうルーフェは覚悟を決めていた。

 ――だが今更、俺は引けない! ラキサ……君の命を引き換えにしてでも、エディアを取り戻す!――


 

 竜の出現、そして……ルーフェの決意。
 これに呼応したのか、彼が持つ剣は、強く輝きはじめた。
 剣に浮かび上がるのは、輝く竜の模様。
 それは、ラキサが与えた力の一部だ。
 この力が今、剣を介して自分に伝わって来るかのように、ルーフェは感じる。
 彼女の力は、あの竜と同等のものだ。これで彼は、戦う力を手にしたのだ。



 その剣から発する力を同じく感じたのは、竜も同じだった。
、脅威を覚えたのか、先手を打つ動きに出る。。
 激しい咆哮とともにエネルギーを溜め、口を大きく開き、竜は光弾を放った。
 すぐさまルーフェは後ろに下がり光弾を避ける。
 と、同時に――周囲に輝く光と轟き。
 光弾は先程まで彼がいた場所へと衝突し、爆発。後には大きくえぐれた地面の跡が残った。
 その威力は相当なもの。
 もし、当たれば一たまりもない事は、この跡を見れば一目で分かる。

 ――やはり、この剣の力だけでも、厳しいか――

 だが、ルーフェには満足に、考える時間さえ与えられない。
 竜は続けざまに、ルーフェ目かけて光弾を連射した。
 次々と爆風が巻起こる中、ルーフェは高い身体能力を駆使して直撃を避ける。
 これまで、様々な戦いを潜り抜けた彼。その身体、戦闘能力は抜きすさんでいた。



 しかし……幾らルーフェだろうとも、限界があった。
 やがて、回避が遅れた彼に、一発の光弾が襲う。
 今まで避けて来たが、今度こそ直撃は免れない。ルーフェは覚悟を決め、せめて僅かでも身を守ろうと、剣で身構える。
 光弾は剣に、衝突した。
 予想される衝撃に、ルーフェは身構える。……が。
 それでも、あの破壊的な威力が、彼を襲うことはなかった。
 剣は光弾のエネルギーを吸収し、消滅させた。
 その高いエネルギーを取り込み、ルーフェの力もみなぎるかのようだ。
 
 ――これなら……いける!――
 
 ルーフェは剣の柄をぐっと握ると、竜に目かけて突撃した。
 迫って来る彼に竜は、左前足を構え、鋭い爪で引き裂こうとする。
 剣と爪、その二つが、激しくぶつかる。
 両者は一瞬、鍔迫り合った……かに見えたが。
 力押しでは圧倒的に――竜に分があった。



 その強大な力で、ルーフェは一気に弾き飛ばされた。
 それでも、彼の戦意は衰えない。 
 弾き飛ばされるやいなや、空中で態勢を整えて、何とか着地する。
 着地はしたものの、勢いはまだ残り後方になおも、飛ばされそうになる。
 ……両足に力を入れ、何とか踏みとどまったものの、そこは崖っぷち。
 後少しで、彼は崖から、真っ逆さまとなる所だった。
 ――しかし、竜もまた、無事ではなかった。

 
 
 竜の絶叫が、周囲に響く。
 その爪の一部は砕け、足には鋭い傷が生じて水色の血が噴き出す。
 ようやく相手に、一撃を与えることが叶ったルーフェ。
 ではあったが……

「――っつ!」

 この光景を目にした時、ルーフェの心が痛み、表情は歪んだ。
 与えられた力は強く、それはあの竜に傷を付ける程。これならば、竜を倒して、冥界へと辿りつくのも不可能ではない。
 それなら、喜んでも良いはずだ。なのに…………今は剣がとても重い――。

 ――どうしてだ!? 俺は決意を決めた、そのはずなのに――
 
 自分にそう、ルーフェは言い聞かせる。
 やはり何処かに、捨てきれない躊躇いが、確かに存在しているのだ。
 しかしそれでも、まだ戦いは続く。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...