テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
184 / 204
第十二章 Grand Galaxy Grand prix [Restart〕

復活のシロノ

しおりを挟む
――――
 
 フィナのアトリは、ワールウィンドの先を飛行していた。
 場所は、鋭く高い岩が伸びる岩場、先ほどフウマとジンジャーブレッドが、勝負を繰り広げた場所だ。
〈……やはりやるじゃないかよ。全然、追い越せそうにないぜ〉
 両者ともに高速で飛行するも、ワールウィンドはアトリの機動力に翻弄されている。
 やはり、この場所であればフィナとアトリに有利だ。
 岩場を上手い具合にかいくぐり、順調に先へと進んで行く。
 ――ふふっ、いい感じですね――
 自分でも手ごたえを感じているのか、満足そうなフィナ。
 全体的な順位を見ると、フィナはG3レースで三位にいた。
 後ろにいるリッキーは四位、二位と一位にいるフウマとジンジャーブレッドにも、あと一歩の所にまで来ている。
 彼女は嬉しそうに、微笑んで……。
 ――これなら約束通り、お姉ちゃんの分まで、私――
 


 そう思っていた時……。
 ――えっ、リッキーさんの後ろから、新たに二機――
 レーダー、そして後方の映像にはレース機が二機、接近して来るのが見える。
 それは……
 ――マリンさんのクリムゾンフレイムと、それに……シロノさんのホワイトムーン――
 迫る姿にフィナは、少し驚いているものの。
 ――けど、あの二人なら……当然かも。一度追い抜いただけじゃ、決着はつきませんよね――
 彼女は改めて、覚悟を決めた。
 クリムゾンフレイム、そしてホワイトムーンはまず、リッキーのクリムゾンフレイムへと迫ろうとしていた。


 ――――

 迫るクリムゾンフレイムと、ホワイトムーン。
 リッキーはその姿を見て……。
 ――二人も、ここまで来たか――
 そして、シロノに対しては……
 ――あの様子だと、どうやら持ち直したようだな。安心したぜ――
 安堵の表情を、リッキーは見せるものの。
 

 早速そのホワイトムーンが、岩肌をかいくぐり接近して来た。
 また、更にホワイトムーンから通信が入って来た。
 リッキーが通信を許可すると……。
〈やぁ、リッキーさん〉
 通信画面に映ったシロノに、リッキーはこたえる。
「おう! どうにか元気そうで、何よりだ」
 シロノは気恥ずかしいような、表情を見せる。
〈先ほどは……恥ずかしい所を、見せてしまいましたね。 
 ――ですが!〉
 

 途端、ワールウィンドのすぐ横に、あっと言う間にホワイトムーンが並んだ。
「何っ!」
 決してリッキーも、手を抜いているわけではなかった。
 むしろ本気で警戒し、リードを許さないでいたつもりだったのだが……。
〈ここからは私も、本気で行きますよ! 何しろ私たちは……レーサーですから!〉
 この発言に、ついリッキーも笑ってしまう。
「さすが、シロノって所か。やるじゃないか」
 同列に並ぶ二機。
 だがリッキーもまた踏ん張り、一度は並んだものの、そこからは互いに先を譲らず、互角の戦いを繰り広げる。

 
 シロノの方が有利であるものに、それを気力で補うリッキー。
〈ですが……リッキーさんも、やるものですね。ここまで頑張るなんて〉
「ハハハ! シロノの言葉を借りるなら、俺もレーサーだからな! 負けるわけにはいかないさ!」
 リッキーは豪快な笑いを、してみせた。
〈これでも私だって、本気なのですが……。ですが私ももっと――〉
 と、二人が戦いを繰り広げた、そんな時……。


 ホワイトムーンとワールウィンドが勝負を繰り広げていた、その隙に……マリンのクリムゾンフレイムが高速で追い抜いた。
 これには――
「ちっ! 抜け駆けとは、ずるいじゃないかよ!」
〈さすがマリン、と言うべきでしょうか。……私も、驚きです〉
 リッキーも、そしてシロノも驚くものの、このままではいられない。
〈ですが、私たちの勝負は終わってませんよ! そろそろ……決着をつけさせて頂きます!」
 これにリッキーは頷く。
「ああ! 勝つのは俺だけどな!」
 二人の勝負は、あと少し、続きそうだ。



 ――――

 一方、再びのフィナの方では……。
〈こんにちは。フィナちゃん……だったかしら? 良いレースをするじゃない!〉
 通信で、明るく呼びかけるマリン。
 フィナのアトリと、そしてクリムゾンフレイム……。彼女はマリンのリードを譲らず、高速の機体による攻勢を防ぐ。
「まさか私一人だと思って、油断していましたか? ……だけど私は、お姉ちゃんの分まで、頑張っていますから!」
 そうフィナは、不敵な笑顔を見せた。
 まるで姉のティナ譲りの……そんな表情だ。
 


〈いい顔ね、惚れ惚れしちゃうわ! ……と言っても!〉
 クリムゾンフレイムは鋭い岩をいくつも、稲光のように駆け抜け、再度アトリを責める。
「……くっ!」
 間一髪でそれを防ぐ、フィナ。
〈生憎と私は、シロノ一筋なのよね! G3レースの優勝と、シロノの愛は私が頂くわ!〉
「言うじゃ……ないですか。でも、私だって!」
 

 対するアトリも、その機動力によるディフェンスは、簡単に崩せるものではない。
 いくら出力が高くとも、邪魔な障害物の多い地形と、アトリを前に成す術もない。
〈ううっ! 悔しいけど、私だと厳しいわね〉
 この岩場地帯は、それなりに長い。
 惑星ルビーの最後の地形であるものの、まさかここで苦戦するとは……。
 そんなマリンに――、一機のレース機が迫る。



 ――――

 ――シロノってば、もう決着をつけたんだ――
 クリムゾンフレイムに迫るのは、シロノのホワイトムーンだった。
 どうやら、ワールウィンドの勝負に、勝利したようだ。
 機体から通信も入る。
〈どうやら、苦戦しているみたいですね、マリン〉
 これにはマリンも苦笑い。
「まぁ……ね。なかなか、きびしいかも」
 つい弱気をこぼしてしまう、彼女。
 シロノはそれに……。
〈良ければ、ここは私が力を貸しましょうか?〉
 この言葉に、マリンは可笑しそうな様子。
「気持ちは嬉しいけど、私一人でも……大丈夫。ここでシロノに甘えるのは、悪いかもだし」
〈私には、先ほどの借りがあります。だから……ここで返せれば、と思いまして〉
 シロノもシロノで、またそう思っていた。



 それにマリンは、少し考えた後…… 
「――なら、甘えちゃおうかな。ただし! この一戦だけってことでね」
〈了解しましたよ、マリン。
 それでは……行きましょうか!〉
 再びマリン、そしてシロノは、フィナのアトリを相手に立ち向かう。


 ――――

 今度は、一機から二機へとなり、自分へと迫る機体。
 ――マリンさんと、シロノさん、今度は二人がかりで……ってわけですか――
 二対一、いくらフィナでもこれは厳しい、状態ではあるのだが。
 それでも彼女は挫けない。
 ――けど! それでも私は――
 そこにはこれまでのような弱気さは、全くなかった。
 迫るクリムゾンフレイムと、ホワイトムーン。
 先に攻勢に出たのは、クリムゾンフレイムだった。
 高出力、高加速による勢いの良い、攻勢。だが……。
 ――同じ手は、効きませんよマリンさん!――
 フィナは難なく、それを防ぐ。
 いくら速度が高いからと言って、動きが分かりやすければ。


 ……と、今度はホワイトムーンが横から新たに、攻勢を仕掛ける。
 ――くっ!――
 今度はホワイトムーンの動きを、封じる。
 だが今度は再度、クリムゾンフレイムが加速をかけて追い抜こうとした。
 ――だから、させないってば! ――
 それでもクリムゾンフレイムの出力の高さ、もう追い抜かれる寸前であった。
 するとフィナはアトリの翼を折りたたみ、頑丈な本体で体当たりを加えた。
 それを食らって、ぐらりとクリムゾンフレイムは態勢を崩し、あわや岩に衝突しそうになる。 
 いつものフィナらしからぬ、かなり強引な方法――
 ――お姉ちゃんが一緒にいたら、こんな風だったのかな――

 
 クリムゾンフレイムはこれで後退した。アトリは再び、ホワイトムーンと対峙する。
 ――でも、二人を相手にするには、これくらい――
 フィナもまた全力で、レースに挑んでいるのだ。
 しかし……それはシロノ、そしてマリンも。



 ――――

 アトリとホワイトムーンが一騎打ちに入った時……。
 マリンは手早い操作で、クリムゾンフレイムを再起させる。
 ――まさかあの子が、あんな手荒い手段を使うなんてね――
 これには驚きだが、そんな事で挫けるような、彼女ではない。
 そして、ちょうどすぐ後方には、高い岩が存在していた。
 クリムゾンフレイムはブースターからの高エネルギーをその岩に叩きつけ、急加速で最接近する。
 

 迫るは、二機の勝負のさ中――。
 フィナはそれに気づいたらしく、すぐにそれを阻止しようとする。
 が、その隙にホワイトムーンはアトリの横に並び、彼女の動きを防いだ。
 ――ちょっとアレかもだけど、サンキュー、シロノ!――
 マリンはこの間に、一気に二機の横を駆け抜けた。
 


 続けて、シロノのホワイトムーンもまた、アトリを追い抜いて来た。
「……ありがとう。今回はちょっと、助かっちゃったかな」
 これには、通信画面のシロノも少し照れる。
〈先ほどのお礼、ですよ。少しくらいでしたら……ね〉
 ホワイトムーンと、クリムゾンフレイム。
 二機は岩場を、ついに脱出する。


 ――そして空に向かって、上昇を行う機体。
〈……さてと、約束通り協力はここまでです。ここからは改めて、勝負と行きましょう〉
 マリン、シロノは再び、勝負へと移った。
「そうね! でも、私は負けないわよ! これでシロノの愛も、頂きだわ!」
〈相変わらずですね、マリンは。でも……私だって、負けませんよ!〉
 惑星ルビーとも、これでお別れだ。
 大気圏の先にある、宇宙へと……二人は向かう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...