常世の守り主  ―異説冥界神話談―

双子烏丸

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第弐章 青年と少女

再びの、夢

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 ――――


 ここに来てから十数日経ち、ルーフェの傷は次第に治りつつあった。
 トリウスはその後姿を見せていないが、代わりにラキサが部屋へと訪れ、食事や傷の手当と言った面倒を見てくれた。彼女はとても優しく献身的にルーフェに尽くし、時には話し相手にもなった。
 恐らく彼女も、久しぶりの父親以外の人間と会えて、嬉しかったのかもしれない。


 対してルーフェは無愛想で、ほとんど話すことは無かった。しかし彼はラキサを無視したりせず、無愛想ながらも話に付き合い。
 一見冷たく冷酷で、人間味も無く見える彼だが……実際は、それを心の奥底に押し込めたまま、表に出していないだけなのかもしれない。



 ――――

 そしてあの夢以降、彼は眠るたびに同じ夢――――かつてルーフェがまだ幸せであった頃の夢を、何度も見るようになった。
 初めは十才程の幼い少年だったルーフェは夢を見る度に成長し、そしてこの夢では十六才と、年頃の少年に成長した。


 手元に一冊の本を持ち、いつものように、夢の中の彼は、庭園のあの場所へと向かう。
 中庭の隅にある、大木の下…………。エディアはそこで待っている。
 夢の中ではいつもエディアと共に過ごし、一緒に遊んで話して笑ったり…………、全てがかつての幸せな思い出だった。
 昨日の夢では、親に気づかれないようにこっそり屋敷を抜け出し、彼女と共に下町へ遊びに出かけた。よく買い出しに行くエディアに案内されながら下町を廻り、途中で寄った店でドレスを買った。
 貴族の着るような豪華絢爛なドレスではない、普通の庶民でも着る小綺麗なものだったが、エディアはとても喜び、ドレスを着るとオルゴール人形のように、得意げにクルリと回った。


 視線の先には、エディアが庭で歩いているのが見える。
 この夢では、同じく彼女も年頃の少女として成長しており、主な特徴には変わりないが、その年齢特有の色気や魅力も、今では備えていた。
 エディアはルーフェに気づくと、笑って手を振った。

「こんにちは、ルーフェ様。またこの場所で貴方と会えて、私はとても幸せです」

 ルーフェも、僕も君に会えて良かったと伝え、同じく笑みを見せる。
 だがその笑いには僅かに、寂しさが込もっていた。
 彼女の話し方はいつも……召使が主人に対するもののそれである。それがルーフェには、少し辛かった。


 だが本来ならば、こうして互いに親しくしている事自体が、許されない行為である。
 エディアは召使で、階級は劣っている。もしこの事が知られたら家の名誉に傷をつけると、ルーフェは知っていた。そしてそれが、貴族の名誉を重んじる、両親の激しい怒りを買うことも。
 ルーフェは、彼女の隣に座った。

「それでルーフェ様、今日はどんなお話を、私に聞かせてくれるのですか?」

 話し方は召使のそれだが、エディアはルーフェに対して強い好意を抱いていた。
 幾ら階級が違えども、何年もの歳月を共に過ごした絆、それは確かに存在していた。
 そんな彼女に、ルーフェは自分の持って来た本を見せる。

「まぁ! これは私の一番大好きな、あの話ですね」

 エディアはその本を見ると、目を輝かせる。
 その本は、今までルーフェから読み聞かされた本の中で、一番のお気に入りだった。
 ルーフェは、じゃあ始めるねと一言いうと、本を読み出した。
 物語は長く、読むにも時間が掛かるものだが、彼が読み聞かせている間ずっと、エディアは一言も聞き漏らすに、本を読むルーフェを見つめている。
 やがて本を読み終えると、彼はエディアに、どうだった? と感想を聞いた。
 すると彼女は……

「何度聞いても、良い話ですね。有り難うございます…………ルーフェ様」

 そう言ってエディアは、嬉しそうに微笑んだ。

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