テイルウィンド

双子烏丸

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エピローグ レーサー達の、それから

フウマの、それから

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 ベッドの中で、ミオはぐっすり眠っていた
「……ミオ―」
 まどろむ意識の中、よく聞き覚えのある、だれかの声。
 けど、今日は学校も用事もない、休日。せっかくだからもっと眠っていたい。
 ミオは声を無視して、毛布に潜り込む。
「……ねぇ、起きてってばー、ミオってばー」
 相変わらず声はするが、ミオは無視。……声の主には、悪いと思うものの。
 すると相手は、ため息を一つつく。
「もう――仕方がないな。約束した時間は、過ぎているのに」
 と、言いつつも、続けてこんな事も……
「……寝ているの、かな? なら……ちょっとくらい、眺めてたっていいよね」
 声の主は、そう言ってベッドに寝ているミオのもとへと。
「……眠ってるところも、やっぱり可愛いな。ミオってば」
 こんな呟いていた……まさにその時。


 ――――

「うーん……」
 丁度その寸前、ミオが僅かな声を出して、うっすらと目を開けた。
「にゃっ!」
 これには思わず、フウマは驚いて、固まる。
 すぐ目の前の、彼のそんな様子に、ミオは……
「あれ? そんな風にして、どうしたのフウマ?」
 フウマはいきなりの事にどぎまぎして、しどろもどろになりながらも答えた。
「えっと、ほら……その、気持ちよさそうに眠ってたからさ、つい……。
 だってミオ、本当によく眠ってたから、それくらい良いかな……なんて」
「ふふっ、よく分からないけど……そう慌てなくたって、いいよ。
 とにかく――おはよう、フウマ」
 ミオはその弁解を、あまりよく分かってはいなかったものの、ニコッとフウマに笑いかけて、朝の挨拶をする。
「……ん。ミオも、おはよう」
 まだちょっと照れながらも、フウマも挨拶を返す。
 そしてその後、彼はこんな事を話した。
「今日はアリュノ星系、第四惑星ギャザーロードに、行く約束だっただろ?
 ――シロノだって、待っているだろうしね」
 
 
 ―――― 

 フウマ、ミオは、宇宙港のある都市にまで向かう、空中帆船へと乗っていた。
「シロノと、再会かー。少し、久しぶりな感じかも」
 そう話すフウマは、何だかワクワクしているような、そんな感じだ。
「だってさ、あのG3レースから、しばらくレースはご無沙汰だったんだ。
 勉強やらレポートだとか、山積みで大変だったんだからさ」
 いくらレーサーをやっていても、フウマの本業はやはり学生。特訓も含めてG3レースの間、学校の勉強は後回しにしてもらっていた。
 そして、レースが終わってからは、溜まっていた勉強を片付けるのに……大変だったのだ。
「あはは……せっかくG3レースで、優勝したのにね。けど、せっかく頑張ったんだから……勉強も、一緒に手伝ったでしょ?」
「勉強を手伝ってくれたのは、ほんとに助かったよ! 僕一人じゃ、とても終わりそうになかったし」


 
 するとフウマはふと、窓辺にもたれながら、こんな事を呟く。
「――あれから、こうして恋人になったけど、相変わらず僕は、ミオに助けられっぱなしだな。
 もっと、ミオからも頼りにされるような、そんな君のパートナーに、なりたいってのにさ」
 そう言って、彼は少し、恥ずかしそうな顔を見せた。
 対してミオは――
「大丈夫。少しずつで……全然良いんだから! それに私、今のフウマだって、十分に頼りにしているんだから」
 フフッと、満面の笑みでフウマに笑顔を向ける、彼女。
「それに――あの時のフウマ、とっても格好良かったんだから! だってシロノにも勝てたんだし、あんなに大きいレースで、優勝したんだもん」
 と……ミオは何やら、キョロキョロと辺りの様子を伺う。
「ん? どうしたのさ、ミオ?」
「……えっと、周りにはあんまり人もいないし、誰も私たちの事を気にしてないよね……」
 そんな事を呟く彼女に、フウタは。
「だから、一体何が――――」


 改めてそう聞こうとした瞬間――横に座っていたミオが、急に抱きついた。
「なっ! 急にびっくりするじゃないか」
 すると、ピッタリとくっついたまま、彼女はささやく。
「いきなりで、ごめんね。でも私、とにかくそんなフウマが大好きなんだ。だから今、せっかくだから――ね」
 彼女が言おうとしていること、それはフウマも、すぐに察した。
「――うん、いいよ、ちょっと恥ずかしいけど、あまり人もいないみたいだしそれに……僕もミオが大好きだって、そう伝えるのにも。良いと思うし。
 じゃあ――いくよ」
 フウマとミオ、二人は帆船の席に座ったまま顔を近づけ、互いの唇を……。




 ――――

 時間は――たった数秒。
 二人は顔を離し、互いにちょっと、気恥ずかしそうに笑い合う。 
「こうしてキスするの……G3レースの終わった後の、あの時以来さ。
 やっぱり照れるし、最近忙しくて、あまり機会だってなかったから」
 ミオも、かすかに頬を染めながら、こくりと頷く。
「私も恥ずかしいけど、ちょっとずつ、慣れていきたいな。
 だって私と、フウマ、こうして恋人同士に――なれたんだから」


 ……そう。今と同じように、G3レースが終わった後二人は、親善試合最後に交わした約束通り――キスを交わした。
 それは幼馴染であるのはもちろん、加えて正式に恋人としての関係にもなった……瞬間でもあった。
 と言っても、二人との関わり合いは、昔と比べて決して大きく変わったわけではない。
 ただ……。
「もちろん! 幼馴染としてもだけど、これからはちゃんと、僕の一番大切な人になる――ミオの為に頑張りたいんだ!」
 それでも、互いに恋人であると言う意識は、ちゃんとあった。
 大好きだと言う気持ちも、互いに伝え合いもするのはもちろん、決してそれだけではない。


 フウマは少しでも頼れるパートナーになろうと、色々と努力もしていた。学校での授業もこれまで以上に頑張り、機体の整備も学び、ミオの心配や負担を出来るだけ減らそうと励むように。
 他にも色々挑戦し、最近はミオに何か振舞えるように、料理にも挑んでいるらしい。
 母親が料理上手なこともあり、フウマは教えてもらっているらしいが……
「それはもちろん嬉しいけど……この前フウマが作ってくれたナポリタン、だっけ? 苦いような変に甘いような……何か、凄い味だったな」
 ミオは苦笑いしながら、そう話した。
 どうやらフウマが料理上手になるのは、まだまだ先の事らしい。

「あれはゴメン。頑張ったつもりだったんだけど、調味料の分量を間違えたみたいでさ。次からはもっと、気を付けるよ」
「でも、フウマのその気持ち、私はとても嬉しいんだ。
 いつか美味しい料理、楽しみにしているね。良かったら私も、教えてあげるから」
 そして――ミオも、世話焼きな所は相変わらずなのだが、近ごろはフウマに甘えたりする事も、多くなった。


 恋人として、頑張っている彼に対して、彼女もまた、もっと別の形でフウマとの絆を深めて行きたいと……そう願っていたから。
 フウマはレーサーとしての成長はもちろん、それとは別に、大切な彼女とともに――人としての変化も、またしつつある所だった。



 ――――

 空中帆船は都市に到着し、そのまま二人は宇宙港へと。
 目の前には、フウマのレース機であり、正式な宇宙船でもある――テイルウィンドの姿が。
「今からギャザーロードにまで行くわけだけど、少し、時間がかかるかもかな。
 ……まぁ、それまでゆっくりするのも、いいさ」
 そう軽く言う、フウマに対し、ミオは――  
「でも、ギャザーロードまでって、片道一週間も……するんじゃないの?
 確か直通のワープ航路がなくて、二、三回ワープしないといけないはずだし」


 通常空間と亜空間の境界線、そこの薄い空間から亜空間に突入し、亜空間をショートカットとし、遥か遠い通常空間に再出現する、ワープ航法。
 しかしワープが可能となるのは、その境界面が薄い地点に限る。そして、その場所は多いとは言えない。星から星への移動にワープは欠かせないが、場所によっては、片道一か月以上かかるなど、なかなかに不便なものではあるのだが……。


 これにフウマは、ふふん! と得意げに笑う。
「大丈夫! 実はギャザーロードへの航路、最近新しくなったんだ。
 丁度この近くにワープ可能な場所が発見されて、そこから一度のワープで、目的地に行けるようにね!」
 しかし――今なお、新しいワープ航路の開拓は、行っていた。
 日々ワープ可能な宙域が、新しく発見されこれまで遠かった場所は近くなり、新しい星や宙域も、次々と発見されていた。 
 何しろ宇宙は……広いのだから。



「だからそこを通れば、ギャザーロードには半日足らずで、行けるはずさ。そんなに時間はかからないから、安心して、ミオ」
 フウマはそう、安心させるように言った。
「へぇ! そうなんだ!」
「と言うことだから――行こう! シロノとも会いたいし、 そして……」
 

 目的地には――『ある人』も、彼を待っている、はずだ。
 こうしてフウマとミオ、二人はテイルウィンドへと乗り、ギャザーロードへと向かう。
 そんな中、フウマはふと、こんな事も考えた。

 ――そう言えば、みんなは今、どう過ごしているんだろうな――

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