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ライゼルの疑問
しおりを挟む「ねぇ、ライは何しているの? 僕にも教えて?」
言葉を覚えてからのクゥは、ライゼルを『ライ』と呼んで、慕った。一人称が『僕』なのは、彼が言葉を教える為に読み聞かせた本の一人称で、『僕』が多かったからだ。
ライゼルも、まるで父親にでもなったかのように、クゥの事を思っていた。
そしてクゥに、改めてどこに居たのか聞いた。恐らくアンジェリオについて話すだろうと思ったが、彼女には船に乗る以前の記憶が、殆んど無かった。
操作している機器類から目を離して、ライゼルは答えた。
「これは、船の航行ルートのチェックと、調整だね。この宇宙船は少し古いからな、時々誤差が生じるからな。でも、今終わった所さ」
「なら良かった! さっき、昼ごはんを作ったんだ。僕の一番の自信作だから、きっと、気に入るよ」
そう言うと、クゥはライゼルの手を握って、キッチンへと連れていった。
キッチンの机には、良い匂いがするオムライスが二つ、皿にのって置いていた。
「今度はオムライスに挑戦したよ。色々と違う料理の方が、ライが喜ぶと思って」
にっこりと笑って、クゥは言った。
「さぁ、一緒に食べよう」
「そうだな。丁度、腹がペコペコだったんだ」
二人は食卓に着いた。
クゥは「いただきます」と言って、早速オムライスを食べていた。
ライゼルもスプーンを握ると、オムライスをすくって、口に運んだ。
「味は、どうかな?」
クゥは彼を見て、少しもじもじしながら聞いた。
「もちろん、とても美味しいさ。包んだ卵焼きの中の、チキンライスの味が最高だね」
料理に満足したライゼルの答えを聞いて、クゥは喜ぶ。
クゥと一緒にする食事は、いつも楽しかった。運び屋と言う仕事上、一人で食事する事ばかりだったライゼルにとって、誰かと共に食卓につく楽しみは、殆ど縁がなかったからだ。
やがて二人は、昼食を終えた。
「じゃあ、僕は後片付けをするね」
クゥは二人分の皿を流し台へと持って行き、料理道具と一緒に洗い始めた。
料理以外にも、クゥは洗濯や掃除などと、色々と家事もこなせるようになっていた。
そんな彼女の後姿を眺めながら、ライゼルはまるで、自分に恋人が出来たかのように感じていた。
この間までは子供みたいだったのに、今ではこれだった。
それにクゥは、最近様子が変だった。以前までは、まるで親みたいにライゼルを慕っていた。しかし最近では、今みたいに、妙に彼を気にしているようだった。
けど、そんな風に思っている俺だって、クゥの事を気にしているじゃないか。それにさっき、俺は彼女を『恋人』みたいだと感じていた……。そう思っていると、ふとある考えが頭をよぎった。
だがすぐに、ライゼルはその考えを否定した。
「いや、まさかな……」
ライゼルは小声で、呟いた。
クゥと出会って、もう一ヶ月が経った。エクスポリスまでの航海も、残り半月程だった。船のワープも五回の内、四回は済ませ、残りは一回のみである。
ミーシャも時々、二人の様子を見に、通信を送ってきていた。
〈……エクスポリスまで、あと二週間くらい。アンジェリオは、更に三日の距離よ〉
「はい、社長」
〈アンジェリオ管理局には、クゥの事は伝えているわ。無事、受け入れてくれるそうよ〉
「良かった。クゥも喜ぶだろうな、元の場所に戻れるから……」
〈そうね……。でも、何か……忘れている気がするのよ〉
「……?」
「ライっ! 遊ぼうよ!」
いきなり、ライゼルがいる操縦室へと、クゥが入って来た。
〈あら、クーちゃん。今日も元気みたいね〉
「へへっ♪」
クゥは得意げに笑った。
「社長との、通信が終わったらな。でも……それは?」
手にはやたら銃口が大きい、玩具の銃を持っていた。
「部屋の机の引き出しで、僕はこれを見つけたの。面白そうでしょ?」
ライゼルは、それが何だったか思い出す。
あれは昔、ある星の物産館で、俺が物珍しさで買った玩具だ。空気圧でボール等、銃口に入る物なら何でも飛ばす玩具だったけど、確かあの玩具は、俺が少し改造して…………。
「ちょっと待て! それは触っちゃ駄目だ!」
ライゼルは慌てて、それを取り上げようとした。
「えっと……、こうするんだっけ?」
だが間に合わず、クゥは玩具の銃口を傍の壁に向け、引き金を引いた。
そして銃口から、ピンクのボールが速い速度で飛び出した。
ボールはあちこちを飛び跳ね、最後はライゼルの額に衝突した。
「痛っ!」
思わず彼はのけぞり、額を押えた。クゥは心配そうに駆け寄る。
「ごめんね、痛かった?」
「俺は大丈夫。とにかく……これにはもう触るなよ」
ライゼルはそう言って、玩具を取り上げた。
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